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小型衛星(100kg以下の人工衛星)を多数機打ち上げて、地球上のあらゆる場所の「写真」を数時間以内という準リアルタイムで提供するサービスに注目が集まっています。自然災害などに対するオンデマンド観測に加えて、様々な分野(農業、水産、資源、森林管理、海洋監視、災害監視等)で利用され始めています。近年、小型衛星が数億円程度で開発・製作できるようになったことから、地球観測データをビジネスとして行うことも現実的になってきました。

しかし、「写真」は昼間の晴れた場所でしか撮影することができないという欠点があります。この欠点を補う方法として、SAR(合成開口レーダ)があります。SARでは衛星から発せられた電波が地上で反射し、再び衛星に戻ってくることを利用して画像を取得するものです。電波は地上が夜であっても、また曇りや雨であっても、地上に届きやすいという特徴があります。この特徴を利用し、地上の時間帯や天候に左右されずに地球観測ができるのです。例えば、小型SAR衛星を数10~100機超打ち上げて、夜間や曇でも「いつでもどこでも地球撮像」(全地球規模の常時観測)することで、ビジネスとしての利用が広がると見込まれます。

これまで、衛星搭載SARは、高度500km以上の軌道上からでも地表に届く電波を発するため数kWもの送信電力が必要とされてきました。また、地表で反射され衛星に届く電波は微弱なので、受信するためには数m以上のアンテナも必要でした。

このため、実用化されている最軽量のSAR衛星でも重量は300kgで、1機あたりの衛星開発・製造コストは100億円以上です。これでは、いつでも地球観測できるように多数のSAR衛星を運用することはできません。

このような状況を受け、齋藤宏文氏率いる研究チームは、データの性能は保ちつつ、低コストな小型衛星に搭載可能な小型SARの開発に取り組んでいます。

SAR衛星の小型化には、ロケット打ち上げ時に小さい体積に収納でき、かつ効率よく電波を受信できるSAR観測用のアンテナの開発が何よりも重要です。本研究グループでは、東京工業大学の研究チームとの共同研究で開発したハニカムパネルスロットアレイ・アンテナを、展開式アンテナに発展させました。ヒンジ部には、チョークフランジ(用語解説)を利用した導波管非接触給電(特許出願)を用いています。これにより、展開時には、4.9mx0.7mになるアンテナが、打ち上げ時には、衛星の側面に0.7m x 0.7m x 0.15m (片翼)に収納できます。このアンテナを用いると、0.7m x 0.7m x 0.7m3 のSAR衛星を構成できます。研究チームはすでに、電波特性の計測を行い、機械環境試験を終了しています。

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そしてもう一つの関門、強い送信電波を発生させる装置の開発です。このために、窒化ガリウムを用いた増幅器を新開発の6電力合成器にて合成した送信電力増幅器を開発しています。研究チームが開発中の送信電力増幅器は衛星構体板に直接取り付けられており、動作時に発生する発熱を蓄熱し、その後放熱させる工夫をしています。

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観測データを高速で地上へ伝送する送信機(通信速度1.5Gbps以上)は、東京大学の研究チームとの共同研究にて研究開発しています。2偏波利用、64/256APSKの通信システムを開発し、地球周回衛星での無線通信最高速度である1.5Gbps以上を高速通信機のエンジニアリングモデルを制作し、現在、試験中です。

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基礎開発と試作、試験を行ったことで、量産価格5億円を目指す100kg級小型SARの完成に一歩近づいたと言えます。研究チームでは試作した機器に対し、さらに詳細な試験を行い、改良を継続する予定です。