No.238
2001.1


ISASニュース 2001.1 No.238 

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軌道宇宙観測所への旅

満 田 和 久 


 “くっ”と重力の変化を感じた後,周囲は無重力状態から1Gの世界に戻った。窓の外には地球の青色が遠ざかってゆくのが見える。

 2023年2月20日(注),私は地球周回スペース・ステーションでシャトル機を乗り継ぎ,第ラグランジュポイント軌道宇宙観測所に向かっていた。目的地までの所要時間は70時間弱1Gに制御された宇宙船の加速度のおかげで宇宙にいることを全く感じさせない快適な旅である。ボールペンが浮いたりはしない。中間点での推進方向切り替えの短い時間を除いては・・・・。もちろん宇宙線は完全に遮蔽されており地上よりも放射線環境はよいくらいである。

 第ラグランジュポイント観測所には,低周波電波望遠鏡や赤外線からガンマ線までの全波長域をカバーする軌道望遠鏡群が揃っていて,今や宇宙観測のメッカである。その昔ハワイのマウナ・ケア山に登ったように,今の時代の観測者は自らの新しい検出器を担いでこの地(?)を,軌道観測所を訪れる。私は今回新しく開発した線強度干渉装置(intensity interferometer)をカーゴベイに携えている。これを2台の超大型X線反射望遠鏡の焦点面に設置するのである。

 テレビドラマの台詞,『あなたとわたしが出会うことは,ビッグバンの時にすべて決まっていた』。なんという,メロドラマチックな台詞。しかし,本当にそうだろうか?

 現在の宇宙の姿を作った最初の偶然とは何なのだろうか?最初にできた天体が潰れた時に作られた高エネルギー光子,そのレッドシフトした姿を捕らえるのが,この観測の主な目的である。基線長1000m,波長オングストロームの強度干渉計の空間分解能は0.02マイクロ秒,“宇宙の果て”における地球と太陽の距離の10分の1の大きさを分解できる能力である。この方式は,光子検出を行った後で二つの望遠鏡の線強度を干渉させるので,難しい光学系は必要としない。その代わりにその実現には莫大な検出面積と超高線エネルギー分解能の実現が必要であった。果たしてfirst lightはうまくゆくであろうか。どんな最初の天体の名残を見せてくれるであろうか?

 それはきっと現在の宇宙の姿の最初の種を見せてくれるに違いない。そんな不安と期待を抱きながら・・・・,やがて目が覚めた。

 時は変わって,24世紀。連日,以下のような記事が,亜空間通信新聞のヘッドラインを賑わしていた。
『天文学者の見てきたような嘘,またまた明らかに。』
人類の宇宙活動圏内にワームホールが発見され,そこに送り込んだ探査機から,我々の銀河中心の直接探査データが続々と送られてきているのである。直接探査した結果からは,あれこれと状況証拠を積み重ねてきたこれまでの解釈とは矛盾するところがたくさん見つかっている。記事には,
『本質的には,過去の解釈と変わらない。3万光年の遠方から観測してこれだけ正確だったのはむしろすばらしいと言うべきでしょう。』
という天文学者のコメントが載っていた。

 凄い時代になったものである。全く悪夢である。

(みつだ・かずひさ) 


注:1983年2月20日,1993年2月20日はX線天文衛星『てんま』と
『あすか』の打ち上げ日である。             


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