EXOS-D/1989.2.22/M-3SII-4
「あけぼの」衛星は1989年2月22日に鹿児島宇宙空間観測所から軌道傾斜角75度の極軌道に打ち上げられた。遠地点は10,500km,近地点は270kmである。「あけぼの」の目的はオーロラの発生機構を調べることであった。ほぼ同じ時期に計画がスタートしたGEOTAIL衛星がオーロラの遠因となっている地球の“尻尾”を調べるのと補い合う関係にある。
「オーロラは地球の尻尾の部分で磁場のエネルギーが間欠的に開放され,この時生成されたエネルギーの高い電子が極地方の上空に降り注ぎ大気を光らせている現象」である。この説明はやや舌足らずで大事なことを一つ省いてしまっている。地球の“尻尾”で作られた電子は地磁気に邪魔されて簡単には地球に近づけない。この地磁気の障壁(磁気ミラー)を突き破って大気層まで電子が降り注ぐためには「何かもう一つのメカニズム」が必要である。
「あけぼの」計画当時,この問題の鍵が高度8,000kmあたりにあるらしいということが分かり始めていた。磁場に沿った大きな電場があるらしいというのである。普通,磁気圏では磁場の方向の電気伝導度が非常に高く,磁場に沿った電場による荷電粒子の加速は考えないのが普通である。オーロラの上空では普通でないことが起きているらしい。「あけぼの」の目的はこの普通でないことを観測的に明らかにしようというものであった。
この目的を実現するために先に延べた軌道が選ばれ,その結果として非常に過酷な放射線環境に耐える衛星の設計が要求されることになった。高緯度地方のデータを受信することが必要で,スウェーデン,カナダ,昭和基地という海外の受信点を総動員して観測データを取得することとなった。また,精度の高い観測を実現するために伸展マストや糸巻き形式に収納されている長いアンテナの新規開発も行われた。フライトモデルの組付け中に見つかった輸入耐放射線部品の大量欠陥とその緊急修復,軌道上でのはじめてのマスト伸展等,「あけぼの」も十分開発チームを楽しませてくれた。そして,それから8年余り,現在も未だ健在で,我々を楽しませつづけてくれている。初期の成果であるオーロラ上空の電場加速の確認,赤道異常帯の発見,極域からの大気の散逸などの観測に続いて,今は太陽活動の変動に伴う地球磁気圏の変化を明らかにすべく11年間(太陽の1周期)の連続観測達成を目指して頑張っている。
(鶴田浩一郎)
「あけぼの」健在
「あけぼの」衛星では,運用システムを担当した。相模原からのリモート運用の実現を目指し,関係メーカーの皆様と努力した。打ち上って4週間程,自ら体験しながら感触をつかんでいたが,1か月後,鶴田先生から,「出来そうか?」と問われて,「やれそうです!」と答えた時,ささやかな喜びがあった。衛星は,その後史上最大規模の磁気嵐を何度か経験しながら,今も尚観測を続けている。現在私は,宇宙環境センター(郵政省)に移り,磁気嵐に伴う放射線帯の変動予測という応用的な研究を進めているが,89年10月21日に北海道でオーロラが見えた日に生まれた長男も8才。歳月の経過の速さに驚くと共に,研究グループの情熱の持続性は,世に誇れるものと感じている。11年間(1太陽周期)の連続観測の実現は目前である。
(小原隆博・通信総合研究所)