赤外線位置天文衛星 JASMINE
夜空にきらめく天の川は,その雄大さと美しさ故に,古来より人々を魅了してきました。現在では天の川は,約2000億個もの星が集まった「天の川銀河」の一部であることが分かっています。天の川銀河の中で星が数多く集まっている部分,つまり「円盤(ディスク)」と銀河中央にあって膨らみのある「バルジ」を見ているのです。われわれの太陽系は,天の川銀河のディスクの中に存在しています。
しかし意外にも,天の川の本当の姿はまだ分かっていません。それは,太陽系近傍の星についてしか,星までの距離や星の運動が分かっていないからです。もし,天の川銀河内の遠くの星についてもその距離や運動が分かれば,天の川銀河の厳密な構造や特徴が解明できます。また,距離や運動には,天の川銀河や一般の銀河の形成史を物語る情報も含まれています。さらに,さまざまなタイプの星の本当の明るさや,星が出しているエネルギーが正確に分かります。この情報は,星の形成や進化,変光星や惑星系などの天体の研究にとても重要ですし,本当の明るさを使って遠くの銀河までの距離を推測することもできるようになります。以上のように,天の川銀河内の星の距離や運動を知ることが,天文学にとっては貴重な基本情報となるのです。
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JASMINEの位置測定精度(イメージ図)
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星までの距離を正確に測定する方法は,三角測量です。地球が太陽の周りを公転し位置を変えることにより,星の天球上での位置がわずかにずれます。そのずれ(年周視差)を測るのです。年周視差が小さいほど,星は遠くにあります。しかし年周視差の測定は,地上では大気のゆらぎがあるため,精度には限界があります。そこで,1989年にESAがヒッパルコスという位置天文観測衛星を打ち上げ,スペースでの観測がスタートしました。地上より飛躍的に精度が上がり,画期的な成果を挙げました。しかし,そのヒッパルコスでさえ測定精度は1ミリ秒角であり,太陽系から300光年以内の星についてしか,年周視差によって正確に距離を測定できていないのです。天の川銀河の中心まで約2万5000光年もあるので,天の川銀河の全容解明には程遠いのです。
そこで,JASMINE(Japan Astrometry Satellite Mission for INfrared Exploration)と呼ばれる赤外線位置天文観測衛星を計画し,ヒッパルコスより100倍の精度向上,つまり10万分の1秒角(地球から見た月面上の1円玉の直径程度に相当)の精度での天の川の星々の位置測定を目指しています。さらにJASMINEでは,天の川面上にある遠くの星々を高精度で多く観測できるように,天の川面上に多く存在する塵による光の吸収を受けにくい近赤外線波長域での観測を行います。JASMINEによって,天の川の謎がまさに解明されるでしょう。
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JASMINE
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