金星探査計画 PLANET-C
金星を知り,地球を知る
古来より「明けの明星」あるいは「宵の明星」と呼ばれてきた金星の輝きに,目を留めたことのない人はいないだろう。この輝きは,金星全体を覆う濃硫酸の雲が太陽光を反射しているためである。地球から可視光で見えるのはこの明るい雲頂だけであるが,その下の大気圏深部や地表面,また地磁気がないために太陽風と直接せめぎ合う超高層大気は,さまざまな不思議に満ちた一大フロンティアである。
金星は太陽系の中で唯一,地球に匹敵する大きさを持つ地球型惑星であり,金星と地球はしばしば「双子」とも称される。しかしこれまでの探査によれば,金星の環境は地球とは大きく違っている。約90気圧という濃密な大気はほとんどが二酸化炭素であり,その温室効果のために地表では460度という灼熱(しゃくねつ)地獄が生じている。スケールの大きな火山地形が存在し,地表は比較的新しい溶岩におおわれているが,地球のようなプレートテクトニクス(大陸移動)が起きている形跡はない。海は存在しないが,誕生初期には地球同様に大量の水が存在したと考える根拠がある。金星と地球はなぜ異なる運命をたどったのか。また,金星の気候を支配する物理は地球とどのように違うのか。そこに,地球の誕生と行く末を読み解く手掛かりが秘められている。
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PLANET-C
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PLANET-C金星周回機(Venus Climate Orbiter)は,惑星規模の大気循環の謎を解明することを目指す。金星の自転は周期243地球日と大変遅いが,雲頂高度の大気は,わずか4地球日で金星を一周する。この高速風は「超回転」と呼ばれ,その生成機構は惑星気象学の最大の謎である。PLANET-Cは,雲の下の大気や地表面まで透視できる新しい赤外線観測手法や雷センサーなどを用いて,金星大気深部の運動を世界で初めて立体的に描き出す。その結果からは,金星の気象は地球とどのように違うのか,地球で生じない超回転が金星ではなぜ生じるのか,などが明らかになるだろう。その到達点は,地球気候変動の理解の鍵ともなる,惑星気象学の統一理論である。PLANET-Cはまた,赤外線観測によって,世界で初めて地球以外の惑星で活火山を発見することも目指す。
さらに将来,金星の雲の下に気球を浮遊させる構想もある。この気球は,あらかじめ細長い耐熱フィルム内に入れておいた水を,金星到着後に大気の熱で蒸発させて膨らませるものである。金星大気の主成分は重たい二酸化炭素であるため,水蒸気でも十分な浮力を得ることができる。1カ月以上にわたって風に流されながら,大気の運動や地表面,大気組成などを観測するとともに,新たな観測プラットホームとして期待されている惑星気球の技術を実証することを目指す。
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金星気球の想像図
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