プロジェクトの成功のために

宇宙科学プログラム室(PO室)は、どのような部署ですか。

科学衛星・探査機のプロジェクトを実施するにあたって、それに関わる一人一人の能力と活力を最大限発揮できる環境をつくることが、宇宙科学プログラム室の役割です。

宇宙研は、数多くの科学衛星・探査機を打ち上げてきました。なぜ今、そうした環境づくりが必要なのでしょうか。

宇宙研の以前の科学衛星は、研究開発の要素が強く規模も小さいものでした。近年では、規模も開発に要する時間もコストも大きくなっています。それに対応したプロジェクトの進め方が求められるようになったのです。

プロジェクトのメンバーは専門分野の知識には長けていますが、プロジェクトフェーズのどの段階で何を確認したり合意する必要があるかや、そのために何をして、どうドキュメント化する必要があるかなど、プロジェクトの進め方まではわからない場合があります。その情報収集や対応に追われると、創造的な活動に使える時間が削られてしまいます。これは、よい状況ではありません。そこで私たちは、プロジェクトメンバーの負荷を軽減しつつ必要なプロセスを効果的に進めてプロジェクトを成功に導くために、ガイドライン整備など様々な活動をしていこうとしています。

そうした支援をするときに心掛けていることはありますか。

まず、プロセスの多くが、プロジェクトにとって余計な仕事ではなく、よりよいミッションを実現するために便利に活用すべきツールであることを理解していただけるように、プロセスの背景や意味について情報発信したり、プロセスを改良したりしていきたいと考えています。また、どういうミッションを実現したいのか背景まで含め、じっくり聞いて理解したいと考えています。お互いの領域に一歩踏み込んで理解しあえば、共同作業の質が向上し進みも早いです。私の専門はX線天文学で、学生時代から衛星の運用や開発、データ解析に携わってきたことが、この仕事で活きているように思います。

宇宙でのMAXIの姿に感動

X線天文学のどのような研究をしていたのですか。

大学院では、X線天文衛星「ぎんが」や「あすか」のデータを用いた研究をしていました。内之浦宇宙空間観測所での両衛星の運用当番も経験しました。内之浦では衛星にコマンドと呼ばれる指令を送信し、衛星からのデータを受信します。衛星の状態はモニタにリアルタイムで映し出され、それを読み上げながら衛星の状態を確認しました。衛星と通信できる時間は限られているので、確認が間に合わなかったらどうしようと最初は緊張したのを覚えています。モニタ画面の絵を手書きしてマーカーで印をつけたり確認順番を書き込んで練習しました。

NASDAに就職後は、全天X線監視装置(MAXI)の開発や運用に携わりました。普通、人工衛星は打ち上げてしまうと、その姿を間近に見ることはできませんが、MAXIは特殊で、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に取り付けて観測するため、ISS上で働くMAXIの姿を鮮明な動画や画像で見ることができます。また、ISSは大きいため肉眼でも明るく見えます。空を移動するISSを見つけると、あそこにMAXIがあるんだと実感します。

発見は教科書の中にはない

子どものころは、どういうことに興味がありましたか。

不思議な現象に興味があり、テレビで超流動状態のヘリウムがコップから流れ出す様子を見て、わくわくしていました。「スペースシャトル」の運転手になりたいと思っていたことも。大学は工学部にしようかとも考えました。しかし、まだ何をやりたいのかはっきりしていなかったため、入学時には学科が分かれていなくて広く学べる京都大学の理学部に進みました。

その選択自体は正しかったと思います。新しいことは教科書の中ではなく、それを土台とした、試行錯誤の中で生まれることを知りました。学部生当時に退屈だったニュートンリングなどの基礎的な実験も、科学がたどってきた試行錯誤の歴史をもっと知っていたなら、興味をもって取り組めたと思います。もし学部生時代に戻れるのならば、ミリカンの油滴実験を体験してみたいです。

今後は、どのようなことに取り組んでいきたいですか。

MAXIのときのように、宇宙科学プロジェクトのメンバーとしてプロジェクトを実現したいという思いはあります。宇宙科学プログラム室で得た知識や経験も活かせると思います。しかし、「宇宙科学プロジェクトに関係する一人一人の能力と活力を最大限発揮できる環境づくり」が道半ばである今、一つのプロジェクトのみに集中するのではなく、全体の環境づくりに注力したいと考えています。今やるべきことは、プロジェクト実現に関するガイドラインや必要な情報を共有、蓄積、改良できるシステムの構築です。そういう環境が完成し維持されれば、将来にわたって多くのプロジェクトに貢献できます。将来、自分がプロジェクトをやるときにも役立つと思っています。

【 ISASニュース 2019年12月号(No.465) 掲載】