太陽系外地球型惑星探査計画 JTPF
この広い宇宙で,われわれは唯一無二の存在なのだろうか? それとも,生命が育(はぐく)まれているような第二の地球が存在するのだろうか? これは天文学者の興味のみならず,人類・社会が宇宙・生命に対峙(たいじ)して抱く根源的な問いであろう。太陽系外地球型惑星探査計画JTPF(Japanese Terrestrial Planet Finder)は,この問いに答えるべく,第二の地球を直接に撮像し,そこに生命の有無を探ることを主たるサイエンスドライバーとし,かつ,一般の天文学にも広く応用できることを目指す野心的な探査計画である。
この探査計画に要求される技術的課題は大きい。地球型惑星を直接に検出するためには,主星の反射光あるいは惑星自身の熱放射として暗い惑星を検出するだけの「高感度」,主星のすぐ近くにある惑星を見分けるための「高解像度」,さらに,暗い惑星が明るい主星のハローに埋もれてしまわない「高コントラスト」の三者が同時に実現されなければならない。これは,従来のスペースミッションでは実現されていない新しい性能を追求するものである。
このような探査計画の可能性の一つとして,JTPFワーキンググループでは現在,とりわけコロナグラフを応用した可視光から近赤外波長における大口径スペース望遠鏡を検討している。コロナグラフは,高コントラストでクリーンな星像を持つ観測を実現するための特別な光学系であり,最近さまざまなアイデアが提案されている。この波長では高感度検出器が利用可能で,波長が短いため比較的小口径でも高い解像度が得られる。また,この波長域には地球大気を特徴付ける水や酸素のバンドも存在するために,分光によりその存在を見積もることができる。H-IIAロケットのフェアリングで許される最大口径の鏡として3.5mの可視光単一望遠鏡を用い,鏡面による波面乱れを補正する補償光学(スペースAO)を利用し,かつ,特殊なコロナグラフを利用することにより,惑星が存在すると考えられるクリティカルな空間周波数領域では約10けた程度の超高コントラスト観測が可能になり,太陽近傍の数十個の惑星を探査できる。広視野装置を搭載すれば,初期宇宙天体などの研究にも役立つ。
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コロナグラフを応用したJTPFの可視光望遠鏡案。口径約3.5mの軸外し単一主鏡をH-IIAロケットのフェアリングに収めたもの。
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太陽系外地球型惑星検出は人類の共通の興味であり,国際的にも同様の検討が進んでいる。中でもNASAのTPF計画,ESAのDarwin計画はすでに過去数年間にわたって検討が行われてきた。系外惑星探査のような,主目的が明確に定義されたミッションの場合,競合するミッションを並立させるよりも国際協力の可能性も議論すべきである。このような国際協力のためにも,ワーキンググループは重要な活動母体としての役割を果たすだろう。
地球型惑星探査計画は,従来の日本の宇宙科学研究にはなかった新しい研究分野を切り開こうとするもので,しかも,これまでのプロジェクトの枠を越えた,かなり長期の組織的な準備が必要な分野である。さらに,地上観測・理論研究も含めた検討が準備段階から必要であるため,今後も宇宙研の探査計画という枠を越えて,国立天文台をはじめとする国内諸機関・大学と密接な共同のもとに進めたいと考えている。
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高コントラストを実現するためのいくつかの光学系。例えば,回転楕円体開口は円形開口よりも5〜6けた高いコントラストを持つPoint Spread Functionを得ることができる。
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