No.274
2004.1

宇宙工学の目指すもの

ISASニュース 2004.1 No.274 


- Home page
- No.274 目次
- 新年のごあいさつ
特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
- 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
- 太陽系形成の歴史を探る
+ 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

- BackNumber

次期輸送システム

 宇宙研における輸送系の研究は今,曲がり角に来ています。新機関全体としては,統合による民営化や衛星打上げ体制の組み換えなどのあおりで,現在の輸送システムからの発展や将来に向けての投資をどうするかなど,多くの課題の解決が統合後に先送りになっています。M-Vロケットも打上げ主体としての役割を終え,宇宙基幹システム本部に協力する形での関与は続くでしょうが,これまでのように工学全体を挙げての取り組みから次の目標をどうするかが問われています。

 新しいロケットの研究や開発を実機の飛行を伴って行う仕事は,衛星ミッションのようにスポットで,一発の方法では立ち行かないのは事実です。これまで宇宙研で培われてきた推進系からシステムまでの基礎研究の結果を,実機の飛行を行う機能までを維持して輸送システムの「新しい展開」につなげることが今われわれに与えられた課題と知るべきでしょう。飛ばすハードウェアに触れてやる仕事や,飛行実験の運用から得られた結果の解析まで,統合後もわれわれが先人から引き継いだ経験や体制を継続することが,輸送系研究集団のプロモーションにぜひとも必要です。さもなければ,大学との差別化や新機関内他本部の研究開発を標榜する集団との区別がなくなって存在意義が崩れます。

 「新しい展開」の中身ですが,大きな流れで言うと,輸送システムの将来は「使い捨てから再使用へ」というのは誰も文句を言いません。ただし,いつどの規模で,について合意や社会的要請が成熟していないことも事実で,工学研究のみが目的では大きな投資は得られないのは当然です。本当の「再使用」の世界が回転するのは,人間をどんどん往復させるとか,けた違いに大量の物資を輸送するとかの需要が必要で,そうでなければ経済的にはペイしないのです。このような世界に到達するのに20年という人もいるし,100年でも無理という人もいます。いつ実現するかを見てから遅いとか早いとか言うのは評論家のやることで,われわれの仕事ではありません。再使用のメリットの認知が得られて,質的に異なる次の需要が成熟するような仕事こそ今,必要なことでしょう。

 今われわれは「実験機」と称しておもちゃのようなロケットを何回も飛ばして,繰り返しロケットを飛ばすとはどんなことかをカラダで勉強する仕事をやっています。もっとやれと言う人もいますが,ただ危ないことをやっているだけと言う人もいます。まあ意見が分かれるのは新しいことをやっている証拠と思って,これが発展して今の観測ロケットの規模で,打ったら目の前に帰ってくるロケットを弾道飛行させて,サイエンスやマイクロGの人たちがこれまでの使い捨てロケットとは質的に異なる使い方をしてくれれば,利用も広がって再使用のメリットの認知が広がるのではないかと考えて活動しています。ロケットという意味では同じですが,「再使用」という新しいシステムを世の中の役に立つように「更地に道を引く」の類の仕事だと思います。環境はずいぶん違いますが,ある意味でわれわれの先生のまた先生たちが日本で初めてロケットを始めたときと状況は似ているとも思います。

 新しい仕事をするには,出来上がった世界を維持するのとは異なるエネルギーや元気の出し方が要ります。今のロケットや衛星のように決まった仕事をただ決まったやり方でこなすのでなく,中途半端なコストダウンの圧力に翻弄(ほんろう)されるのでもなく,トラブルシュートに優秀な研究者が忙殺されるのでもなく,世の中を前に進めるために新しいアイデアの出し方や,もの作りのやり方に自由度の大きい状態で仕事をする土俵が今,必要ではないでしょうか。エンジンや構造や材料やら空力やらシステムやら,経験豊富な専門家もそろっています。若い人たちが元気を出す状態も作れるでしょう。21世紀になってからまだ3年しかたたないのに明るい未来の話はどこに行ってしまったのかと思うこのごろですが,工学の求心力になり得ることも含め,今の宇宙研にふさわしい仕事ではないでしょうか。

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みんなでよってたかってやってます



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