第5章 M-3SIIロケットとハレー彗星探査

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飛翔

「発射、正常!」

2カ所の目視監視所からの報告が届く。本番の指令電話に響く声は、練習の時と比べ、さすがに大きく鋭くなっている。

「10、11、……」「飛翔径路、正常!」

右耳で場内放送から流れてくる下村のカウントアップを聞き、左耳で指令電話でさまざまなセンターからの追跡情報を聞く、不思議な「時」が刻まれていく。

(フムフム、可動ノズルはうまく働いているぞ)

「20、21、……」「3.6mレーダ、ロックオン! 飛翔正常!」

(ヨシヨシ、3つのレーダの情報はすべて、飛行が順調なことを示している。標準飛翔径路の真上をまさになぞるようになめている)

「31、32、33、……」「まもなく補助ブースタを分離します!」

一瞬スタッフの目が、飛翔保安指令卓の上の小さなテレビに釘づけになった。

「40!」 暗闇のなか、ロケットの排炎を背景にして、明瞭なシルエットが補助ブースタの切離しを映し出した。機上のテレビカメラが見事に働いたのだ。

「ヨシ、やった!」 一様にみんなの小さな叫び。

「50」「60」「飛翔径路正常!」

「70!」(第1段燃焼終了だ!)

「RG(電波誘導)コマンド送信!」前田行雄の声がコントロールセンターにこだまする。

「84」(第1段分離だ!)

「86」(さあ、第2段点火。推力方向制御装置作動開始)

次にひかえる最大のイベントはノーズフェアリング(頭部カバー)の分離である。

「155」「ノーズフェアリング分離確認!」

(ああ、探査機が薄い大気にさらされている。高速で突き進むロケットの先端に鎮座して心細かろう。もうすぐだ。もうすぐ、必ず目標の軌道に入れてやるからな)

「160」 第2段ロケットが燃焼を終えた。さて、どの方向に向けて第3段を点火しようか。軌道ディスプレイの画面に8つの目が吸い寄せられる。

「160」(姿勢基準が打出し方向に向けられていく。見事な結果だ。ほとんど予定どおりの数値になっている)

もっともすばやい判断を必要とする瞬間を突破した。あとはサイドジェットによるスピンアップを待つだけだ。

「190」「200」「210」「220」(スピンよ上がれ、はやくしろ)

「235」「スピン、1.9ヘルツです」

「よーし、飛翔保安上はもう心配ない。そちらにお任せ!」

ロケットが異常になった時の非常措置を受け持つ飛翔保安の監視から、探査機をできるだけいい軌道に投入する電波誘導のための監視に、管制権が移行した。いつものことながら、バトンタッチを終えて、飛翔保安チーフの顔に安堵と疲労が一気に拡がる。

「251」「第3段ロケット、点火確認!」

テレメータ・データをもとに描きだす加速度と内圧のカーブが、小さな画面上で標準カーブのそばを通り抜けていく。ニッコリ見合わす顔と顔。

「365」「火が、ついた?ついた?」 なじるような質問が指令電話で飛びます。

「ついた!よし!」

キックモータに火がついた、火がついた……、コントロールセンター内を、発射管制室を、レーダセンタを……、確認のささやきがざわめきのように伝わっていった。

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