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No.274 |
太陽系の環境を知るISASニュース 2004.1 No.274 |
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水星探査計画 BepiColombo
古代から知られる水星は,いまだに「未知の惑星」です。 この灼熱(しゃくねつ)の惑星に近づけたのは,30年近く前の米国マリナー10号(1974‐75)だけです。わずか3回の遭遇で息絶えましたが,水星に「磁場」があることを発見し,大きな驚きを呼びました。地球磁場は,熱く溶けた中心核の流動で作られるとされます。金星,火星,月には,磁場はありません。なぜ,小さく冷えやすい水星(月より若干大きい程度)にはあるのでしょう? マリナー10号は,惑星磁場と太陽風の衝突でできる「磁気圏」も発見しました。磁気圏は,太陽放射線を遮るとともにオーロラなど美しい自然現象の源ですが,水星は地球より2けた磁場が弱く,ごく薄いナトリウムの大気しかないなど基本条件が異なります。磁気圏は安定に存在できるのか,どのようにエネルギーが蓄積・解放されるのか,などに定説はありません。 磁場や磁気圏の様子がよく分かっている惑星は地球だけです。水星は,初めて地球と比較ができる惑星なのです。「惑星磁場はどうして存在するのか?」「惑星磁気圏は共通なのか違うのか?」という古くて新しい問題の解決に,大きな役割を果たすことを期待しています。 磁場を生み出す水星の本体はどうなっているのでしょう? 水星は,大きさの割に非常に重く,半径の4分の3が鉄の中心核で占められた特異な惑星であることが分かっています。マリナー10号が写真を撮った場所は半分以下と限られており,地質・組成の観測がないため,水星本体の歴史や進化の過程は分かっていません。水星の特異な姿の原因は,原始太陽系星雲の最も内側で最後に固まったとされる,この天体の「初期」にさかのぼると考えられます。水星は,太陽系の形成を探るための最重要探査対象の一つなのです。
水星探査計画BepiColombo※は,ESAとの初の大型共同ミッションです。日米欧はそれぞれの水星探査計画を練っていたのですが,日・欧は共同の道を選択しました。この計画では,水星の磁場・磁気圏・内部・表層を2機の周回探査機で徹底的に観測します。日本が担当する「水星磁気圏探査機(MMO:Mercury Magnetospheric Orbiter)」は,得意分野である磁場・磁気圏の科学に重点を置きます。ESAが担当する「水星表面探査機(MPO: Mercury Polar Orbiter)」は,内部構造・表層の科学に重点を置きます。両者はESAの推進モジュールと一体で打ち上げられ,水星到着後に分離して活動します。両探査機の観測装置・観測計画は,日欧共同で検討しています。
本格的な協力がスタートして今年で3年目です。ESA側で検討されてきた「水星着陸機(MSE:Mercury Surface Element)」が2003年11月にESAの予算事情と技術的困難から断念されるなど紆余曲折(うよきょくせつ)を経つつも,2004年度に予定される両探査機の観測装置決定に向けた設計・検討を共同で進めつつあります。初の本格的な日欧協力を成功させて大成果を挙げるべく,日夜奮闘中です。「のぞみ」が残した大きな財産で「のぞみ」が残した大きな借りを返したいものです。
※マリナー10号の探査軌道を示唆したイタリアのBepi Colombo博士(1920‐84)にちなむ。
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