第8章 究極の固体ロケットをめざして

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M-V各段の制御方式

【第1段のピッチ、ヨー制御】

M-V第1段のピッチ、ヨー制御は可動ノズルTVC(Thrust Vector Control)装置によって行われている。液体ロケットでは、燃料を柔軟性のある配管で燃焼室に導き、その小さな燃焼室を振って推力の方向を変えるが、固体ロケットでは機体全体が燃焼室といってよいので、まさにノズル部分だけを変形させて推力方向を変える方法がとられる。これが可動ノズルで、積層のゴムで作られ燃焼室の高圧、高温の環境に耐えつつも確実にノズルを変形させる技術である。わが国ではM-3SIIロケットのサブブースタSB-735で初めて確立された。

SB-735では、ノズル駆動の動力源は電動モ-タによる油圧だったが、このM-V第1段TVCでは、小さな固体燃料によるガス発生器を用いたターボポンプの油圧で駆動されている。打上げ直前にロケットの後端から黒い煙がもくもくと出ていたのに気づかれたと思う。これがそのガス発生器の排ガスである。同じような可動ノズルの方式は、第3段TVCにおいても採用されているが、駆動方法はもはや油圧ではなく、電動となっている。これは、第3段モータでの主な外乱がモータ自身の推力ミスアラインメントであるため、大きな振れ角は求められず、かつ振れ角の速度も大きくないため、重量を軽くできる方式を選択した結果である。

【第2段のピッチ、ヨー制御】

第2段のピッチ、ヨー制御はこれに対して、液体噴射のTVC方式が採用されている。ロケットの性能は各段の燃焼はできるだけ速い方が有利で、各段のモータはできるだけ連続的に燃えるよう工夫されている。このために、M-Vロケットでは、すでに紹介されたように Fire In the Hole(FIH)と呼ばれる方式が採用されている。

FIH中は下の段とのクリアランスを確保しなくてはならないが、第2段点火初期には大きな制御力が必要になるから、ノズルは幾何学的には固定しておきたいわけである。ノズルを固定してかつ制御力を得る方法を模索した結果、この第2段のTVCが液体噴射のTVC方式となったわけである。LITVC方式は、小型の固体ロケットの制御方式として有力な方法とされてきたのだが、FIHを考慮して敢えてこの手段がとられた。

【キックステージの制御】

第4段(キックステージ)は、性能重視の極限であるスピン安定化方式を採用している。スピンアップには、専用のスピンモータが用いられている。従来M-3SIIではSide Jetによって行ってきたのだが、月・惑星探査機の打上げではより高い投入精度が求められ、このスピンアップ時に発生する姿勢のずれを最小限に止めなくてはならないため、上段ステージの重心を含む面にできるだけ近い位置に新たなスピンモータが搭載されることになった。

【第1、2段ロール制御と第2段燃焼終了後】

これには、経験を重ねてきたアクチュエータであるSMRC(SMSJ)がM-3SIIに引き続いて用いられている。第3段の燃焼終了後(3軸制御)は、ヒドラジンを燃料とするSJ装置が採用されている。同種の装置が過去のMロケットでも採用されてきたが、これは「ひてん」衛星で採用されていたものを設計変更してロケットに搭載したもので、実は全く新たな試みだった。

【姿勢、航法基準装置(ING)】

このM-Vから一新された。コンピュータ部分はすでにM-3SIIの登場時にディジタル化されていたが、センサー部分は、最初のMロケットの時代から一貫して1軸のスピンプラットフォームを用い、FRIGという型のジャイロを用いてきた。このM-Vの最大の特徴でもあるのは、新規に導入されたファイバジャイロによる姿勢、航法基準装置である。

ファイバジャイロというのは、光ファイバの中を回転方向と順方向と逆方向に進むレーザ光の走るべき見かけの距離の長さに差が生じることを利用する。これを干渉光として検出する仕掛けで、機械的な可動部分が全くない最新型のジャイロである。

21世紀には主流となると目されているが、これまでは航法演算にかなうほどの安定度を引き出すことができなかった。今回初めてM-Vロケットで登場したジャイロはこの点で画期的なものといえる。M-Vでは、搭載計算機の処理能力も格段に向上し、高速の座標変換も可能になったため、これをストラップダウンという機体に固定して取り付ける方式が採用された。

【制御論理】

M-Vロケットの姿勢制御論理は、高周波域におけるダイナミクスの不確定性をいかに排除できるかを焦点に設計されている。制御論理の構造そのものは、先進のH無限大制御という論理を用いて工夫されていて、地道にそのパラメータのチューニングを重ねたものである。

第3段のスピンアップフェーズでは、第4段切離しまでのニューテーション発散を抑制するために、アクティブニューテーション制御論理が初めて採用された。これまでの宇宙研の衛星は比較的衛星搭載の液体燃料が少なかったが、M-Vで予定されている探査機では、かなりの燃料の搭載も予定されているため導入されたものである。機体が縦長の場合にはわずかな液体燃料の運動にともなうエネルギーの散逸も姿勢の発散につながる危険性があるが、これを抑制しようというのが、この論理の主眼である。幸いにして、飛翔前に我々が想定した種々の不確定性への対処は十分であったようで、第1号機を無事飛翔させることができた。M-Vロケットは、このように、全てが新しい要素だったが、これにも関わらず全ての段で所定の制御を達成できたことは、事前の解析作業やその内容が妥当であったことを示すものといえるだろう。

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