No.238 |
ISASニュース 2001.1 No.238
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201X/202X年國 中 均【201X年】宇宙活動は多様性を増して種種雑多な宇宙システムが運用されるようになりました。それぞれは多種多様なスラスターを搭載しています。そうそう,そのスラスターとやらを昔は「電気推進」などと呼びちまちま研究していたものですが,今はすっかり一般技術となってたくさんの企業が独自に製造するようになっています。驚くなかれ,そのXX%にマイクロ波放電式(μw:マイクロウエーブ)イオンエンジンが利用されているというのだから,時代は替わったものです。初期型「μ(ミュー)10」はもとよりその後継型「μ20」,さらに推力増強型「μ30」が実用化済みです。 今日はこれから無人資源探査宇宙船28号が小惑星1960HKに着陸,鉱物資源分析データを送信してくる予定になっています。その機体番号が示すように,もうすでに数十の探査船が宇宙を飛び回り,資源探査を自動自立で行っているのです。もちろん,信頼性安定性に勝るμwイオンエンジン「μ20」が搭載されていることは言うまでもありません。 これまでの科学探査を目的としたサンプル採集により,プラチナなど稀少貴金属や工業的に有用な建設材料物質の存在が明らかとなり,各国は所有権/領有権の主張のため盛んに宇宙資源調査を行うに至ったのです。 それでは宇宙に張り巡らされたスペース・インターネット経由で探査機に接続してみましょう。 あれ!,今朝の「月」経由はたいへん混雑しているようで,なかなかスムーズにはデータ受信してくれません。ごく最近稼働を始めた「火星」経由に切り替えてみましょう。そういえば,この新ネットワークの基幹である火星静止衛星の主推進にもμwイオンエンジンが使われているはずです。おっと,そうこうするうちに,無人資源探査機からのデータが画面に並び始めました。どうも岩質は「炭素質コンドライト」のようです。ずいぶんたくさんの水を含んでいます。この小惑星は人類の惑星間旅行のための補給基地「宇宙のオアシス」として大いに役立つと期待されます。
【202X年】宇宙船の性能,快適性,耐久性,生産性,経済性向上など,多くの技術革新の励行と宇宙活動革新の原動力として,「1万時間宇宙耐久レース」が企画されるようになりました。宇宙航行はそれまでの国家規模の事業ではなく,個人民間レベルの活動となり商業活動としてまたプレジャー目的に利用されています。大小様々の組織企業が宇宙船をデザイン,製造,販売する時代となっています。その技術力を競い合い世に示す好機と捉え,大企業やレーシングチューナー・ショップが名誉と威信を懸けてこのレースに臨んでいます。 地球低高度軌道よりスパイラルレージングにより軌道を徐々に上昇させ,1万時間後に地球からもっとも遠い船とそのチームに栄誉が与えられるのです。太陽電池メーカー,スラスター・サプライヤー,機体製造会社,燃料推進剤製造業者がタッグを組み,独自の宇宙船をレースにエントリーさせています。レース専用のフォーミュラ仕様とは一線を画し,あくまで性能向上を図った実応用宇宙船がその主体となります。宇宙船本体のみならず,1年以上の期間におよび宇宙船を遠隔操縦する各オペレーション・チームの戦術戦略も見どころです。レースの模様は宇宙にちりばめられた超小型衛星から,またレーシング船のオンボードカメラから逐次その映像が全宇宙中継されるのです。 さてμwイオンエンジンのレース仕様「μ30gt(グラン・ツーリスモ)」は複数のプライベートチームやワークスチームに採用されています。スプリントレースならともかく,耐久レースならば信頼性安定性操作性に優れるμwイオンエンジンは正にうってつけ。残念なことに前回は他方式イオンエンジンに苦杯をなめています。今回こそはコンストラクターズ・チャンピオンシップの奪取を期し,今レースの火ぶたが切って落とされようとしています。 (くになか・ひとし)
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