【豆知識】
パラボラアンテナの性能を決める一つのパラメータとして開口能率があります。開口能率は電波を集める開口面積(理論的な実面積)と実際に電波を集めることができる有効面積(実効面積)との比で表わされます。この開口能率を低下させる原因として、副反射鏡やそれを支えるステイによる物理的な遮蔽がありますが、主反射鏡の鏡面精度(表面の凸凹)が支配的となります。この凹凸を測定する方法として、フォトグラメトリー法(※1)と電波ホログラフィー法(※2)の2つの方法があります。
美笹局の54mパラボラアンテナの鏡面精度は、このフォトグラメトリー法と電波ホログラフィー法の2通りで測定し、おおむね230μm[rms]の精度、つまり、凸凹がクレジットカードより薄い範囲に収まっているということが確認されています。
下の写真はフォトグラメトリー法での観測を行う際にアンテナに貼り付けたターゲットマーカを夜間に撮影したものです。アンテナ主反射鏡上に一様に分布しているものがターゲットマーカ―になり、日中は確認できませんが、夜中に光を当てるとその場所を確認することができます。
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※1 フォトグラメトリー法
鏡面に反射板を貼り付けて、複数の観測点から撮影して得た2次元画像から、視差情報を解析してアンテナ鏡面の凸凹を測定する手法
※2 電波ホログラフィー法
静止衛星などから放射されたビーコン電波を測定するアンテナと参照アンテナとでそれぞれ受信し両者の信号の相関*を取ることで電波望遠鏡の放射パターンが得られる。これをフーリエ変換することで電波望遠鏡の開口での電界分布を求める。この電界分布の振幅が照射分布、位相が鏡面誤差(凸凹)となる。
*:電波望遠鏡単独での強度ビームパターン(強度のみ)と(電波望遠鏡-参照アンテナ)からの位相ビームパターンを組み合わせて、複素ビームパターンとし、そこからフーリエ変換して鏡面での電界分布(強度、位相)に戻します。
【※2の図解】
a)理想的な主反射鏡鏡面で静止衛星を測定した場合
b)電波ホログラフィー法での主反射鏡鏡面形状(凸凹等)の解析
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★☆関連記事(美笹局で水メーザW3(OH)の初観測)☆★
アンテナの性能検証(Validation)を行うため、JAXAと大阪府立大学との共同研究で22GHz帯水メーザ受信システムを開発し、初観測を行いました。
アンテナのポインティング(指向)精度は、アンテナが持つ機械的誤差や地盤の傾き及び周辺環境により誤差を生じますが、これを取り除くため位置が正確に求められカタログ化されている恒星を追尾することで、この誤差成分を解析し、これを補正することで指向精度を向上させます。
美笹局では32GHz帯の受信系を有していますが、32GHz帯の強い電波を出している恒星が少ないため、22GHz帯の水メーザから放射される電波を受信できる受信システムを大阪府立大学※との共同研究により新たに開発しました。
今後、同システムを使用してアンテナの性能検証及び性能向上を図っていく予定です。
以下の写真は22GHz帯常温受信機になります。電波を取り込むホーン、分光計及びこれらの処理プログラムを大阪府立大学が担当し、受信機、ネットワーク等の周辺装置をJAXAが開発しました。
↑美笹局に設置された22GHz帯常温受信機(一番上にある円錐のようなものがホーン)
試験観測期間(2020/9/16〜9/18)はあいにく雨天でしたが、大質量星形成領域かつUltra Compact HII領域のW3(OH)水メーザー※の初観測に成功しました。その後、順次他の水メーザ観測に成功!
↑AC240分光計で観測した水メーザW3(OH)のスペクトラム
↑開発及び観測に参加したJAXA職員及び大阪府立大学の皆さんです。
夜中の観測にも関わらず受信に成功したため疲れが一瞬に吹き飛びました。
※2022年4月1日から大阪市立大学と大阪府立大学が統合して現在は大阪公立大学となっています。