運用終了X線天文衛星「あすか」

ブラックホールやダークマターなど、宇宙の中でも高温で激しい活動領域から放射されているエネルギーを観測するためのX線望遠鏡である。「あすか」は、宇宙からのX線の写真を撮ると同時に、X線光子のエネルギー観測を行う。

回収型衛星 EXPRESS 磁気圏尾部観測衛星 GEOTAIL

宇宙の中でも高温でかつ激しい活動領域からは、線を中心に多量 のエネルギー放射が行われています。中性子星やブラックホールに極めて近い領域、あるいは超新星残骸、銀河や銀河団など、「激しく活動している」宇宙の本質を知るためにエックス線観測が欠かせません。

エックス線は、0.1から100オングストローム(1オングストロームは1ミクロンの1万分の1)程度の波長を持つ、電磁波の一種です。光子1個あたりの持つエネルギーでいうと0.1から100キロ電子ボルト程度になります。宇宙からやって来る宇宙X線は、地球をとりまく大気のために吸収されたり散乱されたりするため、地上で観測する事ができません。そのためにロケットや人工衛星を使って大気圏外で観測することが必要です。

「あすか」衛星は、宇宙からのX線の写真をとると同時に、X線光子一つ一つのエネルギー(波長)を高い精度で測定する事ができます。普通 の光と同様にX線にも波長の違い、つまり「色」があります。「あすか」衛星は、波長の長い「赤」から波長の短い「青い」X線までの色鮮やかなカラーの動画を撮ることができます。特に、世界ではじめて、宇宙の奥深くまでみることを可能にする「青い」X線(2から10キロ電子ボルト)で宇宙X線源を撮像できる能力を実現しました。この特徴をいかして、次のような目的で観測が行われています。

・宇宙の化学的進化の解明
・ブラックホールの検証
・宇宙における粒子加速の場所の確認
・ダークマター(暗黒物質)の分布とその全質量の決定
・宇宙X線背景背景(CXB)放射の謎の解明
・X線天体と深宇宙の進化の研究

機体データ

名称(打上げ前) あすか(ASTRO-D )
国際標識番号 1993-011A
開発の目的と役割 宇宙の科学的進化の解明、ブラックホールの検証、宇宙における粒子加速の場所の確認、ダークマター(暗黒物質)の分布とその全質量の決定、宇宙X線背景(CXB)放射の謎の解明、X線天体と深宇宙の進化の研究等を目的に、宇宙空間の星・銀河のX線観測、銀河団などの宇宙最深部のX線による観測を行う。
打上げ日時 1993年2月20日 11時00分
場所 鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)
ロケット M-3SIIロケット7号機
質量 約420kg
形状 高さ4.7m(伸展式光学ベンチ伸展時)
2枚の折りたたみ式(3つ折り)太陽電池パドルを備える
軌道高度 近地点525km 遠地点615km
軌道傾斜角 31度
軌道種類 略円軌道
軌道周期 96分
主要ミッション機器 ・X線望遠鏡(XRT)
0.5から12キロ電子ボルトまでの広いエネルギー範囲(従来はほぼ4キロ電子ボルト以下であった)のX線を効率よく集光する望遠鏡。
・X線CCDカメラ(SIS)
一つ一つのX線光子のエネルギーを計測する「フォトン・モード」での動作が可能なカメラ。ペルチエ素子による電子冷却と放射冷却により、-70℃まで冷却させて観測を行う。
・撮像型蛍光比例計数管(GIS)
「てんま」衛星に搭載された装置を改良した観測器。SISに比べて、広い視野を一度に観測出来る。
運用停止日 2001年3月2日
落下日 2001年3月2日
運用 打上げ後、望遠鏡の鏡筒に相当する伸展式光学台(EOB)の伸展に成功、観測を開始した。順調に観測を行ったが、2000年7月、折りからの活発な太陽活動のため地球大気が膨張、衛星は希薄な大気による摩擦を受けてスピン状態に陥り、観測は不能となった。最低限の機能により運用を継続したが、2001年3月2日14時20分頃、大気圏に突入し、消滅した。
観測成果 1993年3月17日、蛍光比例計数管によりX線天体の初めての撮像に成功、同年4月5日には、M81銀河に発見されたばかりの超新星SN1993JからのX線をとらえることに成功するなど、大きな成果を上げた。