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No.274 |
理学と工学のスクラムでISASニュース 2004.1 No.274 |
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本特集号で取り上げる将来計画は,いずれも研究者のボトムアップの提案に基づいたものです。つまり,ピュアレビューという厳しい評価・批判を戦って,本当に優れた計画であることを示すのが条件です。4〜5ページの「開発中のミッション」は,この試練を通ったものです。「検討中のミッション」は,これからこの評価を受ける,いわば将来ミッションの候補という位置付けです。 宇宙研における工学研究の顕著な特徴の第一は,最先端へのチャレンジが挙げられます。科学の分野では,常に「世界一」または「世界初」が求められます。どんな学術論文でも,すでに外国で発表された内容の二番せんじはまったく評価されませんし,そもそも二番せんじでは,論文として採択すらされないのはご存知のとおりです。科学的発見は,世界「初」が,そして「初のみ」が意味を持ちます。世界で2番目の発見は,世界で1000番目の発見と変わるところがありません。 これに関しては,いかなる言い訳も許されません。「予算が不足したから,2番目の発見で我慢する」というわけにはいきません。例えば,予算不足で日本のある科学衛星プロジェクトが1年延びたとしましょう。その間に外国が類似のミッションを成功させたら,日本のミッションはキャンセルするしかありません。 このように科学は大変厳しい土俵の上で,常に諸外国と競争しているといえましょう。NASAの十数分の一の宇宙科学予算であっても,わが国はテーマの重点化を図って,少なくとも参加した宇宙科学の分野では,世界水準を抜く成果を挙げることに全力を注ぎ,その結果,日本の宇宙科学が世界でも極めて高い評価を得てきたのは,このような背景があったからです。 第二の特徴は,理・工一体の研究体制が挙げられましょう。宇宙研の工学は,大学の組織に準拠しながら,一方で理学といういわば「お客さん」を同じ組織内に持っています。これは一見ささいなことのように見えて,実は極めて特異な状況です。工学の研究者が,研究のための研究にふける余裕はなく,常に世界最先端を求める理学の,そのまた最先端にあることが求められます。つまりシーズ志向の研究ではなく,ニーズ志向それも上に述べたように大変厳しいニーズを志向した研究が絶えず行われています。 ここでいうニーズは,科学衛星プロジェクトに必要な技術のことです。科学衛星プロジェクトを縦糸とすると,それを支える工学の研究分野はいわば横糸と見ることができるでしょう。例えば,小惑星サンプルリターンミッションという縦糸を実現するために,軌道,姿勢,電気推進,通信,構造,材料,空力,情報処理,電源,人工知能,航法,誘導等々,数多くの横糸の各分野がそれぞれ最先端の技術を開発して支援する必要があります。そしてこの横糸は,他の縦糸となる科学ミッション(例えば,水星探査ミッション,金星探査ミッションなど)を共通的に支えていくことになります。 以上,多少抽象的な記述になってしまったので,例えば次のような仮想的な会話をお聞きいただきましょう。仮想の会話とはいえ,この種のやりとりは,宇宙研の理学と工学の間に,日常的になされています。
この仮想問答は多少マンガチックにしてありますが,先端的研究の切迫感,理学・工学一体の研究体制,外国との競争の実態などの片鱗(へんりん)をお分かりいただければ幸いです。さて,前置きが長くなりました。以下に,宇宙研で進行中の理学・工学研究の例をいくつかご紹介しましょう。
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