No.217
1999.4

ISASニュース 1999.4 No.217 


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糸川先生のご逝去をいたむ

戸田康明  



 糸川先生のご逝去の報を新聞紙上で知りました。我が国でロケット開発の初期親しくお付合いしたころのことを思い出し悲しみにたえません。ご冥福を祈ります。

 実は,私は先生と同年の生まれ,淋しい限りです。糸川先生に協力してロケット・モーターの開発を始めたのは1953年であり,敗戦によって航空業務を米国から禁止されてから7年経過したその翌年のことでした。糸川先生は「航空機はジェット機時代となり日本で今からやるのは手おくれだ,やるならロケット飛行機だ 」というので,東京〜ニューヨーク間を2時間,日帰りも出来るような飛翔体構想を持ち,当時学生だった秋葉先生に紙製模型を作れと命ぜられたと聞いています。

 私は当時日産の荻窪工場の技術部長で,上役の中川取締役から糸川先生の御指示に従ってロケット開発を担当せよと命ぜられ,ロケットのロの字も知らぬのに困ったなと思いました。1953年10月,初めて糸川先生に面接し先生の熱意に感銘し御協力を誓いました。先生の頭の鋭さ,理解の早さ,大臣級の人なども説き伏せる能力,報道陣への宣伝・応対等その行動力はただ驚くばかりでした。

 お目にかかってから約1年,完成したのは何と極小のペンシル・ロケット。この小さなロケットを用いて計画実行された実験は次のとおりです。

(1)ノーズ・コーン形状の決定。
(2)尾翼形状。矩形,三角翼等々から玉木先生の指示でクリップトデルタ形を決定。空力中心測定決定。その後のロケットはすべてこの形をしている。
(3)ロケット重心と空力中心の距離をかえて飛翔の安定性を調べる。このために,突端部の金属をアルミ,銅,鉄とかえる。又尾翼の角度をかえて旋転させたときの軌道の計測等。



 実験は,国分寺旧中央工業のピストル射場で水平発射し,軌道を計測するためにランチャー前方にうす紙を貼った衝立が林立させられ,打ち抜かれたロケットの中心線をたどって経路が測られた。安価な小型ロケットを多数使い,水平発射でなければ出来ない実験だった。小型で何だと笑う人がいたがおかしい。

 なお糸川先生は主任とて,実験場所上段に着席,電球を10個ほどつけ,ロケット運搬終了,ランチャ装置終了等実験準備に従ってライトをひとつずつ消し,最後に30秒前からカウントしゼロで発射,これまた何と大げさと笑う人がいたが,この方式は秋田でも内之浦でも方式は多少異なっても引き継がれている。

 糸川先生は次いで空へ向けての発射場として秋田実験場の決定をされた。1955年,秋田で行われたベビー・ロケット実験では,ベビーSの飛翔安定を確認後,ベビーRでは植村先生の写真機を搭載し,これを上空で開傘回収をする実験に成功。さらにベビーTでは高木,野村両先生や電気メーカーの方々の参加でテレメーターの実験,これによって各方面の専門家を集結し,システム体制による実験をいち早く具体化されたことになる。

 IGYに間に合ったカッパ6型以降,K-9Mで高度350kmと予想されるや,いち早く鹿児島内之浦に実験場を移設されたこと。ラムダ人工衛星への検討会の発足,さらにはミューの直径を1.4mに決められたこと等,1963年ごろまでに糸川先生が主として決断また実施にうつされた御功績は誠に多い。

 ただ先生とのお付合いは,ほぼ1953年からの約10年間に限られ,鹿児島内之浦で東京大学ロケット実験が順調に進められるようになると,糸川先生はただ1人鹿屋に宿泊され,単独行動されることが多くなった。次いでそのころから,一部報道員らによる糸川先生への批判攻撃が新聞,週刊誌等を賑わわし,高木先生の引き止めにもかかわらず突如東大教授を辞任されてしまった。1965年以降組織工学研究所長としてロケット業務から手をひかれ,OB会等にもほとんど出席されなくなったことは残念であった。

 だが,糸川先生が我が国でのロケット開発のパイオニアであり,今は宇宙科学研究所のロケット業務が順調にすすめられている功労者であることはうたがいのないことである。


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