No.238
2001.1


ISASニュース 2001.1 No.238 

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たとえば,こんな初夢は?

村 田 泰 宏


 「初夢」というお題をいただき,思いつくことはいろいろとありますが,ここでは,現在進行中のVSOPという計画の拡張をかんがえていった場合どこまで行きつくか,考えをめぐらしてみたいとおもいます。

 VSOPでは,スペースではじめて干渉計型の望遠鏡を実現しました。「干渉計」というのは,1枚のレンズや凹面鏡で光(電磁波)を集めるのではなく,つ以上のレンズや鏡を使ってあつめた光(電磁波)をさらに後段で光学的にまたは電気的に「干渉」させることにより,複数の望遠鏡を組み合わせて,つの望遠鏡を作るというものです。VSOPの場合は,地球上の望遠鏡と宇宙望遠鏡を組み合わせて,約3万kmの大きな望遠鏡を作りました。

 「干渉計」は電波天文学の分野で進んでいますが,電波以外の電磁波の領域でもどんどん開発がすすんでいて,スペース望遠鏡の将来計画でも「干渉計」型の望遠鏡の計画がたくさんあります。電波天文学ではけっこう古い(といっても20世紀半ばの)技術ではありますが,今後の将来計画にとっては,まさに「旬」な技術です。それはなぜかというと,「干渉計」型の望遠鏡は,

(1)複数の望遠鏡を離すことにより解像度を上げることができる,
(2)大型の望遠鏡を作って感度を上げようとすると製作できる大きさが限られるが「干渉計」型の望遠鏡ではそのような制約が少ない,
などという利点があるからです。

 さて,ここからは,つばを眉につけてお聞きください。「干渉計」の基線を延ばせば延ばすほど解像度が上がります。ここでは,一つの干渉計を構成するアンテナを太陽系のなかにちりばめ「太陽系干渉計」(タイトルバック)を作ります。たとえば,冥王星軌道あたりまで太陽系全体に千個くらい置いてみましょうか。あんまり波長が長い波だと星間シンチレーションのために天体の像がボケてしまいますので,波長1ミリくらいの波長で観測するとしましょう。波長1ミリで口径が76天文単位(約100億km)の望遠鏡だと,50光年の距離で,5kmの解像度になります。もちろん遠い天体についてはそれなりに解像度は悪くなりますが,それなりに楽しい天文学が考えられます。

 いろいろと考えをめぐらしたいのですが,紙面の都合で,ここでは近い天体の惑星の観測について考えます。すでにもう太陽系外に10個程度の惑星がすでに発見されています。今後観測装置の発展とともに,「太陽系干渉計」実現のときにはすでにもうたくさん太陽系外の惑星が見つかっているでしょう。「太陽系干渉計」は解像度が高いので,太陽系外で見つかっている惑星に対して,高解像度で観測できます。

 下図は,「はるか」が実際に波長6cmの電波で見たわれわれに一番近い地球型惑星(地球)です。これは人工電波ではなく自然の電波放射です。地球の場合,海と陸があるために電波の強度が図のように変わります。解像度は約5kmです。

 もし「太陽系干渉計」が実現されることになると,同じ解像度で,50光年くらいの範囲の太陽系外の惑星に対して同じような観測をし,何がその惑星にあるかわかるようになります。宇宙人がいて,われわれと同じように電波を通信に使い,そのような電波を傍受することができるかもしれません。傍受した電波のスペクトルを調べてやれば,どのような変調方式を使って通信をしているかわかります(物理法則は全宇宙で共通な筈なのでおなじようなことを宇宙人もしている筈です)。うまく解読してやれば,宇宙人の会話を盗み聞くことができます。

 ただ,「太陽系干渉計」を実現するためには干渉計を構成する一つのアンテナの大きさが数万kmにもなります。VSOPでは3万kmを実現しましたが,これはほとんど電磁波を集める能力のないスカスカのアンテナです。それとは違って直径数万kmに入ってくる電磁波をすべて集めなければなりません。アンテナの鏡面(またはレンズ)をそれぐらいに広げてやらなければなりません。まさに「大風呂敷」をひろげるのです。

 この「大風呂敷」を太陽系中に散らして「太陽系干渉計」を実現します。もっとも,どこかに技術の発達した宇宙人がいて,すでに「太陽系干渉計」を実現し,地球人の会話をすでに盗聴しているかもしれませんね。

(むらた・やすひろ) 


はるか」が観測した地球の一次元の電波放射強度。 
横軸が時間縦軸が電波強度の相対値である。    
「はるか」の軌道運動のため見る位置が変わるので,
横軸は「はるか」が見ている方向に対応する。   


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