IKAROSは2011年12月末に、太陽角および地球角の増大により、電力の発生、地球との通信が困難となり、いわゆる冬眠モードへと突入しました。太陽光圧トルクの影響で流れていってしまう姿勢を元に戻すための姿勢制御用の燃料がいよいよ枯渇したため、IKAROSの姿勢が太陽方向から離れる方向に流されてしまったのです。ソーラーセイルは、太陽光圧によって大きく軌道が遷移します。姿勢がモニタできている状況であればセイルの舵取りをすることが可能ですが、一度通信途絶となると、姿勢のモニタができません。そうなると、セイルが太陽に対してどの方向を向いているのかを予測した上で、さらに軌道を予測する必要があります。この性質上、IKAROSの探索は、「はやぶさ」を通信断から復帰させた運用と比較しても、非常にハードルの高い挑戦でした。しかし、通信途絶となったIKAROSをそのまま漂流させておくわけにはいかない、そういったチームメンバーの強い思いから、自然と翌年の2月にIKAROSの探索運用が開始されました。

IKAROSを発見するための条件は三つありました。一つ目は電力を発生させるために太陽角が十分小さくなっていること、二つ目は通信を確立させるために地球方向とアンテナ方向が近い状態になっていること(地球角が小さくなっていること)、三つ目は臼田宇宙空間観測所の64mアンテナの通信可能な領域の幅にIKAROSが捉えられていること(軌道が決定されていること)です。どの条件についても、姿勢がどのように遷移するかによってまったく異なる結果になり得ます。

我々はまず、IKAROSの姿勢がどのように遷移するかシミュレーションを行ってみました。しかし、セイル裏面の光学定数などのモデル化しきれていない運動の効果による不確定要素が多過ぎて、無数の姿勢のプロファイルがあり得ました。ノミナルミッションが終了していることもあって、IKAROSの運用は、もはや週1回程度でしかできません。その少ない運用期間の中で大量の姿勢プロファイルを試行してみることは現実的ではありませんでした。とにかく、運用を実施する日に上記の3条件がそろうようなプロファイルだけを抽出して探索を続けました。

こうして探索運用を続けたところ、何と探索運用開始から7ヶ月後の2012年9月にIKAROSとの通信を回復することに成功したのです。後から分かったことですが、この時期が冬眠後最初にIKAROSが見つかるチャンスのあったタイミングでした。望みが薄いことは承知の上で、それでも必ずIKAROSが復帰すると信じ続けた結果でした。このときのチームメンバーの歓喜は、打上げ成功に勝るとも劣らないものでした。IKAROSを信じる心、これが発見のための四つ目の条件だったのです。

図1 姿勢プロファイルを探索するための姿勢運動のシミュレーションの例。1本1本のラインが天球上でのIKAROSのZ軸方向の数ヶ月分の予測履歴をメルカトル図法で表現したもの。わずかな光学定数の変化でプロファイルがまったく異なり、各運用日での姿勢予測が無数に存在していた。

図1 姿勢プロファイルを探索するための姿勢運動のシミュレーションの例。1本1本のラインが天球上でのIKAROSのZ軸方向の数ヶ月分の予測履歴をメルカトル図法で表現したもの。わずかな光学定数の変化でプロファイルがまったく異なり、各運用日での姿勢予測が無数に存在していた。

(みます・ゆうや)