美笹深宇宙探査用地上局(MDSS)

美笹深宇宙探査用地上局の概要


美笹深宇宙探査用地上局の整備に至る背景
臼田宇宙空間観測所は、口径64mアンテナを擁する我が国唯一の深宇宙探査用地上局として30年以上にわたりJAXA及び海外の宇宙機関の深宇宙探査ミッションを支えてきました。

しかしながら、64mアンテナは既に設備としての設計寿命を大幅に超えています。また、近年の深宇宙探査ミッションの高度化は、より多くのデータ受信を必要とするようになり、2014年に打ち上げられた「はやぶさ2」でも、64mアンテナで対応可能な周波数(X帯)を超えて、より高い周波数(Ka帯)を新たに利用する計画です。そのため、JAXAでは新しい深宇宙探査用地上局を開発・整備するプロジェクト(GREATプロジェクト)を2015年11月に立ち上げ、2021年3月に完成させました。

美笹深宇宙探査用地上局は、現行の地上局を継いで現状及び今後の深宇宙探査用ミッションを確実に支えるため、「はやぶさ2」から採用したKa帯にも対応できます。また、深宇宙探査だけでなく将来の月・ラグランジュ点ミッション支援への拡張性を備えています。

また、2021年6月には、美笹深宇宙探査用地上局の更なる信頼性及び運用性を向上させることと、海外機関の探査機支援を柔軟に行うことを目的として、GREAT2プロジェクトを追跡ネットワーク技術センター内に立ち上げ、活動を開始しています。最終的には2024年3月までに完成させる予定としています。


■美笹深宇宙探査用地上局の目的
現行の地上局で実績のあるX帯での送信・受信による探査運用を継続し、新たにKa帯受信にも対応することで、JAXAが自立して革新的な深宇宙での探査成果を生み出し続ける運用能力を確保します。

■美笹深宇宙探査用地上局の特色
64mアンテナよりアンテナ口径を縮小しつつも、64mアンテナと同等以上の受信能力を維持し、日射や風圧に抗して高精度に探査機を追尾できるアンテナと送受信装置を統合したシステムです。

■機能及び性能

名称

美笹深宇宙探査用地上局

定常運用開始

2021年4月(信頼性及び運用性を更に向上させたシステムとしての定常運用開始は2024年4月)

建設地

長野県佐久市前山字立科1905-43
位置:東経138度21分08秒、北緯36度8分28秒、海抜高:1612.75m(アンテナ高32.75m)
世界測地系(ITRF座標)
敷地面積:8ヘクタール(80000平方メートル)

設計寿命

20年以上

アンテナ方式

鏡面修正カセグレンアンテナ

口径

54m

重量

約2200t

マウント方式

Az-El方式

給電方式

集束ビーム給電方式

周波数範囲

■探査機追跡管制用
 X帯送信(7145MHz〜7235MHz)
 X帯受信(8400MHz〜8500MHz)
 Ka帯受信(31800MHz〜32300MHz)
■測地VLBI用/For geodetic VLBI
 X帯受信(8200MHz〜8700MHz)

送信性能

X帯送信利得:69.62dBi以上
X帯送信電力:20kW以上(EIRP:142.5dBm以上)

受信性能

■X帯G/T:53.35dB/K以上@仰角15°〜80°
 X-band G/T : 53.35 dB/K
■Ka帯G/T:59.33dB/K以上@仰角15°〜80°
 上記G/Tは、伝搬損失(大気吸収損失と降雨損失の和)を含む実効的なG/T値である。


■臼田宇宙空間観測所にある64mアンテナとの比較
64m局と美笹深宇宙探査用地上局の比較を下表に示します。美笹深宇宙探査用地上局のアンテナ口径は54mですが、受信系の高性能化(鏡面精度、指向精度、受信機の性能向上)により、現行局と同等以上の受信性能を有しています。



■その他の設備
(1)GNSS受信設備
準天頂衛星システムのモニタ局であり、54mアンテナ(VLBI観測局)とのコロケーションを取るため、国際的な測位分野で非常に有益な観測局となることが期待されています。
取得された観測データはIGS(International GNSS Service:国際GNSS事業)へ日々提供され、活用されています。本局はIGSでID:MSSA00JPNとして登録されています。




(2)電波シーイングモニタ装置
電波が地球の大気を通過するときに位相のゆらぎ「電波シーイングといいます」が発生します。周波数が低い場合は電離層の電子密度のゆらぎが主な要因となり、周波数が高くなるほど対流圏の水蒸気密度がその主要因となります。高い周波数を扱う美笹局などの大型アンテナでは、観測時に大きく影響を受けるため、電波シーイングモニタ装置を設置して常にモニタしています。



(3)水蒸気ラジオメータ装置
高い周波数では大気中の水蒸気量によって電波の減衰量が左右されるため、水蒸気ラジオメータにより常に大気中の水蒸気の状態を監視しています。

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