東京大学大学院理学系研究科
JAXA宇宙科学研究所
NASAゴダード宇宙飛行センター
国立天文台ハワイ観測所
京都産業大学理学部
アストロバイオロジーセンター

発表のポイント

  • アマチュア天文家が偶然発見した、太陽系外惑星系の重力レンズ効果による星の増光現象(重力マイクロレンズ現象)を追跡観測し、惑星系の質量や軌道を正確に測定した。
  • 主星は太陽よりやや軽い恒星で、惑星は地球の約20倍の質量をもつ。また、惑星の軌道半径は約1天文単位であり、この軌道は惑星形成時の「雪線」(水が凝結する境界)の位置に相当する。
  • この結果は、ガス惑星の活発な形成が予測される雪線付近において海王星(注1)程度の質量の惑星が豊富に存在する可能性を示唆している。また、この惑星系はこれまでに重力レンズ法で発見された惑星系の中で最も地球に近く(注2)、主星が明るいため、今後この惑星系についてより詳細な情報が得られると期待される。

発表概要

2017年11月1日(日本時間)に日本のアマチュア天文家が「重力マイクロレンズ現象」(重力レンズ効果による星の増光現象)を偶然発見し、その後海外のアマチュア天文家や研究者らの追跡観測によって、重力レンズを引き起こした恒星(Kojima-1L (注3))のまわりに惑星(Kojima-1Lb(注3))が存在することが明らかとなりました(図1)。

図1

図1:重力マイクロレンズ事象「Kojima-1」の想像図。全体図の左側に描かれている2本の矢印は、光源星(3つの明るい天体のうち、一番左側)の光が惑星系Kojima-1L(同中央)の重力レンズ効果で曲げられて太陽系(同右側)に届く光線を示している。これまでに重力レンズ法で発見された惑星系(全体図に赤色で示された点)はいずれも銀河中心(全体図右上)方向に位置し、Kojima-1Lに比べて距離が遠い。挿入図は惑星系Kojima-1Lを拡大した想像図。(Credit: 東京大学)

東京大学の福井暁彦特任助教、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の鈴木大介研究員、東京大学/NASAの越本直季学振特別研究員らの研究グループ(注4)はこの極めて稀な現象を国内外の望遠鏡を使って独立に追跡観測し、これまでに分かっていなかった惑星系の質量や軌道を正確に測定しました。その結果、主星の質量は太陽の約0.6倍、惑星の質量は地球の約20倍であり、惑星の軌道半径は約1天文単位であることが分かりました。この軌道領域は惑星形成時の「雪線」(水が凝結する境界)の位置に相当し、固体物質が豊富に存在するため、惑星が最も活発に形成されると考えられています。一方、この領域ではどの観測手法においても惑星を見つけることが難しいため、海王星質量以下の軽い惑星の探索はまだ十分に進んでいませんでした。今回、発見確率の低い海王星質量の惑星が偶然この領域で発見されたことから、雪線付近に海王星質量の惑星が豊富に存在している可能性が示唆されます。また、この惑星系はこれまでに重力レンズ法で発見された惑星系の中で最も地球に近く、かつ主星が最も明るいため、他の重力レンズ惑星系では難しい主星の分光観測が可能です。そのため、今後主星の詳細な特徴(年齢や重元素量など)を調べたり、惑星のより正確な軌道を調べたりすることが出来ると期待されます。

発表内容

研究背景

アインシュタインの一般相対性理論に基づき光が重力によって曲がる効果(重力レンズ効果)により、2つの恒星が視線方向にほぼ一直線に並んだ際に、手前の恒星(レンズ星)の重力によって遠方の恒星(光源星)の光が集光され一時的に明るくなる現象(重力マイクロレンズ現象)が見られます。このとき、レンズ星のまわりに惑星が存在していると、光源星の増光に特徴的なパターンが現れるため、このパターンを捉えることでレンズ星のまわりに太陽系外惑星(系外惑星)を発見することが可能です(図2)。この方法により、これまでに約100個の系外惑星が発見されています。

図2

図2:重力レンズ法の原理。地球からみて2つの恒星がほぼ一直線上に並んだとき、手前の恒星(レンズ星)の重力レンズ効果により遠方の恒星(光源星)の光が集光する(左上)。このとき、光源星とレンズ星の相対的な運動に伴い、光源星は両者が天球上で最接近する時刻を境に左右対称の光度変化を示す(左下)。一方、レンズ星(主星)のまわりに惑星が存在していると(右上)、惑星の重力が及ぼす効果により、主星と惑星の質量比や天球面上での位置関係などに応じて時間スケールの短い特徴的なパターンが光源星の光度変化に現れる(右下)。(Credit:東京大学)

一方、重力マイクロレンズ現象が生じる頻度は恒星が最も密集している銀河中心方向(いて座方向)を除いて極めて低いため、この手法による系外惑星探索は専ら銀河中心方向でのみ行われてきました。しかし、地球から銀河中心までの距離(つまり光源星までの距離)は2万8千光年ほど離れており、重力レンズを起こす惑星系もそのほとんどが距離1万光年以上の遠方にあるため、主星が暗く、発見後の詳細観測はこれまで困難でした。

このような状況のなか、2017年11月1日未明(日本時間)に日本のアマチュア天文家の小嶋正氏(群馬県)がおうし座方向で未知の増光現象(Kojima-1(注3))を発見しました。この方向は銀河中心とほぼ反対の方向で、研究者による集中的な重力マイクロレンズ探索は行われていませんでした。その後国内外でこの増光現象の追跡観測が行われ、この現象が近傍の星(距離約2,600光年)を光源星とする珍しい重力マイクロレンズ現象であることが判明しました。さらに、小嶋氏による発見の一報から約半日後(日本の日中)に、欧州のアマチュア天文家や研究者らによって、レンズ星に惑星が付随するときに見られる光度変化の特徴が捉えられました。

研究の内容

福井暁彦特任助教(東京大学)、鈴木大介研究員(JAXA宇宙科学研究所)、越本直季学振特別研究員(東京大学/NASA)らの研究グループは、小嶋氏による発見の一報を受けて、国立天文台の188cm望遠鏡、同91cm望遠鏡、東京工業大学の50cm望遠鏡(いずれも岡山県)、京都産業大学の1.3m望遠鏡(京都府)、JAXA宇宙科学研究所の1.3m望遠鏡(神奈川県)、カナリア天体物理学研究所の1.5m望遠鏡(スペイン・カナリア諸島)など国内外の複数の望遠鏡を用いて、可視光から近赤外線にかけて複数の波長帯でこの重力マイクロレンズ現象の追跡観測を行いました(図3)。

図3

図3:(上図)小嶋氏が発見した重力マイクロレンズ事象(Kojima-1)の光度変化。データ点の色の違いは望遠鏡や観測波長帯(バンド)の違いを示している。(下図)光度ピーク付近の拡大図。日本時間2017年11月1日未明に日本のアマチュア天文家(小嶋氏)が増光現象を発見し、その約半日後(日本の日中)に欧州のアマチュア天文家や研究者が惑星による光度変化パターンを観測。日本時間の同日夜から国内の望遠鏡を用いて追跡観測を開始した。(Credit:東京大学)

得られた光源星の光度変化のデータを詳細に解析した結果、レンズ星の明るさが各波長帯で求まり、これまで不明であった惑星系までの距離と主星の質量がそれぞれ約1,600光年および太陽の約0.6倍と求まりました。さらに、重力レンズのモデルから計算される主星と惑星の質量比や離角の情報をもとに惑星の質量と軌道半径を計算すると、惑星の質量は地球の約20倍、軌道半径は約1天文単位であることが分かりました。

この惑星の軌道は、惑星が形成されたと考えられる時期(恒星が誕生して数百万年後)における「雪線」(水が凝結する境界)の位置に相当しています(図4)。

図4

図4:これまでに発見された、太陽よりやや軽い恒星(0.4-0.8倍太陽質量)をまわる系外惑星の軌道と質量の分布。黒、青、赤のプロットはそれぞれ視線速度法、トランジット法、重力レンズ法で発見された惑星を示す(ただし視線速度法の惑星質量は下限値を表示)。本研究で質量と軌道を求めた惑星(Kojima-1Lb)の位置は緑で示している。灰色の色マップは今回の重力マイクロレンズ事象における惑星の発見確率(等高線の上から順に90%、70%、40%、10%)を表す。Kojima-1Lbの発見確率は約35%。(Credit: 東京大学)

この領域では、惑星コアの材料物質である氷成分が豊富に存在するため、惑星コアがガス惑星に成長するために必要な質量に短時間で到達でき、ガス惑星が効率的に形成されると考えられています。一方、このあたりの領域では他の系外惑星発見手法(視線速度法やトランジット法など)で惑星を発見することが難しく、特に海王星質量程度以下の軽い惑星についてはまだ十分な探索が行われていません。また、従来から銀河中心方向で行われている重力レンズ法による惑星探索では、雪線よりもやや(数倍程度)遠い軌道の惑星に発見感度が高く、やはり雪線付近ではまだ軽い惑星を見つけられていません(注5)。そのため、ガス惑星が最も盛んに形成される雪線付近の領域において実際の惑星の質量分布がどうなっているのか、まだよく分かっていないのが現状です。

一方、今回のような近傍の星を光源星とする重力マイクロレンズ現象では、ちょうど雪線付近の惑星を最も検出しやすくなります。Kojima-1Lbはまさにこの軌道領域で発見されました。一方、雪線付近に惑星が存在していたとしても、幾何学的な問題(光源星とレンズ星の相対的な運動の方向)により、必ずしもその惑星による重力の影響が光源星の光度変化として観測される訳ではありません。そこで、今回のKojima-1事象の観測における惑星の発見確率(雪線付近に海王星質量の惑星が1個存在していた場合に、その惑星が今回の観測から検出される確率)を研究チームが計算したところ、35%程度しかないことが分かりました(図4)。つまり、偶然発見された今回の重力マイクロレンズ現象において検出確率の低い海王星質量の惑星が検出されたことから、雪線付近には海王星程度の質量をもつ惑星が豊富に存在している可能性が示唆されます。

今後の展開

今回の観測から、この惑星系の主星がこれまでに重力レンズ法で発見されたどの惑星系よりも地球に近く、かつ最も明るいことが分かりました。他の惑星系では、主星が暗いために分光観測から主星の特徴(年齢や重元素量など)を調べることが困難でしたが、この惑星系では今後地上の大型望遠鏡(ハワイの口径8.2mすばる望遠鏡など)を用いて主星の詳細な特徴を調べる研究が可能です。さらに、現在計画が進められている口径30m級の地上巨大望遠鏡(TMTなど)を用いて主星の視線速度を測ることで、惑星の軌道要素のより正確な決定が可能になると期待されます。

また、同研究グループは現在、雪線付近の惑星分布をより明らかにするために、Kojima-1と似たような近傍星における重力マイクロレンズ現象を全天で探索することを計画しています。同計画では、2019年10月から本格稼働を開始した東京大学木曽観測所の105cmシュミット望遠鏡と広視野カメラ(Tomo-e Gozen; トモエゴゼン)も使用される予定です。

発表雑誌

雑誌名: Astronomical Journal
論文タイトル: "Kojima-1Lb Is a Mildly Cold Neptune around the Brightest Microlensing Host Star"
著者 : A. Fukui *, D. Suzuki, N. Koshimoto, E. Bachelet, T. Vanmunster, D. Storey, H. Maehara, K. Yanagisawa, T. Yamada, A. Yonehara, T. Hirano, D. P. Bennett, V. Bozza, D. Mawet, M. T. Penny, S. Awiphan, A. Oksanen, T. M. Heintz, T. E. Oberst, V. J. S. Béjar, N. Casasayas-Barris, G. Chen, N. Crouzet, D. Hidalgo, P. Klagyivik, F. Murgas, N. Narita, E. Palle, H. Parviainen, N. Watanabe, N. Kusakabe, M. Mori, Y. Terada, J. P. de Leon, A. Hernandez, R. Luque, M. Monelli, P. Montañes-Rodriguez, J. Prieto-Arranz, K. L. Murata, S. Shugarov, Y. Kubota, C. Otsuki, A. Shionoya, T. Nishiumi, A. Nishide, M. Fukagawa, K. Onodera, S. Villanueva Jr., R. A. Street, Y. Tsapras, M. Hundertmark, M. Kuzuhara, M. Fujita, C. Beichman, J.-P. Beaulieu, R. Alonso, D. E. Reichart, N. Kawai, and M. Tamura
DOI番号: 10.3847/1538-3881/ab487f

用語解説

(注1) 海王星の質量は地球の約17倍。

(注2) 主系列星(恒星)を主星にもつ惑星系の中で最近傍。

(注3) 重力レンズ法で発見される系外惑星系の主星と惑星には、慣例的にそれぞれ[増光事象名]L、[増光事象名]Lbという呼称名がつけられます。小嶋氏が発見した増光事象は当初「TCP J05074264+2447555」という長い名前で呼ばれていましたが、研究チームは今回、この増光事象に小嶋氏の発見を称えて「Kojima-1」という別称をつけました。

(注4) 本研究グループにはこの他、国立天文台、京都産業大学、東京工業大学、アストロバイオロジーセンター、総合研究大学院大学、および23の海外研究機関に所属する研究者と3人の海外のアマチュア天文家が参加しています。

(注5) 重力マイクロレンズ現象が最も頻繁に発生する銀河中心方向を対象とした惑星探索が大阪大学や名古屋大学を中心とする国際チーム「MOA」によって行われており、同チームによる近年の研究から、雪線より数倍程度外側の領域において海王星質量の惑星が最も豊富に存在することが明らかにされています。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20161216_1