No.274
2004.1

新年のごあいさつ

ISASニュース 2004.1 No.274 


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特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
- 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
- 太陽系形成の歴史を探る
- 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

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鶴田浩一郎 宇宙科学研究本部長 


 明けましておめでとうございます。

 私たち日本の宇宙にかかわる者は,昨年後半の3カ月間にすさまじい激震を経験いたしました。10月1日に宇宙機関を統合した宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足し,H-IIAロケット号機の失敗,地球観測技術衛星「みどり」の機能停止,そして火星探査機「のぞみ」の火星周回軌道投入断念をこの短い期間に経験することになりました。日本の宇宙はどうなっているのだと国民の皆さまからおしかりを受け,かつご心配いただくことになりました。2004年の新年は,このような背景を背負っての幕開けであります。この事実を踏まえた上で,宇宙科学研究本部(ISAS)の2004年を考えてみました。

 まず第一に,昨年に引き続き3件の不具合について原因究明の努力を続ける必要があります。特に宇宙科学研究本部は,「のぞみ」の火星軌道投入を断念するに至った経緯を調べ,直接の原因となった不具合の発生がなぜ避けられなかったのか,十分な検討を行う必要があると思っています。

 第二は,現在進行中の衛星ミッションについて再点検を行う必要があると考えています。点検の方法,内容については宇宙工学委員会の委員長に検討をお願いしてありますが,打上げを控えた衛星について十分「手が打てる」時期に再点検を行い,必要なら「手を打つ」ことをしたいと思います。最初の対象は,打上げ予定が最も早いLUNAR-Aの衛星本体,搭載ペネトレータ,打上げロケットとし,次いでしかるべき時期にASTRO-EIIの再点検を行いたいと思います。

 第三はJAXAの組織整備です。JAXAの骨組みは3カ月前の発足時にすでに出来上がっていますが,まだ動くとギシギシきしみ音が出る状態です。本来ならこの数カ月の間に調整が進んでいて,もっとスムースな動きができるようになっていたはずでした。しかし,連続した不具合のため調整作業が遅れて現在に至っています。特に宇宙科学研究本部は,大学共同利用機関としての機能の維持,学術としての宇宙科学研究の推進といった他の本部とは異なった目的を掲げているために,JAXA全体の仕組みと微妙な違いが生じる可能性があります。さらに,急激に組織の規模が大きくなったために起こっている混乱や不都合など,組織の「初期不良」を退治してJAXAを機能的な組織に仕上げていくのも今年の課題であろうと考えています。

 第四は,宇宙科学のロードマップに関する問題です。本特集号では宇宙からの天文観測,太陽系科学,宇宙環境科学,これらを可能とする宇宙工学のそれぞれの立場から近未来の方向性について話題が出されています。

 私はかつて,宇宙理学委員会でESAの「コーナーストーン」ミッションに似た考えを提案して大ブーイングを受けたことがあります。そのとき,私の頭にあったことは,科学衛星に必要な技術がどんどん高度化して,衛星本体(バス)の開発期間と特定の機器の開発期間との間に不整合が起き始めているということでした。これを解消するには,時期を特定しないミッションを仮定して,難しい技術だけを別途開発すべきだという提案をしました。これに対する反対の理由は,衛星計画は毎年一つずつ宇宙理学委員会なり宇宙工学委員会で決めるべきで,難しい技術の部分だけをあらかじめ採用するのは大きな不公平を招くというものでした。この考えはM-3SIIロケットの時代,すなわち1990年を中心にしたわが国の宇宙科学の黄金時代の一般的な考えだったのです。

 現在,宇宙科学は1990年代とは異なった考えを採ろうとしています。科学者の集団が毎年一つの衛星計画を決めていく代わりに,長期的な視点に立ったロードマップを作り,その筋書きに沿って計画を進めようというものです。一見,合理的に思えますが,どこかに落とし穴はないでしょうか。このことも含め,今の日本で宇宙科学を本気で進めるにはどうすれば良いのだという議論をお願いしたいと考えています。

(つるだ・こういちろう) 


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