1975年度から「液水エンジン開発の基礎研究」として進められてきた液水・液酸ロケットエンジンに関する開発研究は,1988年度に初期の目的を達成し終了した。その後,ここで得られた研究成果およびインフラストラクチャーを踏まえて,将来のスペースプレーンに用いられる空気吸い込み式エンジンの開発研究が,民間企業との共同研究として行われている。
このエンジンは液体水素を燃料に用い,飛行中に大気から吸い込んだ空気を酸化剤にして,この燃焼ガスジェットによって推進力を得るもので,エアーターボラムジェット(ATR)エンジンと呼ばれている。特に,宇宙研で開発しているものは,水素の冷媒としての特性を活かしたエキスパンダーサイクルを用いていることから,ATREXエンジンとして世界的に知られている。
この研究開発に伴って能代ロケット実験場には,ATRエンジンテストスタンド,高温空気供給装置および計測系が整備された。また,ATREXエンジンは大気中から大量の空気を吸い込むため,燃焼試験は屋外で,準備作業は屋内で行うため,テストスタンドを覆う可動ドームが設けられた。
1990年度から1992年度には,ターボファン,燃焼器および内部熱交換器に重点をおいた試験が行われ,1995年度からは,吸入空気の温度を160Kに冷却するプリクーラーを装着した試験が行われた。また,1996年度にはドイツの企業との共同研究で,再生冷却燃焼器を装着した試験も行われた。1996年度までに,9期に分けて合計44回の試験が行われている。
(棚次亘弘)