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科学衛星

1.ミッション・プランニング

ASTRO-Dの計画は1984年にスタートしました。それは宇宙科学研究所の宇宙理学委員会の下に設けられた「ASTRO-Dワーキンググループ」によって計画づくりが推進されました。このワーキンググループは、実質的に日本のX線天文学者のすべてを包含するものでした。そのころは、すでに日本で2番目のX線天文衛星「てんま」が1983年に打ち上げられて運用されており、3番目のX線天文衛星「ASTRO-C(後の「ぎんが」)」も1987年の打上げをめざして開発されつつありました。

ミッションの策定にあたって、次のような点が肝要と考えられました:

X線天文学を続的に発展させ、この分野の研究を安定して成長させるためには、約5年おきにX線天文衛星を打ち上げるのが最適です。このことから、X線天文学の人たちは、ASTRO-Dのミッションを1990年代の早い時期に打ち上げることが望ましいと考えました。それぞれのミッションが、現在直面している科学上の諸問題の理解を一段と深め、新たなフロンテイアを拓くためのユニークな展望を提出しなければならないことは言うまでもありません。

ASTRO-Dのグループは、この戦略が、急速に成長している日本のX線天文学界と、過去3機のX線天文衛星の生み出した科学上の実績によって、十分に果たすことのできるものであると確信しました。

ASTRO-Dのミッション・コンセプトは、以下のような考察にもとづいて設定されました:

宇宙科学研究所が開発し「てんま」衛星の主要機器として使われている蛍光ガス比例計数管は、その驚異的なエネルギー分解能によって、宇宙X線源の「鉄輝線分析」という新たな分野を拓きました。この成果は必然的にX線天文学者を、X線スペクトル分析の発展に向かわせました。一方「ぎんが」の科学目的は、X線源の急速な時間変動の研究、私たちの銀河系の外のX線源、とくに活動銀河核の研究にありました。そのため「ぎんが」には、史上最大の面積を持つ比例計数管が主要機器として採用され、イギリスの科学者と共同で開発され搭載されました。この方向に沿った自然な発展は、銀河を宇宙論的な距離において観測して宇宙進化を研究することです。これらの考察にもとづいて、ASTRO-Dは高感度の撮像とスペクトル分析を行うミッションとすることが決められました。

「ぎんが」よりも桁違いに高い感度を達成し、無数のかすかなX線源に起因する混同を避けるためには、入射X線をシャープに結像させること(撮像)が必要です。そのため、NASAゴダード宇宙飛行センター(GSFC)のP.Serlemitsos博士と名古屋大学のグループが密接に協力して作り上げた革新的な軽量のX線望遠鏡が、ASTRO-Dに最適と判断されました。焦点面機器としては、2つのタイプの検出器が採用されました。1つは高いエネルギー分解能を持つソリッドステートの検出器(後にソリソステートの検出器としてCCDが採用されました)、もう1つは撮像用蛍光ガス比例計数管です。後者のための基礎的技術は、すでに「てんま」の開発の際にマスターしていました。これら2つの検出器は、互いに相補的な性格を持っています。

日本のX線天文学者の数の推移

宇宙科学研究所のX線天文衛星の活動期間

宇宙科学研究所のX線天文衛星の成果にもとづいて出された論文数の年変化