No.238 |
ISASニュース 2001.1 No.238
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あるうららかな春の日に村 上 浩ぴぃー,ぴぃー,ぴぃー。やけにけたたましい鳥の声で目が覚める。また寝過ごしたみたいだ。こんな朝は研究所に行くのは止めて家で仕事をしよう。半分だけ起き出した脳みそでコンピューターに呼び掛ける。 「宇宙研につないでメール読んで。仕事関係だけ選んで。あっ,全部日本語でね。」 「・・・・声が登録されたものと違うと言って接続を拒否されました。」 「うー,寝起きで布団に潜ってちゃだめか。顔の画像も送れないし。えいっ。これでどう?」 「はいOKです。まず緊急のメールはありません。」 「はー,よかった。」 「赤外スペース干渉計プラネットウォッチャーの運用チームからの連絡です。3ヶ月前に発見されたαUso星系の6番目の小惑星ですが,22年後に第2惑星に衝突する確率が高いそうです。」 「ウォッチャーって,今月の運用責任者は山村君だっけ?」 「そうです。」 「じゃ,がせネタじゃないんだな。第2惑星は,もしかしたら結構高度な文明があるんじゃないかって言われてたけど,あんな大きな小惑星がぶつかったら文明どころか惑星自身だってどうなるかわかんないね。」 「日本中から隣人を救えっていうメールが殺到しているそうです。」 「えっ,的川先生もう発表しちゃったの?」 「はい,約30分前にネットに。開かれた研究所ですから。」 「あ,そう。でも隣人を救えったって,光子ロケットなんてないんだし,どうやって助けるんだ?」 「私に聞かないでください。」 「わるい。まあ今まで見つかった他の星は,初期の生命の徴候があるっていうだけか,そうじゃなきゃ文明が滅んだ後じゃないか,っていうのばっかりだったから,期待するのもわかるけど。人類って寂しがり屋なんだよねえ。しかしもし何か助ける手段があったとしても,こんな他の惑星系にまで人類が干渉して良いのかなあ。科学技術に思い上がりと傲慢は禁物って,20世紀に身にしみたんじゃなかったっけ?」 「いちいち私に同意を求めないようにして下さい。」 「あーそっか,単なる端末なんだよな。だけどけっこう自然な受け答えするから,つい人間みたいな気がして。」 「わかれば良いです。」 「ふん。でもやっぱり自然に干渉し過ぎちゃいけないと思うなあ。まあ宇宙全体から見れば,人類が無茶やろうが,惑星が滅びようが,ちっぽけなことなんだろうけど。」 「たった今,スペースガード協会の吉川先生からのニュースが入りました。我々の太陽系の小惑星2038XXが,突然消えたそうです。」 「そのうち地球にぶつかりそうだから,どうやって軌道を変えようかって議論のあったやつ?」 「そうです。」 「消えたって,ほんとに消えたの?」 「そうです。跡形もなく,だそうです。」 「おい,それって我々の他にも寂しがり屋がいたってこと?」 「お答えできません。」 「はい,はい。」
ん? なんだこりゃ。 (むらかみ・ひろし)
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