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No.274 |
まとめにかえてISASニュース 2004.1 No.274 |
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2003年10月にJAXAが発足してから3カ月余りが慌ただしく過ぎてみると,まるで1年以上たったような錯覚に襲われるのは,年をとった私の世代だけなのだろうか? 人間は,生まれたばかりのときが最も生命の危険にさらされるという。この時期を上手に乗り切れば,人間として生きていくために大切なものが養われると。誕生間もないJAXAが直面しているのは,まさしくそのような危機であると認識している。 その危機の様相は,日本という国のかじ取りの人々はもちろん,総合科学技術会議,学術会議などの諸組織と枠組み,今回の行政改革を核とするJAXAの誕生環境という大波に翻弄(ほんろう)され続ける船のように見える。嵐にもてあそばれる船ならば,乗組員の団結こそ最優先して考えられるべき課題である。嵐を嘆くだけでは始まらない。何よりも,内発的に危機克服の声が高くなることが,現在のJAXAの至上命題ではなかろうか。 工学も理学も含めて,宇宙科学という領域は,基盤技術に数々の課題を抱える日本の宇宙開発を救う鍵を握っている。それは相模原キャンパスだけの問題ではない。筑波にも調布にも,科学を発展させる大元である,世界の動向をにらみながら自由な発想で未来を展望し,独創的なチャレンジをしていく風土が存在しなければならない。 JAXAの方針は,筋の通った一つのものを掲げるべきであるが,それは近視眼的で狭量なものではなく,これから出来するさまざまな状況に柔軟に対応できる重層的で数枚腰のものでありたい。他方で,内部の議論は多発的で口角泡を飛ばすものであってほしい。 その際に,宇宙科学という学問については,IT,環境,バイオ,ナノテクと並列的に肩を並べて覇を競うような性格ではなく,これらの領域のすべて(もちろん他の多くの分野も)を基礎にして組み立てていくという立体的な位置付けも大切なのだと思う。これは,私たち自身が,ターゲットだけで学問を分類する考え方から一歩脱け出て成長しなければならないということである。 2004年の初の特集は,相模原キャンパスを中心に全国の宇宙科学の仲間たちがこれまで自由に描いてきた近未来のビジョンを集めた。この特集を読む人たちが,自身の関係する計画を眺めるだけでなく,他の人々の心に去来している宇宙理学と宇宙工学のイメージをじっくりと味わって,これから建設する私たちの将来への激しい議論の共通の土俵としたい。その上で,JAXA改革へ烽火(ほうか)が高く上げられるといいな,と考えている。 私たちの胸に,半世紀前に日本に宇宙の風をもたらした糸川英夫先生率いる少数の若い研究者たちの志が明々と燃え盛ることを願いながら,まとめとしたい。 (ISASニュース編集委員長 的川泰宣) |
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