法律や規則を用いて学術研究やプロジェクトを支える

科学推進部では、どういう仕事をされているのですか?

法務担当として、宇宙研で行われている学術研究やプロジェクトについて、法律や規則上の問題がないか確認したり、国内外の組織と取り決めを締結したりしています。法律や規則というと活動を制限するように思われがちですが、使い方次第では安心して研究開発を進めることができるようになります。

皆さん最初は、法律や規則はよく分からないし面倒だなという浮かない顔で、私たちを訪ねて来ます。そのときに重要なのは、相談に来た方が何をされたいか、どういう課題を抱えているかを、よく聞くことです。法律や規則だけでは白か黒か判断しにくいことも多いため、どう適用したら相談者の意向どおりにうまく進むか知恵を絞って考え、アドバイスをさせていただきます。話をしていく中で相談に来た方がホッとした表情を浮かべるときや、しばらくして「うまくいきました」とメールが届いたときなどは、とてもうれしいですね。

宇宙研の活動は幅が広いので、私たちが扱う案件も多様です。ですが、大変だと思ったことはないですね。今まで知らなかった研究に係る案件は楽しいですし、込み入った案件が来るとむしろ面白い!と思います。もともと好奇心が旺盛で、人の話を聞くのも好きなんです。それでも、う〜んと感じてしまう案件もありますが、そういう時は、色々調べて自分なりに面白いところを見つけ出しています。

スペースプレーンの実現を支える仕事をしたい

大学卒業後、航空宇宙技術研究所に入りました。その理由は?

子どものころからSFが好きでした。ジュール・ヴェルヌの『月世界旅行』や『海底二万里』など未知の世界を探検する小説をワクワクして読んでいました。その流れで、大学生のときに読んだ小川一水さんの『第六大陸』が、今に至る大きなきっかけになりました。近未来の月開発をテーマにしたハードSFで、地球と月を結ぶスペースプレーンが定期運航される時代も間もなく来るのではないかと、胸が躍りました。そのためにはスペースプレーンの開発や月面施設の建設だけでなく、法律の整備や運航サービスの提供なども必要なことを知りました。そこで、スペースプレーンの実現に必要な環境整備に関わる仕事がしたいと思うようになり、当時唯一、航空と宇宙の両方をカバーしていた航空宇宙技術研究所に入ったのです。

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翌2003 年、宇宙3 機関が統合してJAXAになりました。
やりたいと思っていた仕事はできましたか。

まだスペースプレーンが定期運航される時代にはなっていませんが、さまざまな部署を経験する中で、その土台になるような仕事にも携わってきました。例えば、超音速機の騒音を減らすための大規模な実験をスウェーデンで行うことになり、協力関係の枠組みづくりを担当しました。超音速機はスペースプレーンにつながる一歩です。また、日本初となるジェット機の飛行研究拠点を名古屋空港に整備したときには、実験用ジェット機の導入から、候補地の選定、施設の建設、拠点立ち上げまで担当しました。スペースプレーンが発着する宇宙港を整備するときに、この経験が生きるでしょう。

人を育てたい。ガニメデに行きたい。

今後、どのようなことをやっていきたいとお考えですか。

2つあります。1つ目は、人を育てること。宇宙研の大学共同利用課で大学院教育を担当していたとき、先生たちが学生のことを真剣に考え、とても熱心に指導する様子を見て、人を育てることがどれほど大変で、どれほど大切かを実感しました。現在は人材育成には直接関わっていませんが、特許出願の相談に来た学生の手助けをしたり、できることで貢献していきたいと思っています。また、娘が通っていた保育園から頼まれて、宇宙について話をしたことがありました。子どもたちは、目をキラキラさせて話を聞き、質問もたくさん出ました。宇宙の話をすることを通して子どもたちの好奇心を広げる。そういう活動もしていきたいです。

2つ目は、木星の衛星ガニメデに早く行きたい。大学時代、ジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』を読み、優しい巨人が住むというガニメデに思いを馳せたものです。そのガニメデの探査が、あと10 年ほどで実現しようとしています。ヨーロッパが主導し日本も参加している木星氷衛星探査計画ガニメデ周回衛星JUICEが2022 年に打ち上げられ、2032 年にガニメデの周回軌道への投入が予定されているのです。ガニメデは地下に海があり、生命が存在するかもしれないと言われています。私がガニメデに行くことはまだできませんが、JUICEがどのような世界を見せてくれるのか、とても楽しみです。

【 ISASニュース 2020年12月号(No.477) 掲載】