No.200
1997.11

「はるか」   ISASニュース 1997.11 No.200

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MUSES-B/1997.2.12/M-V-1



 1989年に開発着手がなされたMUSES-Bは,1997年2月12日,M-Vロケット初号機によって打ち上げられ,衛星「はるか」となった。MUSES-Bは,スペースVLBIを目指す工学実験衛星として計画された。スペースVLBIは地球上のVLBIの宇宙への拡張で,電波望遠鏡の一つを人工衛星に乗せることにより,地球の大きさからくる基線長の制限を無くし,地球上では実現できないような高い角度分解能でクエーサー等の天体のイメージング観測を行おうとするものである。小田 稔,野村民也両先生が1983年年初「スペースVLBIの可能性を検討する会」という小研究会を開催されてから,今およそ15年,「はるか」は,世界初の電波天文衛星として,スペースVLBIの実験に取り組んでいる。

 MUSES-Bのスタートに先立って,宇宙研と国立天文台の研究者の間ではVSOPと呼ぶ,スペースVLBI観測を目指す衛星の計画が検討されていた。MUSES-Bは,工学的・技術的課題を達成した上で,VSOPのための天文衛星になる,という二重の目標を持つことになった。VSOPは国際的関心を呼び,MUSES-Bは海外では専らVSOP衛星と呼ばれてきた。幸いにして,打上げ後,極めて難度の高い課題であった大型アンテナの展開の成功を初めとして,フェーズトランスファー,搭載観測系,大容量テレメトリ,アンテナ指向制御,軌道決定など,工学的諸課題は目標通りに達成された。

 打上げ1ヵ月後の5月中旬,「はるか」は,地上電波望遠鏡との間で受信信号を干渉させることに成功。「はるか」と臼田の64mアンテナがクエーサーPSK1519-273を周波数1.6GHzにおいて観測,「はるか」のデータは新設の臼田Kuバンド局に降りた。データは同じく新設のVSOP相関器により国立天文台三鷹において処理された。この干渉の成功は「はるか」がスペースVLBI衛星として基本的な機能を満たしていることを実証したもので,ここにスペースVLBIのための衛星が実現した。

 6月の中旬,「はるか」は,天体のイメージングに成功した。「はるか」と米国国立電波天文台(NRAO)のVLBIネットワークがクエーサーを1.6Gz帯で同時観測,クエーサーPKS1519-273とJ1156+295のイメージを生成した。後者は噴出するプラズマの構造を示した。これらは世界初のスペースVLBI映像となった。7月には,5GHz帯でのイメージングに成功した。「はるか」は米国NASA/JPLとNRAO,オーストラリアや欧州,カナダ他の電波天文台との緊密な協力のもとに実験,観測を行っている。「はるか」から電波天文学上の成果が次々と出てくるものと期待している。

(廣澤春任)






「遥かな途」の中で,ちょっぴり思い出をたどれば

 「はるか」は純国産ですが,これを中心に据えたスペースVLBI計画「VSOP」は国際性が豊かなので,国際打合わせの回数はたいへんなものでした。そのなかでたいへんな出来事は,モスクワに向かって走るバスの夜の事故でした。一緒のNEC衛星主任の中川さんは足を骨折,手術。モスクワからの担架での帰国,再手術。大変な思いをされました。天文台の森本さんも口部負傷,しかし,会話能力は完全復帰です。

 MUSES-Bは,打上げ後,「はるか」になりました。8年間も慣れ親しんできたMUSES-Bですので,新しい名になじむのに時間がかかっています。野辺山の川辺さんからは,「うちの娘の名前にしてくれてありがとう」と,お礼の電話。知らないご婦人からも,「姪と同じ名前で嬉しい」とお手紙。命名には関係していませんので,この場を借りて御礼転送。

 宇宙研の図書に勤められた南山さんのお宅の近くの公園の樹で,降りれなくなった仔猫が一晩鳴いていたそうです。家につれて帰って名前を付けなければと思っていた矢先に,テレビで打上げシーン。これで,仔猫のホームステイ先のお母さんは,ぽんと閃いて「はるか」にしたそうです。樹の上から下りれなかったなんて,やっぱり天からの仔猫なのでしょう。英文名は,HALCATですね。

 宇宙開発事業団の「みどり」の場合は公募で,命名委員をおおせつかりました。しかし,軌道に乗った「みどり」は,文字どおり嬰児のまま亡くなってしまいました。子を持ってわかる,とてもとても残念な事でした。

(平林 久)


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