Last Modified: 02/04/2022 12:48:44

2021年度X線天文学演習

海老沢 研 (ISAS/JAXA, ebisawa AT isas.jaxa.jp)


Overview

Understand production mechanisms of high energy radiation, in particular X-rays, in the Universe. Also, learn principles of X-ray observation from space using artificial satellites. Understand how to handle and analyze data to study physics of X-ray sources. Practical examples are given as much as possible.
Having taken these exercises for a year, students are expected to ...
   understand principles of X-ray observations,
   be able to read papers on X-ray astronomy,
   be able to analyze X-ray data taken by various X-ray satellites,
   be able to write observation proposals for X-ray observatories, and
   be ready to write a paper on X-ray astronomy.

Method

Before each lesson, a presenter is assigned in advance, and his/her tasks are given according to theme of the lesson. The presenter works out on the tasks, explain the theme to the participants, so that all the participants understand the theme. Participants are encouraged to give a lot of questions, and active discussion is expected.

We intend to use white-board more than projector, since it is important to understand things by manipulating hands. Participants are expect to bring calculator as well as note and pen. We expect students to make calculation and take notes by hand through the lecture.

日本語が不得意な参加者がいない限り、日本語でやることにしましょう。


Time and Location

ISAS, building A, 6th floor meeting room (A1639)
Friday, 17:00 - 18:30

Web access

You may remotely join the meeting using Zoom at https://zoom.us/j/3936986923 (password proteceted)
Webで入った学生は、名前、所属、指導教員を述べてください。出席状況は指導教員に伝えることにしています。


ML アーカイブ

https://basil.pub.isas.jaxa.jp/mailman/private/xae/

第1回 (2021年6月4日): Review of Fundamental Physics

担当:栗原

第2回 (2021年6月11日): Review of Fundamental Physics

担当:栗原

第3回 (2021年6月18日): Basic Astronomy and X-ray Astronomy  

担当:宮川
  1. 講義資料を説明してください。
  2. 最近、約20年ぶりに明るくなり、ほぼエディントン光度で光っていると考えられるX線天体(ブラックホール連星系)の例を示せ(これです! )。

2021年6月25日

東京大学大学院理学系研究科物理学教室コロキウムを聴きましょう。

【講演者】Chris Done氏(University of Durham)
「Black holes, Einsteins gravity and rocket science 」


第4回 (2021年7月02日): What to know about black holes

担当:大間々

第5回 (2021年7月09日): What more to know about black holes

担当:大間々
  1. 講義資料を説明してください。
  2. 超新星爆発の後に形成されるブラックホールの最小質量は3太陽質量程度と考えられている。3太陽質量のブラックホールがホーキング輻射によって蒸発するには、およそ何年間かかるか?地球上の人類はそれを観測することができるか?

第6回 (2021年7月16日): Methods of astronomy and high energy astronomy 1

担当:宮本
  1. 講義資料の"Constellations"から"Satellite attitudes and observing targets"までの説明をお願いします。
  2. 講義では伝え忘れたのですが、変光星の命名法を説明してください。検索するといろいろな資料が出てきます。 ウィキペディアAAVSO植村先生の講義資料などを参考に。
  3. 自分の得意なプログラミング言語を用いて、赤道座標、黄道座標、銀河座標間の座標変換を行うツールを作成してください。HEASARC cocoの結果と比較して、動作確認してください。

2021年7月23日は「スポーツの日」でお休みです

第7回 (2021年7月30日): Methods of astronomy and high energy astronomy 2

担当:長塚
  1. 剛体回転におけるオイラーの定理、「剛体中の固定点を中心とする回転は、その点を通る軸のまわりの回転で表せる」ことを証明せよ。
  2. 四元数とはどのようなものか、説明せよ。
  3. 3つの四元数、q, q', q''があるとき、結合法則q(q'q'')=(qq')q''を証明せよ。
  4. 三次元空間におけるベクトルの回転と四元数との関係を説明せよ。
  5. 四元数は、オイラー角と同様、人工衛星の姿勢を記述する際に用いられる。オイラー角と四元数の関係を説明せよ
  6. 講義資料の "Satellite attitudes and quaternion (q-parameters)" を説明してください。

第8回 (2021年8月06日): Methods of astronomy and high energy astronomy 2

担当:長塚
前回の続き(四元数)。

第9回 (2021年8月13日): Methods of astronomy and high energy astronomy 4 (東大講義ノート)、ラグランジェ点 (立教講義ノート)

担当:中間
  1. 講義資料の"Orbits and astronomical objects"から、最後("Satellite orbits around the L2 point")まで説明してください。
  2. 上で地球からSEL2 (Sun-Earth Lagrange point 2) までの距離を求めた。同様に、地球からSEL1までの距離、SEL3までの距離を求めよ。
  3. 地球-月のL2点 (Earth-Moon Lagrange Point 2; EML2)に超小型探査機を送る日本の計画を紹介せよ。
  4. 現代の国際社会における、地球ー月系のラグランジュ点の戦略的な重要性を考察せよ (防衛省の資料アメリカのthink tankのレポートなどを参考に)。
  5. (応用問題) 月からEML2までの距離を求めたい。月の質量は地球の質量に比べて無視できないので、地球からSEL2までの距離を求めた時のような簡単な近似ができない。 月からEML2までの距離を、数値計算によって求めよ。こちらの公開JAXA資料を参考に。この文献の(4.16)式の数値解は、こちらで求められます。

8月20日と27日は夏休みとしましょう。 Have a happy summer holiday!

第10回 (2021年9月3日): "High Energy Astronomy instruments (東大講義ノート)", "高エネルギー天文学の観測装置 (立教講義ノート)"

担当:中間
  1. 講義資料を説明して下さい。
  2. 「宇宙空間」の定義は?
  3. 宇宙空間に行くことと無重力とは関係がないことを説明してください (立教講義ノートのほうだけに説明があります)。
  4. 「地下無重力実験センター」とはどんな施設か、説明してください。
  5. 同じガス(Xeなど)を使っていても、比例計数管(「ぎんが」のLACなど)よりも、蛍光比例計数管(「てんま」のGSPC、「あすか」のGISなど)の方がエネルギー分解能が良いのは何故か、説明せよ。
  6. Xeを使った蛍光比例計数管よりも、Siを使ったCCD (「あすか」のSISなど)のほうがエネルギー分解能が良い理由を説明せよ。

9月10日は、日本天文学会直前なので、お休みとします。学会発表する方、頑張ってください!

第11回 (2021年9月17日): "X-ray astronomy satellites and instruments (東大講義ノート)", "高エネルギー天文衛星 (立教講義ノート)"

担当:大間々
  1. 講義資料を説明して下さい。
  2. X線マイクロカロリメーターでは、エネルギーが高いほどエネルギー分解能が良くなること、回折格子では、エネルギーが低いほど分解能が良くなることを説明せよ。

第12回 (2021年9月24日): "High Energy Astronomy instruments (東大講義ノート)", "高エネルギー天文学の観測装置 (立教講義ノート)"

担当:中間
前回の残り

第13回 (2021年10月1日): "Method of astronomy and space astronomy instruments (東大講義ノート)", "人工衛星と探査機の軌道 (立教講義ノート)"

担当:稲葉
  1. 楕円を正確に描く方法を示せ(ヒント:楕円とは2つの焦点からの距離の和が一定の点の軌跡)。
  2. 2009(H21年)度 東京大学院大学院天文学専攻入試問題、物理学1を解くことによって、ケプラーの第一、第二、第三法則を証明せよ。
  3. 講義資料の "Satellite orbits, orbital six parameters, Two Line Elements (TLE)" を説明してください。
  4. 日本から見たとき、できるだけ天頂付近に滞在する時間が長くなる衛星(準天頂衛星)の軌道は、どのように設計したら良いか? また、その軌道を、地表に投影したら、どのように見えるか?(これらの動画を参考に;動画1動画2)
  5. 「すざく」、「ひとみ」の軌道傾斜角は、約31度である。これらは何できまっているか?
  6. すざく、NuSTARなどの地球低軌道(Low Earth Orbit; LEO)衛星と、 Chandra, XMM, INTEGRALなどの高軌道衛星の軌道を比較し、 それぞれのメリット、デメリットを二つずつ挙げよ。(ヒント:地球周辺の磁力線
  7. 1996年から2002年まで稼働していたBeppoSAXはLEOを持ち、その軌道傾 斜角はほぼ0度であった(赤道上空を周回)。BeppoSAXは、より軌道傾斜角 が大きい(>30度)LEO衛星に比べ、バックグラウンドが低く安定しているとい う利点があった。それは何故か? (ヒント、というか答えはこちら)

第14回 (2021年10月8日): "X-ray emission mechanism 1 (東大講義ノート)"、"X線放射機構(1) (立教講義ノート)"

担当:八木

講義資料を説明して下さい  (black bodyの前まで)。

第15, 16回 (2021年10月15, 22日): "X-ray emission mechanism 2(東大講義ノート)"、"X線放射機構(2) (立教講義ノート)"

担当:浅葉
  1. 講義資料を説明して下さい。
  2. 色温度、有効温度、輝度温度の違いを説明せよ。
  3. 色温度と有効温度の違いを考慮しないと、中性子星やブラックホールのX線スペクトルデータの解釈において、どのような間違いを犯すことになるか?

第17回 (2021年10月29日, 11月5日):"X-ray emission from accretion disk"(東大講義ノート)、"降着円盤からのX線放射" (立教講義ノート)

担当:栗原
  • 講義資料を説明して下さい。
  • 各円環からの放射スペクトルが黒体放射で与えられる"disk blackbody"モデルを考える (xspecではdiskbb)。内縁の境界条件を無視すると、 エネルギースペクトルは、内縁半径rin, 内縁温度Tinだけで決まる。
    1. 質量Mの天体の周りの降着円盤スペクトルが、disk blackbodyで表されるとする。その内縁半径はISCOで(シュバルツシルト時空を仮定)、円盤がエディントン光度で光っているとき、 TinとMの関係を求めよ。
    2. 中心天体の質量が大きくなると、降着円盤の内縁温度は高くなるか、低くなるか?
    3. 以下の場合について、Tinの値をみつもれ。M=108太陽質量のAGN, M=10太陽質量の連例ブラックホール、M=1.4太陽質量の中性子星。

    第18回 (2021年11月12日): Poisson distribution. χ2 distribution, χ2 test.

    担当:大間々
    Problems :
    1. Poisson distribution とχ2 distribution :定常天体を観測した時、光子数の分布はポアソン統計に従うことが知られている。
    1-1. ポアソン分布の平均と分散を求めよ。(海老沢ノート4:10.1節)
    1-2. ポアソン分布(平均μ)と正規分布(平均μ、分散μ)を比較し、μがいくつを超えると、ポアソン分布は正規分布で近似できるか説明せよ。
    1-3. ある確率変数 x が平均μ 、標準偏差σの正規分布に従うとす る。これから、自由度Nのカイ二乗分布に従う確率変数を作れ。
    1-4. 自由度Nのカイ二乗分布の平均は何か。

    2. Root Mean Square (RMS)spectrum
    2-1. 天体のエネルギーバンド毎の変動を調べるときによく用いられるRoot Mean Square (RMS)spectrum とはどういうものか、説明せよ。
    2-2. ある銀河系内ブラックホール天体を2-10 keVのエネルギー範囲で観測し た。エネルギーバンド毎のRMSスペクトルを調べてみたところ、6.4 keV 付近 で大きく下がっていた。これを物理的に解釈せよ ( こちらの論文の図3)。
    2-3. 多くのAGNのRMSスペクトルにおいて、1 keV付近にピークがあることが知られている。これを物理的に解釈せよ (こちらの論文の図8,9,10)。

    3. χ2 test :
    3-0. 仮説検定で用いられる、p 値とは何を表すか説明せよ。
    3-1. カイ二乗検定の検定方法を説明せよ。(海老沢ノート4:10.5節; Lampton et al. 1976) 
    3-2. X線天文学でよく使用されるスペクトル解析ツールxspecを用いてモデルを仮定してデータをフィットし、モデルの妥当性を判定する。また、フィット結果から、モデルパラメータの値とそのエラーを見積もってみる。
    ここでは、あすか衛星による3C273のエネルギースペクトルを用いることにする。
    3-2-1. 簡単なモデル、星間吸収を受けたべき関数(wa*power)でデータをフィットし、このモデルが妥当かどうか、判定せよ。
    3-2-2. 3つのパラメーター(水素柱密度、べき、べき関数の規格化定数)それぞれのベストフィットの値と、90%エラー範囲を求めよ。
    3-2-3. これら3つのパラメーターは相関している。相関しているふたつのパラメーターの組について、χ2のコントアを描くことによって、90 %エラー領域を求めよ。(あすか解析マニュアルを参考に)

    第19回 (2021年11月19日): 立教大学・JAXA宇宙科学技術講義 (17:10-18:50)

    担当:海老沢
    立教大学で、JAXA宇宙科学技術講義・高エネルギー天文学の講義をします。宇宙研6階会議室からリモートで行う予定です。学部の授業なので、今までX線天文学演習で実施したような内容を、易しくコンパクトに説明する予定です。X線天文学演習の受講生は、立教のzoomに入ってください。

    講義資料: (OneNote, pdf)


    第20回 (2021年11月26日): Poisson distribution. χ2 distribution, χ2 test. (続き)

    担当:大間々

    第21回 (2021年12月3日): 特殊相対性理論 (の復習)

    担当:中間
    1. 1981年に初めてクェーサーからの「超光速運動」が観測された。それを報告した論文 ( Pearson et al. Nature, 1981, 290, 365)のアブストラクトはわずか一行、以下の通りである: "Maps of the radio structure of 3C273 show directly that it expanded with an apparent velocity 10 times the speed of light from mid-1977 to at least mid-1980."
      1. この現象は、光を放出する物体が光速に近い速さで観測者に向かって運動している場合に観測されることを説明せよ。
      2. 物体の速度をv、観測者の視線方向との角度をθとする。 見かけ上の速度が最大になるθとその最大速度を求めよ。
    2. 四次元座標(x, y, z, t)で表される慣性系Kと、(x',y',z',t')で表され る慣性系K'を考える。x=x', y=y'とし、K'はKに対し、z方向に等速度vで動 いているものとする。
      1. 虚数iを導入し、(x,y,z,ict)と(x',y',z',ict')の間の変換式(ローレンツ変換)を4x4行列を用いて表し、 この行列が直交行列であることを示せ。
      2. 3次元空間の回転において2点間の長さが変わらないように、ローレンツ変換は、4次元時空の回転 (=長さが変わらない)だと解釈できる。ローレンツ変換に従う量を、4元ベクトル、その長さをローレンツ不変量という。座標、四元速度、四元運動量、電磁波の波数は四元ベクトルである。それらのローレンツ不変量の物理的意味を説明せよ。
      3. ローレンツ変換を用いて、同じ時計の進み方を、KとK'で測定したときの進み方を比較せよ。
      4. ローレンツ変換を用いて、同じものの長さを、KとK'で測定したときの違いを比較せよ(ローレンツ収縮)。
      5. Kに対して+z方向に速度uで動いている物体を、K'で測定したときの速度をu'とする。ローレンツ変換を用いて、uとu'の関係を導け(速度の変換則)。特に、v=0.9c, u'=0.9cのとき、uを求めよ。また、v≪c, u'≪cのときは、uはどうなるか?
      6. ローレンツ変換を用いて、ドップラー効果の式を導け。特に、相対論効果によって、横ドップラー効果が生じることに注意せよ
      7. パルサーから観測される周期的な変動を正確に解析するためには、人工衛星が捉えた光子の到達時刻を、人工衛星と地球の運動を補正し、太陽系重心 (barycenter)で観測した場合の時刻に補正する必要がある(barycentric correction)。その際、光行差(Abberation)の補正も必要である。光行差の式を導け。光行差のために、季節によって天体の方向は、最大どれだけ変化して見えるか?
    3. 光速に近い速度v(≈c)で運動する相対論的電子を考える。その電子が加速度運動するときの電磁放射は進行方向に強くビーミングし、広がりθは、θ ∼ 1/γで表されることを示せ(R&L section 4.8)。
    4. 宇宙現象または地上施設において、相対論的な速度で運動している荷電粒子が、その進行方向に細いビーム上に電磁波を放射している具体的な例を挙げよ。また、そのような地上施設は、国内にはどこにあるか?(兵庫県とか、茨城県とか、愛知県とか…)
    参考文献: Ebisawa lecture note4,p.43-53 、その種本はジャクソン 電磁気学 (下) (私のオフィスにコピーあります)

    第22回 (2021年12月10日): 一般相対性理論 (のエッセンス)

    担当:望月
    1. 今、ここで重力をなくすにはどうしたらいいでしょうか?(ヒントとなる動画 1, 動画2
    2. 仮想的に、回転していない、1太陽質量のブラックホールを考える。その シュワルツシルド半径は 2.95 kmである。(現実には≈3太陽質量より も小さなブラックホールは存在しない事に注意。)動径座標 r を、円周を2 πで割った量として定義する。 動径方向、r = 4 km から r = 5 km まで゙、巻き尺を使って直接測定したときの距離を求めよ。その値は、5km - 4km=1kmと比べて、大きいか、小さいか?
    3. ブラックホールの近傍、動径座標 r において、時間間隔 Δtで、光のパルスが放射されているとする。無限遠方において、観測されるパルス間隔はどうなるか? 特に、r がシュワルツシルド半径に極限まで近づくと、どうなるか?
    4. ブラックホールの近傍、動径座標 r において、振動数 ν の光が放出されたとする。無限遠方において、観測される振動数はどうなるか?
    5. 中性子星EXO 07481–676のX線バーストから、重力赤方偏移した鉄および酸素の吸収線が発見された (z = 0.35)。重力赤方偏移の値から、 中性子星の質量と半径の比を求め、理論から予想される値と比較せよ。(Cottam et al. 2002 Nature, 420, 51–54)。
    6. GPS (Global Positioning System) の原理を説明せよ。GPSにおいて、一般相対論による地上と衛星での時間の進み方の違いを考慮しないと、どのくらい位置を間違えるか?
    7. 重力レンズクェーサーRX J1131−1231は、視線上に存在する天体(おそら く銀河団)の強い重力レンズ効果によって、4つの像(A,B,C,D)に分割して見え る(Chartas et al. 2012, ApJ, 757, 137)。さらに、銀河団に属する銀河中の星がランダムにブラックホール(降着円盤)の前を横切る際の重力マイクロレンズ効果によって、降着円盤の一部からの光が増幅され、一部のレンズ像のみに変化が生じる。あるとき、ひとつのレンズ像から、5.50 keVと6.04 keVの輝線が観測された(Image D, Period 2)。これは、降着円盤から発せられた6.4 keVの蛍光鉄K輝線が、ケプラー回転によるドップラー効果で赤方偏移と青方偏移を受け、さらに横ドップラー効果による赤方偏移と重力赤方偏移を受けたものと考えられる。この解釈に沿って、円盤上における、鉄輝線放射領域の半径と回転速度を求めよ(文献の3.3節参照)。
    参考文献: Ebisawa lecture note4,p.57-64

    第23回 (2021年12月17日): Cosmic X-ray Background Radiation, Galactic Ridge X-ray Emission, log N-log S

    担当:栗原
    1. CXB: CXBの存在はX線天文学の初期の時代から知られていた。その起源は真に拡がった放射なのか、暗い点源の重ね合わせなのか、長年議論が続いていたが、ChanraやXMMによる深観測で、CXBのほぼすべてが点源に分解された。これに関する問題、東大大学院天文学専攻H26年度入試問題[天文学1]を解説せよ。
    2. GRXE: 銀河面上に一様に拡がったように見えるGRXEの存在が、1970年代から知られていた。てんま衛星はGRXEから鉄K輝線を発見し、すざく衛星はその輝線を三本に分解した。GRXEの多くは点源の重ね合わせであることはわかっているが、一様に拡がった成分の寄与がどれだけかは、まだ明らかになっていない。l=28.5度の方向を観測したとき、GRXE中の6.4 keV鉄輝線の強度は、~0.26 photons/s/cm2/strであった。これがすべてmagnetic CVからの6.4 keV鉄輝線からの重ね合わせで説明できるかどうか、検討せよ(文献の4.2を参照)。
    3. (Advanced Study) 銀河系内の拡散X線放射(Galactic Diffuse X-ray Emission; GDXE)は、Galactic Center X-ray Emission (GCXE), Galactic Buldge X-ray Emission (GBXE), Galactic Ridge X-ray Emission (GRXE)からなる。それらの特徴を述べ、その起源について考察せよ。小山先生のレビューを参考に。

    第24回 (2021年12月24日): 宇宙線

    担当:宮川
    1. 高エネルギーの宇宙線を考える。そのジャイロ半径を、宇宙線エネルギーと磁場の関数として見積もれ。(Ebisawa 2006 note, 式5.2)
    2. 上式を用いて、~10 GeVより低エネルギーの宇宙線は、地磁気に弾かれて地球大気に突入できないことを示せ。
    3. X線天文衛星データを解析する際に、軌道上の粒子バックグラウンドの強度の指標となる "Cut-off Rigidity (COR)" を説明せよ。
    4. 銀河系内宇宙線の加速源として、超新星残骸が考えられている。
      4-1. 銀河系内の宇宙線エネルギー収支から、「銀河系内宇宙線の超新星残骸起源説」が妥当であることを説明せよ。
      4-2. しかし、超新星残骸では>> 1016 eVまでは宇宙線を加速できないことを示せ。
    5. >> 1017 eVの超高エネルギー宇宙線は銀河系外起源と考えられている。
      1. その理由を述べよ。
      2. 銀河系外で発生した>> 1020 eVより高エネルギーの宇宙線は、地球まで届かないと考えられている(GZKカットオフ)。その理由を述べよ。
      3. 発生起源は謎だが、~1020 eVの超高エネルギー宇宙線の観測が、 数例報告されている。それは1つの粒子、おそらく陽子である。時速100 kmで跳んでいる~100 gの野球のボールを考えよう。ボールに含まれる陽子の数とボールの運動エネルギーを見積もり、それを~1020 eVの超高エネルギー陽子と比較せよ。

    1月7日は、「宇宙科学シンポジウム」に参加しましょう!

    第25回 (2022年1月14日): 流体力学

    担当:宮本
    1. Wolf-Rayet星などの重い恒星において、内部で生成された炭素、窒素、酸素などの重元素が対流不安定により表面まで運ばれ、それらの輝線が観測される場合がある。問1を解いて、恒星内部で対流が起きる条件を求めてみよう。
    2. 宇宙における様々な天体で衝撃波が発生し、それによって加速・加熱されたプラズマから電磁波が観測される。たとえば、 Wolf-Rayet連星系では、Wolf-Rayet星と伴星(O型星など)の星風同士が高速で衝突して衝撃波が発生し、それによって加熱されたプラズマからX線が放射される。問2を解いて、(1)衝撃波面に亜音速で流入した流体は超音速で流出すること、(2)衝撃波加熱・圧縮によって、衝撃波下流の温度と圧力は上流にくらべていくらでも大きくなること、(2)その一方、下流の密度は上流の密度の一定倍に近づくことを確認せよ。

    第26回 (2022年1月21日): 天文学で用いられる「時刻」について

    担当:
    1. 良く用いられる以下の時刻系(Time and Date Systems)を説明せよ:JD, MJD, TJD, TT, TAI, UTC, TDB
    2. 「うるう年」と「うるう秒」は、何のために、どのような状況で導入されるか?
    3. 人工衛星が取得した、パルサーなどの天体データに精密なタイミング解析を実施する際には、地球と人工衛星の運動を補正するために、装置が記録した光の到達時刻(photon arrival time)を、太陽系重心(barycenter)における到達時刻に直す必要がある(barycentric correction)。
      1. 太陽系重心は、太陽の中心からどのくらい離れているか?
      2. 天文衛星の解析の際に利用する標準的なbarycentric correction toolsが用意されている。その入力は各X線のエネルギー、到達時刻、天球上の位置が記載されているイベントファイルで、 出力は補正されたイベントファイルである。 入力として、イベントファイル以外に、何が必要か?
    4. ここでは、「あすか」衛星が観測したCrab Pulsarのデータにbarycentric correctionを適用することを考える。
      1. SIMBADによるとCrab pulsarの正確な座標は、(05 34 31.93830 +22 00 52.1758) である (J2000)。DARTSの検索結果からわかるように、あすかによるCrab pulsarの観測は、4月始めと9月後半(10月始め)に集中している。Crab pulsarの位置と「あすか」衛星の構造(+Z軸が観測方向、+Y軸が太陽パネル方向)から、その理由を説明せよ。
      2. 1993年4月6日の観測 (ID:10010000) と 1993年9月28日の観測(ID:10010120)を考える。( wget -nv -m -np -nH --cut-dirs=3 -R "index.html*" --execute robots=off --wait=1 https://data.darts.isas.jaxa.jp/pub/asca/data/10010120/ でデータをダウンロードできる。)
        そこから得られるGISのイベントファイルについて、衛星軌道ファイル(frf.orbit.253.gz)を用いて、あすか用barycentric correctionツール "timeconv"によって、 以下のコマンドでbarycentric補正を実施せよ (TDBで1993年当初からの経過秒に変換する場合)。
           timeconv infile=ad10010000g200370h.evt timeop=2 ra=83.63308 dec=22.01450  frforbit=frf.orbit.253.gz
           timeconv infile=ad10010120g200170h.evt timeop=2 ra=83.63308 dec=22.01450  frforbit=frf.orbit.253.gz
            
      3. 入力ファイルと出力ファイルのFITSヘダーを比較し、その違いを説明せよ。
      4. それぞれの観測について、元のイベントファイルとbarycentric補正後のイベントファイルの到達時刻を比較せよ。 (以下のファイルでは、最初の100イベントの到達時刻を示す)
          10010000.barycen.txt, 10010000.original.txt
          10010120.barycen.txt, 10010120.original.txt
      5. 太陽系重心から見たCrab pulsarの方向と二回の観測時の地球の位置を考慮し、ここで得られた二つのbarycentric補正の結果を秒のオーダーで確認せよ。(注:この精度では人工衛星の位置を考慮する必要はない。)
    5. 人工衛星データの解析をするとき、うるう秒を考慮しないと、間違った結果が得られてしまう。たとえば、数年間に亘ってうるう秒を考慮することを忘れていると、数秒ずれた軌道や姿勢を解析に使うことになる。それが実際のデータ解析に影響を与えた例を示せ(軌道に影響を与えた例姿勢に影響を与えた例)。
    6. 上の「うるう秒を考慮せずに軌道に影響を与えた例」で、光子の到来時刻がどのくらい変わるか、見積もれ。
    応用問題;HEASoftのASCAパッケージに含まれているtimeconvのソースコード (Makefile, asca_barycen.f, asca_geocen.c, htimeconv.c, timeconv.f, timedefs.inc) を理解して、上記のbarycentric補正の結果を正確に確認せよ。(注:ここで、asca_barycen.f, timeconv.f, asca_geocen.cについては、プロセスを追うためのコメントを出力するよう修正している。 $HEADAS/../ftools/asca/src/timeconvにて、hmake とすると、これらのコードがコンパイル、hmake installとするとインストールされる。)

    第27回 (2021年1月28日): Fast Fourier Transform (FFT)

    担当:栗原 
    Problems :
    1. 簡単な問題を解くことによって、離散フーリエ変換とパワースペクトルの概念を説明せよ。
    Solve this simple problem, and explain the concept of discrete Fouirier transformation and power-spectrum.
    2. 東大大学院天文学専攻H29年度入試問題[数学2]を解くことによって、離散フーリエ変換計算におけるFFTのメリットを解説せよ。ただし、問4の(b)ではN=4のかわりにN=8について解け。
    Solve the mathematics 2 probem of Univ. Tokyo Grad exam (Astronomy) in FY2017, and explain the merit of FFT in calculating discrete Fourier transformation.
    3. 任意のパルサーのイベントファイルを選び、そこからパワースペクトルを計算することによって、パルサーの自転周期を求めよ。ただしbarycentric correctionは適用しなくて良い。
    Choose any event files of X-ray any instruments, using "powspec" ftool, and calculate power-spectrum and obtain the spin-priods.

    以下は、2005年8月22日にHXD/PINで観測されたCrab Nebulaのイベントファイルから、"powspec"でパワースペクトルを計算した例 (ただし、barycentric correctionは行っていない):
    The following is an exampple of Crab pulsar by Suzaku HXD/PIN on 2005/08/22

      wget http://darts.isas.jaxa.jp/pub/suzaku/ver3.0/100007010/hxd/event_cl/ae100007010hxd_0_pinno_cl.evt.gz  
      powspec cfile1="ae100007010hxd_0_pinno_cl.evt.gz" window=- dtnb=1e-3 nbint=2097152 nintfm=1 rebin=0 plot=yes plotdev=/xs outfile=default
    
    Did you obtain a figure like this?

    Reference: Numerical Recipe, 2nd edition, section 12.2 Fast Fourier Transform

    山口弘悦准教授(ISAS)と村上泉教授 (核融合研)に、X線分光学特別講義&演習を実施していただく運びとなりました。

    第1回 (2021年2月4日): X線分光学特別講義&演習 1: オリエンテーション (山口)


    第2回 (2021年2月18日): X線分光学特別講義&演習 2 (山口, 村上)


    第3回 (2021年2月25日): X線分光学特別講義&演習 3 (山口, 村上)


    第4回 (2021年3月18日): X線分光学特別講義&演習 4 (山口, 村上)


    第5回 (2021年3月25日): X線分光学特別講義&演習 5 (山口, 村上)



    References

    1. 天文学辞典」日本天文学会  なにかわからない用語が出てきたら、まずここを参考に。
    2. An Unscheduled Journey: From Cosmic Rays into Cosmic X-rays by Yasuo Tanaka 田中靖郎先生の自伝です。日本のX線グループの大学院生には必ず読んで欲しいですね。
    3. Ebisawa lecture note1 (2016 Univ. of Tokyo, graduate school, in English)
    4. Ebisawa lecture note2 (2011 Univ. of Tokyo, graduate school, in Japanese)
    5. Ebisawa lecture note3 (2006 Univ. of Tokyo, graduate school, in Japanese)
    6. Ebisawa lecture note4 (2007-2010 Univ. of Tokyo, undergraduate, in Japanese)
    7. 「ブラックホール天文学」(新天文学ライブラリー), 嶺重 慎 (日本評論社) さすが嶺重さん、よくまとまっています。
    8. 「宇宙物理学ハンドブック」 (朝倉書店) ほぼ900ページ! よくこれだけのものをまとめたなー。私も一部執筆してます :)
    9. "Radiative Processes in Astrophysics", G. B. Rybicki, A. P. Lightman (Wiley) (R&L)
    10. "High Energy Astrophysics", Katz, out of print , but the pdf is freely available.
    11. "Handbook of X-ray astronomy", (Cambridge University Press)
    12. "High Energy Astrophysics", Longair (Cambridge University Press)
    13. "Black‐Hole Accretion Disks:Towards a New Paradigm", Kato, Fukue and Mineshge (Kyoto Univ. Press)
    14. "Atomic spectra and atomic structure", Herzberg
    15. "Classical Mechanics", Goldstein
    16. "Electrodynamics", Jackson
    17. "Exploring Black Holes: Introduction to General Relativity", Taylor, Wheeler GPSの説明はこれを参考にしました。
    18. シリーズ現代の天文学8、ブラックホールと高エネルギー現象(日本評論社)
    19. シリーズ現代の天文学17、宇宙の観測(3)、高エネルギー天文学(日本評論社)
    20. 「人工衛星の力学と制御ハンドブック―基礎理論から応用技術まで」 姿勢制御研究委員会
    21. 「ハミルトンと四元数」 堀源一郎 (海鳴社)
    22. 「宇宙線」 小田稔 (裳華房)
    23. "Astrophysics I, II", Richard Bowers and Terry Deeming, Jones and Bartlett Publishers Inc.
    24. Numerical Recipes, Cambridge University Press (ニューメリカルレシピ・イン・シー 日本語版)
    25. "Data Reduction and Error Analysis for the Physical Sciences" Bevington and Robinson, McGraw-Hill
    26. "Astro-H cook book"
    27. "Physics of Fully Inozed Gases", Spitzer (完全電離気体の物理―プラズマ物理入門)
    28. "The Physics of Astrophysics", Vol.1 and 2, by Frank H. Shu
    29. 宇宙流体力学 坂下志郎・池内了 (3-4, 4章) (式は下の文献より追いやすいです)
    30. 宇宙流体力学の基礎 福江純・和田桂一・梅村雅之 (8.2, 9章)   (式を追うのは大変そうですが、具体例が結構書いてあります)
    31. "X-ray detectors in astronomy", Fraser, Cambridge University Press