No.274
2004.1

太陽系形成の歴史を探る

ISASニュース 2004.1 No.274 


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- No.274 目次
- 新年のごあいさつ
特集:日本の宇宙科学の近未来
- 特集にあたって
- 理学と工学のスクラムで
- ミッション計画
- これまでの成果
- これまでのミッション
- 進行中のミッション
- 宇宙理学の目指すもの
- 極限状態の物理を探る
- 宇宙の構造と成り立ちを探る
- 太陽系の環境を知る
+ 太陽系形成の歴史を探る
- 宇宙工学の目指すもの
- 「はやぶさ」は今
- まとめにかえて
- 編集後記

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固体惑星探査計画

 「固体惑星」とここで称しているものは,硬い表面を持つ太陽系の天体のすべてです。例えば,地球や月をはじめとする岩石質の惑星・衛星や,木星や土星の衛星のように氷を主体とするものなどが挙げられます。これらの天体の表面の様子は,これまでの探査により一通り分かってきましたが,固体惑星の全体の理解という点では,まだまだ多くの謎が残されています。特に地球以外の惑星では,表面の下に隠されている惑星内部の様子については,まったくと言ってよいほど分かっていません。

 地球についてのわれわれの知識から類推すると,惑星表面に見られる地形,火山噴火や地震活動など,ほとんどすべての地学現象には,惑星の内部で起きている運動が深くかかわっています。したがって惑星の内部についての知識なしでは,惑星の全貌を理解できないでしょう。また,惑星全体がどのような元素からできているかを知るためにも,惑星内部の知識が必要です。なぜならば,リモートセンシングで得られる表面の組成は,実は惑星全体の組成とは大きく異なることが多いからです。

 惑星の内部を地震学的に探査できれば,内部を構成している物質の組成についての推定が可能になります。惑星が全体としてどのような組成であるかは,その惑星がどのようにして形成されたかを明らかにするための鍵となる情報であり,惑星の内部構造探査は惑星の進化と起源に迫るためにも必須な探査といえるでしょう。

 このような理由で,われわれは将来の固体惑星探査の中心を惑星内部の探査に置くべきだと考えています。これを実現するさまざまな方法の中で最も直接的な方法は,地震学的手法です。これは地震波が惑星の内部まで伝搬するのを利用し,波の伝搬の様子を惑星表面の離れた場所で観測することによって,内部構造を明らかにするものです。しかしながら,惑星表面に地震計を1台設置するだけでは十分ではありません。惑星内部を探査するためには,地震計のネットワークを惑星表面に展開する必要があります。数ある方法の中で,現在LUNAR-A計画で開発されているペネトレータ技術は,惑星にネットワークを展開する最も効率的な手段を与えてくれるものと考えられます。ペネトレータの技術は月以外の惑星にも適用できるため,将来の広範な惑星内部構造の探査計画で大きな役割を果たすことが期待されます。

 現在わが国では,LUNAR-A計画の後さらに詳細な月内部構造を探るために,多数のペネトレータを利用した探査計画が検討されています。この計画では,ペネトレータによる多くの短周期月震計に加えて,着陸船を利用した広帯域月震計による月面ネットワークが構想されています。これによって,月の地殻の厚さやマントルの構造が具体的に明らかになることでしょう。さらに将来には,火星の表面に地震計ネットワークを展開し,火星の内部を探る探査計画も考えられています。このような構想はフランス,米国でも検討されていますので,わが国でもこれらの国と協力して,国際的な探査計画として進める方法も視野に置くべきものと思われます。

 いずれにしても,21世紀の固体惑星探査の分野では,惑星内部構造が重要な鍵になり,そのための探査技術の発展が重要になってきます。地球科学で日本が地震学を創始し,発展をリードしてきたように,太陽系科学の上でも,わが国が惑星地震学を通じて世界をリードできるようになりたいものと思っています。

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固体惑星の内部構造 模式図の例


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