No.274
2004.1

これまでの成果

ISASニュース 2004.1 No.274 


- Home page
- No.274 目次
- 新年のごあいさつ
特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
- 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
- 太陽系形成の歴史を探る
- 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

- BackNumber

 1970年,日本初の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功して以来,「宇宙研」はL-4SM-4SM-3CM-3SM-3SIIM-Vと固体ロケットの能力を次々と高め,24の衛星・探査機を軌道に投入してきました(デルタIIによるGEOTAILH-IIによるSFUを含めると26になる)。この間,100kgにも満たなかった科学衛星は2トン近いものに大型化し,また探査機を遠く火星軌道にまで送り込むことができるようになりました。そして,衛星の精密姿勢制御,軌道上での大型構造物展開,惑星探査機搭載機器の軽量化・精密化等々,多くの宇宙工学技術が開発されてきました。

 このようなロケット技術,衛星・探査機技術の開発に支えられ,また国内の大学・研究機関の研究者の献身的な貢献や広範な国際協力による世界の研究者の支援により,スペースにおける天文観測,その場観測による太陽系科学が大きく発展してきました。

 スペースに出て行う天文観測の大きな利点は,何と言っても,大気の吸収・散乱のため観測できなかった波長域の電磁波が観測できるようになることです。そのようなスペースからの天文観測で先陣を切ったのは,X線天文学の分野です。1979年に打ち上げられた「はくちょう」を皮切りに,1983年「てんま」,1987年「ぎんが」,1993年「あすか」と,次々とX線天文衛星が打ち上げられ,宇宙像が次々と塗り替えられてきました。特に,ブラックホールのすぐ近くにまで迫る極限状態の物理の探求や,銀河団を包む1000万度から1億度もの超高温ガスとその後ろに潜む暗黒物質の研究は,人類の知の最前線を切り開いてきたといえます。そして,残念ながら打上げに失敗してしまったASTRO-E衛星の再挑戦機ASTRO-EIIが,あと1年ほどで打上げを迎えます。

 「はくちょう」に2年遅れで打ち上げられたのが,わが国初の太陽X線観測衛星「ひのとり」です。小田稔・元宇宙科学研究所長の発案による「すだれコリメータ」を用い,太陽表面のフレア現象の解明に多くの先駆的な仕事を成し遂げました。そして「ひのとり」の業績を継いだ衛星が,1991年打上げの「ようこう」です。「ようこう」には,世界初のXCCDを用いたX線望遠鏡が搭載され,激動のコロナの世界を明らかにしました。そして,X線と可視光の同時観測によりさらに太陽フレア現象の根源に迫るSOLAR-B衛星が,2006年に打ち上げられます。

 X線観測によって開かれたスペースに出て行う天文観測は,続いて赤外線に広げられました。1995年に打ち上げられた宇宙実験・観測フリーフライヤー(SFU)に搭載された小型赤外線望遠鏡(IRTS)は,星・星間物質・星間塵などからの広い波長域の赤外線を広範囲にわたって観測しました。そして,それらの蓄積の上に立って,これまでの感度を数十倍上回る赤外線全天サーベイを主目的としたASTRO-F衛星も,開発が進められています。

 スペースに出て行う天文観測のもう一つの利点として,地上での観測の限界精度を大きく改善できる点があります。その利点を追求し,X線・赤外線に続いた天文衛星が,1997年に打ち上げられた電波天文衛星「はるか」でした。「はるか」においては,軌道上で8mもの口径を持った電波アンテナが展開され,地上の電波望遠鏡と組み合わせた超長基線干渉計(VLBI)観測が行われ,大質量ブラックホールが活動の中心と考えられている活動的銀河核の精密な撮像に成功してきました。そしてその成功は,次期電波天文衛星VSOP-2計画に引き継がれようとしています。

 スペース天文学と並んで宇宙科学観測の双璧を成すものが太陽系探査です。「その場」へ直接観測装置を送り込むことにより,惑星の構造・進化や,太陽系諸現象の解明を行います。その先陣を切ったのは,1978年に打ち上げられた「きょっこう」「じきけん」などによる地球磁気圏の諸現象を探る研究です。これらの研究は,1990年代に入って「あけぼの」(1989年打上げ),GEOTAIL(1992年打上げ)により,大きな発展を遂げました。「あけぼの」とGEOTAILは,10年以上にわたって観測を継続中で,その蓄積された知見には大変大きなものがあります。その結果,磁気圏尾部における粒子加速の原理的理解にもう一歩と迫っており,その「もう一歩」を大きく踏み出すため,SCOPE衛星が計画されています。

 地球磁気圏研究で始められた「その場観測」は,1985年の国際的なハレー彗星探査に加わった「さきがけ」「すいせい」により,惑星間空間に広がりました。そして,「ひてん」(1990年打上げ)により月周回衛星が試験され,月の内部構造や組成を調べるLUNAR-ASELENEが打上げを待っています。月・惑星探査はさらに広げられ,1998年には火星探査機「のぞみ」が打ち上げられ,小惑星サンプルリターン計画「はやぶさ」(2003年打上げ)が小惑星「ITOKAWA」に向かって飛行中です。そして,太陽系探査はさらに金星探査計画PLANET-C,水星探査計画BepiColomboへと広げられます。さらに,将来に向けての惑星間航行技術を目指したソーラー電力セイル実証計画や,月・惑星表面での移動観測車の開発を目指した月着陸探査技術実証計画が予定されています。


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