世界で初めて月面をピョンピョン跳んで移動した超小型ローバ、LEV-1開発チーム インタビュー~20年以上の時を経て実現した、日本初の月面探査ロボット~

日本時間2024年1月20日午前0時20分頃、小型月着陸実証機 SLIMに搭載されて月へ向かった超小型月面探査ローバLEV-1(Lunar Excursion Vehicle 1)は、もう1台のロボットLEV-2とともにSLIMから分離され、月面に軟着陸しました。LEV-1は「から傘おばけ」のように1本の足で跳んで移動しながら月面を探査する、人のひざに乗るほど小さくて軽いロボットです。LEV-1は日本初の月面探査ロボットとして様々な功績を残しており、多くの賞を受賞しています。

本インタビューは、宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系の吉光徹雄教授が率いるLEV-1開発チームの皆様へ、その性能や成果と併せて、開発秘話や月面に着陸した時のことについて、伺いました。

吉光 徹雄

吉光 徹雄(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系/教授)
LEV-1開発担当。専門はロボティクス。過去には、小惑星探査機「はやぶさ」搭載の小惑星探査ローバ「MINERVA」、小惑星探査機「はやぶさ2」搭載の小惑星探査ローバ「MINERVA-II Rover 1A, 1B」などの開発を手掛ける。

國井 康晴

國井 康晴(中央大学 理工学部/教授)
LEV-1の構想やデザイン設計等、初期段階からチームに参加。専門はロボティクス、メカトロニクス。ロボットの遠隔操縦や群ロボット等の開発に取り組んでいる。現在は内閣府ムーンショット型研究開発事業プロジェクトマネージャも務めている。

大槻 真嗣

大槻 真嗣(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系/准教授)
LEV-1の車輪・跳躍機構・SLIMからの分離機構等の機械系全般の開発と、LEV全体の取りまとめを担当。専門はロボティクス、テラメカニクス、アクチュエータ。過去には超小型月面着陸機OMOTENASHIの設計等を担当。

冨木 淳史

冨木 淳史(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系/准教授)
LEV-1の無線通信全般の監修を担当。専門は宇宙通信工学。過去には、吉光教授とともに小惑星探査機「はやぶさ2」搭載の小惑星探査ローバ「MINERVA-II」の開発に参加。深宇宙通信の分野でも活躍。

吉川 健人

吉川 健人(JAXA研究開発部門 第一研究ユニット/研究開発員)
LEV-1の跳躍機構・SLIMからの分離機構等の開発を担当。専門は宇宙ロボティクス、航法誘導制御。過去には小惑星探査機「はやぶさ2」で航法誘導制御を担当。現在は火星衛星探査計画MMX搭載ローバ「IDEFIX」の開発等を担当。

前田 孝雄

前田 孝雄(東京農工大学 工学研究院機械システム工学専攻/准教授)
LEV-1の跳躍機構の開発を担当。専門はロボティクス、メカトロニクス。月や火星への着陸探査・小天体表面探査について、天体着陸時の挙動解析や天体表面の移動技術の研究等を進めている。

宇佐美 尚人

宇佐美 尚人(宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系/助教)
LEV-1のUHFアンテナの開発を担当。JAXAの事業としての活動とは別に、LEV-1に搭載されたアマチュア無線局を使った “JAXA Ham Radio Club”(JAXA職員や関係者が運営する有志団体)としての活動にも参加し、アウトリーチ活動を行った。

LEV-1について、教えてください。

月面でのLEV-1(左上)とLEV-2(右下)の想像図
月面でのLEV-1(左上)とLEV-2(右下)の想像図

吉光: LEV-1はSLIMに搭載された質量2.1㎏の超小型の月面探査ローバです。1番の売りは、大きなバネを使ってピョンピョンと跳びながら自律的に月面を移動するホッピング機構を有している点です。月面を5mほどジャンプするという野望を持って開発しました。LEV-1には大きな車輪が1つ付いており、この車輪を回転させることでホップ(跳躍)する方向を変えることができます。ホップした後で変な姿勢になってしまっても、車輪を回転させることで再びホップできる姿勢へ回復し、継続して探査ができるように作られています。
他にも、搭載しているカメラの画像をLEV-1自らが処理して跳ぶ方向を決定することで完全に自律的に動作することができたり、SLIMを経由せずに独立して月から地球へ直接通信ができたり、別のロボットと通信しその取得データを地球に代理送信できたりと、様々な機能を持っています。LEV-1は2つの通信機(S帯、UHF帯)を積んでいて、UHF帯の電波送信に関してはアマチュア無線の周波数を使って月からの電波を世界中の誰でも受信できるようなアウトリーチ活動も行いました。

LEV-1は、どのようにして誕生したのでしょうか?

吉光: 月面探査ロボットの構想自体は20年以上前からありました。2000年頃に月面着陸の計画としてSELENE-B*1の検討が開始した時に、ローバを載せようという話があったため私も参加していました。しかし、SELENE-Bは実現することなく、その後の月着陸探査も計画されては実現せずを繰り返していました。2010年頃には、今のLEV-1とは全く別の「月面の縦孔を目指して膨らむロボット」も考えていました。

國井: 吉光先生から膨らむロボットの相談を受けた時のことは覚えています。当時、吉光先生は小惑星表面探査ローバMINERVA(ミネルバ)*2をやられていて、MINERVAもホップして移動するローバだったこともあり、膨らむロボットで縦孔を目指すより、「次も跳ぼうよ!」と声をかけた記憶があります。*3

吉光: それ以降も、検討が進む中でロボットを搭載する、しないで二転三転ありました。

大槻: 2015年頃の新たな公募の際に、吉光先生と國井先生と私の3人で私の家で提案資料を作成した覚えがあります。

國井: そうでしたね。もともとSELENE-Bの検討でたくさんいたメンバーもどんどん減っていって、最後の方は3~5人ほどで進めていました。

実現までには、長い道のりがあったのですね。LEV-1の形はどのようにして決まったのでしょうか?

前田: LEV-1が最終的な機体の姿になるまでに、様々な形が検討されました。例えば跳躍のための足について言うと、今は車輪の反対側に設置され、車輪と同じ方向に足を突き出すような形ですが、もっと斜めにキックするようなタイプの機体などもありました。

大槻: 車輪についても、最初の頃は一輪にするか二輪にするかで迷っていて、並走しながら検討してました。本日お持ちした試作機はその一例で、これ以外にも本当に色々な形状がありました。

地上試験モデル(保護ケース入り)
LEV-1を納品した時の保護ケースに入れた地上試験モデル

吉川: この試作機は、2015年頃の質量制約が3.2㎏の時に設計したモデルです。この時はロボットの本体部分に色々な観測機器を載せることを考えていて、跳躍用の足は端に付いているような形でした。

吉光: もともと3.2㎏で検討を進めていたのが、この後に1度、質量制限が800gまで減量されたね。

國井: その時は、本当にひどいと思った(笑)。

吉川: 今の一輪の形に決まったのは、正に質量制限が800gになった時でした。この800g事件を受けて、跳躍機構を端ではなく本体に組み込む形状に変更しました。軽量化するためにホイールをやめて傘の骨に膜を張ったようなものを車輪として成立させるのはどうかなど、ギリギリを攻めるような検討もしていました。

LEV-1の開発の様子について、教えてください。

吉川: 跳躍機構の部分については、LEV-1がどうやって姿勢を変えて、どのタイミングで跳ぶかを判断するためのアルゴリズムを皆さんと協力して作りました。また、LEV-1は非常に小さく軽く作らなければならなかったので、打上げ時の振動や月面上の熱に可能な限り耐えられるようにシステムを開発しました。

前田: 私も吉川さんと同じ跳躍機構を担当しましたが、冒頭に吉光先生からもあったように、「月面を5m跳ぶ」という野望を達成するために、地上での実験や月面の重力環境でどのように動作するかのシミュレーション等を行いました。質量制約が厳しい中でも、ただ走るだけのロボットにするのではなく、未来のモビリティに繋がるような、新しい移動方法を作り上げるところは意識しました。ちなみに、LEV-1の組み立て作業についても、ここにいるメンバーで行いました。

國井: 機体の作製については、若手のメンバーが実働部隊として中心になって担当してくれました。

吉光: LEV-1は完全にインハウスで、宇宙研(宇宙科学研究所)の研究室で作っています。

前田: 私がはんだ付けを担当して、吉川さんがネジ締めをして、適切に処置ができているかを吉光先生や大槻先生が確認をして…という具合でした。我々ははんだ付けなどの作業は素人なので、メーカーにいらっしゃった元プロの同じ研究系の秘書さんへやり方を教わりに行き、次からはそのとおりに作業をするというように進めて行きました。

地上試験モデル
LEV-1の地上試験モデル(右.月面に行ったフライトモデルとほぼ同一)、2015年頃の試作機 (左)

大槻: LEV-1の表面には太陽電池セルが付いていて、そこには山ほどの配線があります。配線がショートしてしまってはもちろん電力が得られないので、そういった部分もみんなで協力して作業をしました。LEV-1の電力は月面に着くまでの間のSLIMからの充電が大部分で、太陽電池は補充電としての役割ではありますが、性能通りの発電ができていたことも分かっています。

冨木: 私はLEV-1の無線通信周りの監修を担当しましたが、小型で軽量に作らなければならなかった点で非常に苦労しました。宇佐美先生が作製したUHFアンテナも含め、様々な工夫を凝らして上手く作ることができて安心しました。

宇佐美: 私がLEV-1チームに参加したのは開発のかなり後半の方だったので、既にLEV-1の形が出来上がりつつあったこともあり、UHFアンテナを作る際は自由度があまりなく、苦労しました。UHFアンテナは太陽電池パネルの横辺りに設置しているのですが、ホイールからの影響を受けないよう、形などを工夫して何とか動作できるものを作りました。

冨木: 深宇宙との通信と比べてしまうと月はすぐそこのような気がしてしまいますが、ここまで超小型のロボットが月から地球へ通信できたというのは今までにないことなので、成功して本当に良かったなと思っています。

皆さんの手で大切に作り上げられたのですね。LEV-1が月面に着陸した時は、皆さんはどちらにいたのでしょうか?

國井: いた場所はみんなバラバラでしたよ。

吉光: LEV-1はもともと長い時間をかけて探査を行うように設計されたロボットではないので、SLIMから分離されてから数時間しかチャンスがありません。そのため、全国にあるアンテナでLEV-1からの電波を受信するために、手分けして各地に向かいました。

吉川: 私は鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所に、前田先生は長野県の臼田宇宙空間観測所にいました。

大槻: 私はアマチュア無線の通信局の和歌山大学*4にいました。

吉光: 私は連絡係として國井先生と宇宙研に残りました。宇佐美先生はSLIMの管制室で作業に入ってくれていましたね。

大槻: いた場所はバラバラでしたが、インターネット上ではみんな繋がった状態で、モニタを見ながら会話をするような感じでした。

國井: 最初にLEV-1から電波を受信した時は、誰かの「来たー!」という声から始まって、みんなで「来てる!来てる!」と喜んだ記憶があります。

吉川: 最初にモニタに電波の信号がピーンと立ったときは、「よし!」と思ったと同時に、本当にほっとしました。LEV-1が月面をホップして移動するとアンテナの向きが変わるので、地上で受信する信号も見えたり見えなくなったりします。モニタで見る信号が無事にそのように繰り返し示しているのを見て、「ちゃんと跳んで動いている!」と実感しました。月面で姿勢を復帰させる機能が正常に働くかどうかは誰も試したことがないので、かなり緊張した部分でした。

吉光: LEV-1の成果としては大きく4つあります。ホッピングでの月面移動(世界初)・完全自律探査(世界初)・月から地球への直接通信(世界最小・最軽量、世界初の月面アマチュア無線局となる)・LEV-2との複数ロボット間通信です。LEV-1が撮像したデータは送られてきませんでしたが、それ以外の目標は、全て達成しました。

LEV-1開発メンバー

LEV-1の大成功を経て、次はどのような形の探査ロボットを目指すのでしょうか?

吉光: やりたいことの1つとしては、車輪で動くもう少し大きなロボットです。これは長らく目指してはいるもののなかなか叶わない状況が続いていて、そんな中で隙間を狙ってLEV-1等の小さなロボットを押し込んできたというのが実際のところです。とはいえ、いきなり100㎏クラスのものを作っても宇宙へ持って行くのは難しいので、これまで小さなロボットの開発で蓄積してきた技術を活かして50㎏ほどのオーソドックスなローバを実現させたいです*5。もう1つの目指す形としては、國井先生が進めている複数ロボットが考えられますね。複数ロボットの協調探査という新しい分野です。

國井: LEVのような小さなロボットを肯定的に見た時に、将来どのようなことができるかと考えると、宇宙へ小さなロボットをたくさん持って行って、群れを成して探査や作業をするような、そんな世界があるのではないかと考えています。例えば、危険な場所を探査したい時に、ロボットが1台しかないとためらってしまう。でも、たくさんあれば「1台くらいは犠牲になっても」と、リスクが取れるようになりますよね。我々ロボット研究者は、こういった目標の実現のために技術をしっかり育てていくことが重要だと思います。

最後に、吉光先生からひと言お願いします。

LEV-1ロゴ
©JAXA、東京農工大学、中央大学
から傘おばけをモチーフにしたLEV-1チームのロゴ。國井先生がデザインし、前田先生が筆で清書されたそう!

吉光: 時代の流れや組織の方針にも大きく左右されるので、今後どのような形でロボット開発を進めることになっていくのかは分かりません。ただ、どうなったとしても我々は常に別の新しい物を考えて目指さなければいけません。そこで1つ思うのは、次にLEV-1ほどの機能を持った2.1㎏を超える軽さのロボットが出てくるとすると、どんなものになるのだろうということです。ロボットの重さに関して言うと、今回一緒に月へ行ったLEV-2は重さ約228g(月面で活動したロボットで世界最小・最軽量)ですが、世界を見ると、母船の着陸失敗により月面で動作しなかった50gクラスのロボットもありました。ロボットの重さは日々更新されているので1gのロボットが月に行く日もそう遠くはありません。しかし、LEV-1のように月と地球をダイレクトに通信できるほどの機能を持つものとなると、話は別です。そんなことを考えると、次のLEV-1を超える小さくて役に立つロボットの開発に成功するのも、やはり自分たちでありたい、そうなったら嬉しいなと思っています。

本日は貴重なお話をありがとうございました!今後のLEV-1チームの皆さんのロボット開発も楽しみにしています!


用語解説

  • *1 SELENE-B:2007年に打ち上げられた月探査機「かぐや」(SELENE) に続くミッションとして月面探査を行う計画として提案されたが、採択されずに終了した。後のSLIMプロジェクトとの源流となる。
  • *2 小惑星表面探査ローバMINERVA(ミネルバ):小惑星探査機「はやぶさ」に搭載された手のひらサイズの探査ロボット。小惑星は重力が非常に小さいため車輪等による従来の移動方法だと十分な摩擦が得られないことから、ホッピングによる移動メカニズムが採用された。MINERVAは残念ながらイトカワへの着地に成功しなかったが、その後のMINERVA-ⅡやLEV-1等、続くミッションに大きく貢献した。
  • *3 宇宙科学研究所HPにて、國井先生が執筆された当時の國井先生と吉光先生の様子や國井先生が現在進められている研究についての記事が掲載されています。(ISASニュース2024年11月号)|ムーンショット型研究開発事業が目指すAI・ロボット群による月溶岩チューブ探査と月面未来都市
  • *4 LEV-1着陸時の和歌山大学での様子はYoutubeにてライブ配信のアーカイブが残っています。|月着陸探査機 SLIM搭載 LEV-1 和歌山大局通信 状況
  • *5 宇宙科学研究所HPにて、吉光先生が執筆された次の探査ロボットの構想に関する記事が掲載されています。(ISASニュース2025年3月号)|J-Moon's Big Three ―次、月で何する?―第6回月面科学のためのロボット

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2024/2/2 JS1YMG(LEV-1のアマチュア無線のコールサイン) Guinness World Records, "First ham radio station on the Moon"
2024/3/5 吉光 徹雄、大槻 真嗣、吉川 健人(JAXA)、前田 孝雄(東京農工大学)、國井 康晴(中央大学)、冨木 淳史、宇佐美 尚人(JAXA)、廣瀬 智之(株式会社デジタル・スパイス)、秋山 演亮(和歌山大学) 第29回ロボティクスシンポジア 最優秀賞 「小型月面表面探査ホッピングローバLEV-1の開発」
2024/9/18 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構/中央大学/国立大学法人東京農工大学/同志社大学/株式会社タカラトミー/ソニーグループ株式会社 第11回ロボット大賞 文部科学大臣賞 「超小型月面探査ローバLEV-1&LEV-2」
2025/2/17 吉光 徹雄、大槻 真嗣、國井 康晴、前田 孝雄、吉川 建人、冨木 淳史、鳥居 航、宇佐美 尚人 第25回計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会 優秀講演表彰 「宇宙のしきいを下げる小型月面探査ロボット」
2025/2/17 國井 康晴、坂本 康輔、前田 孝雄、吉光 徹雄 第25回計測自動制御学会 システムインテグレーション部門講演会 優秀講演表彰 「世界初の月面跳躍移動ロボット LEV1 に向けた ナビゲージョン技術の検討」
2025/4/4 吉光 徹雄、大槻 真嗣、吉川 健人、前田 孝雄、國井 康晴、冨木 淳史、鳥居 航、宇佐美 尚人、廣瀬 智之、長谷川 昭彦、室井 秀作、SLIMプロジェクトチーム 第34回日本航空宇宙学会 学会賞 技術賞(プロジェクト部門)「日本で初めて月面を探査したロボットLEV」
2025/4/24 前田 孝雄、吉川 健人、大槻 真嗣、吉光 徹雄、國井 康晴 2024年度 日本機械学会賞(技術)、 「完全自律制御と跳躍式移動を実現した超小型月面ローバ」

関連リンク