すべての宇宙好きへ、選択肢としての「JAXA学生受入制度」
〜宇宙科学研究所(ISAS)学生インタビュー:上住昂生さん・松枝里奈さん〜

企画・インタビュアー 武内 友希

「 JAXA 大学 」検索
これは自分が高校生だった頃、大学進学を考える際に何度も検索したフレーズだ。検索結果にはJAXAの職員になるには理系が有利、職種に幅があるため文系でも問題ない、どれくらいの学歴が必要、Q&Aなど。参考になるともならないとも言い切れない回答が並ぶ。かつての自分はここで何度も止まってしまった。情報は、可能性だ。それを痛いほど知った今、考える。もしもあのとき、JAXAの学生受入制度を知っていれば、充実した大学生活とJAXAでの学びを両立できたのではないかと。

初めまして、インタビュアーのJAXA宇宙教育センター夏季アルバイト、武内友希です!現在、鹿児島大学に在籍し、天文学系の研究室に所属していますが、「JAXA学生受入制度」の存在を詳しく知らず、情報収集能力の不足によって可能性の一つを逃した気持ちを持っていたことがありました。そんな自分の宇宙開発への憧れと少しの後悔から、より多くの宇宙好き高校生・大学生に「JAXA学生受入制度」の存在をできる限り早くから知ってもらいたい!もっと自分の進路について積極的に動いてもらいたい!と思い、実際にこの制度を使ってJAXAで研究されている2名の大学院生にインタビューしつつ、選択肢としての「JAXA学生受入制度」について紹介していきたいと思います!

インタビューを受けた人

上住 昂生

上住 昂生 (東京大学 新領域創成科学研究科先端エネルギー専攻 藤田和央研究室 修士1年)
東北大学工学部卒業後、東京大学新領域創成科学研究科へ入学し、JAXA学生受入制度のうち連携大学院方式によって藤田和央研究室で研究指導を受けている。学部4年次は原子力発電所の炉心構造材料の腐食について研究をしていた。現在の研究テーマは学部時代とは全く別の分野である、「微小重力天体への探査機着陸時のレゴリス*1飛散」。

松枝 里奈

松枝 里奈 (東京都立大学 システムデザイン研究科 航空宇宙システム工学域 北薗幸一研究室 修士2年)
東京都立大学都市環境学部分子応用化学コースから、同大学システムデザイン学部航空宇宙システム工学コースへ転部*2、卒業。同大学大学院へ進学。北薗研の学生として、学部4年次と修士1年次にJAXA学生受入制度の技術習得方式によってISASの佐藤英一研究室*3で一定期間にわたり技術指導を受け、また現在は受託指導学生方式によって佐藤研で「宇宙機の軽量化を目的とした金属材料の機械特性*4解明」をテーマに研究指導を受けている。

インタビューをした人

武内 友希

武内 友希 (鹿児島大学 理学部物理科学科 宇宙コース 永山研究室 学部4年)
学部3年次のコース配属で宇宙コースへ配属。装置開発の段階から天文学に携われることに惹かれ永山研究室へ。現在の研究テーマは「IRSF*51.4m望遠鏡用可視2波長同時撮像カメラの制作(仮称)」。

※上記3名はJAXA宇宙教育センターで大学生・大学院生を対象とした夏季アルバイト生(現在は募集終了)。教材作りやアウトリーチ等の補助作業を行った。
JAXA宇宙教育センター

JAXA連携大学院とは?

上住: 簡単にいうと、JAXAと大学の協定に基づいてJAXA研究者の方々が大学の客員教員となり、大学の教員と一緒に学生の学位取得に向けて研究指導を担当する制度です。学生の立場から見るとほとんど普通の大学の研究室と一緒で、ゼミや研究、論文指導などをJAXAの方々にご指導いただきながら進めていく感じです。その大学と連携をしているJAXAの先生に学生から事前にコンタクトできる場合もあり、大学院を受験して合格し、大学からJAXAに受入申請して承認されればその研究室で指導を受けられます。自分の場合は東大の大学院とJAXAで構築している連携大学院なので試験は東大の大学院入試です。別の試験があるというわけではなくて、大学院の中の1つの研究室というイメージです。

詳細はこちら:「JAXA学生受け入れ事業」大学院生等の受け入れについて

研究指導を受けられる連携大学院方式および受託指導学生方式と、特定の技術について指導を受けられる技術習得方式、そして就業・研究を短期に体験できるインターシップ方式*6の4方式がある。連携大学院方式は学位取得まで複数年の受入を前提とし、受託指導学生方式は1年単位(修士課程相当では繰り返し不可)となる。技術習得方式は年間最大120日、インターンシップ方式は10日間が上限。いずれも学生個人ではなく大学等が組織としてJAXAに受入申請を行い、審議のうえ可となれば受入れが行われる。

松枝: 私の方は連携大学院方式ではなく、都立大学から受託指導学生という形でISASにてDestiny+という深宇宙探査機に関わる基礎研究をしています。連携大学院は大学院からですが、技術習得方式は高専生や学部生でも宇宙研で学ぶことができます。私の場合は、学部4年次と修士1年次に技術習得方式で技術を学び、最後の年に受託指導学生方式で研究指導を受けているので、かなり長い期間にわたって大学だけでなくISASでも指導を受けている形になります。都立大もJAXAと連携大学院協定を結んでいますが、それ以外の方式でも宇宙研で研究できるんだよってことを知ってほしいです。ISAS学生コミュニティ*7でも、実際、総研大*8や東大*9の人ばかりというわけではなく法政大学や都立大学などいろんな大学の人がいます。

  • *1 レゴリス : 地球の外の天体の砂
  • *2 転部 : 同じ大学の中で学部(専門)を変えること
  • *3 ISAS佐藤英一研究室
  • *4 機械特性 : 引っ張ったり曲げたりした時の特性
  • *5 InfraRed Survey Facility : 名古屋大学が南アフリカに設置した天体観測所
  • *6 JAXAインターンシップ
  • *7 ISAS(宇宙研)での学生コミュニティ
  • *8 総研大 : 総合研究大学院大学の略称。ISASは同大学の物理科学研究科宇宙科学専攻の拠点となっている(組織変更により2023年度からは先端学術院先端学術専攻宇宙科学コースという名称となる予定)。通常の大学院と異なり修士課程は存在せず、最初から博士学位の取得を目指した指導計画が立てられる。
  • *9 東大 : 東京大学の理学系研究科と工学系研究科には、学際理学講座と学際工学講座という区分があり、客員教員の委嘱を受けたISASの研究者が、大学本籍の研究者と同様に研究室を構えて学生の指導や講義を担当している。

この制度をどこで知りましたか、きっかけを教えてください

インタビューの様子

上住: きっかけは学部3年次の研究室配属です。当時から宇宙関係の研究をしたいと考えていましたが、希望していた研究室には成績が足りず配属されませんでした。どうしても宇宙関係の研究が諦め切れなかったため、大学院で研究室を変更することを決めました。それなら当時所属していた東北大に絞る必要はないと考え、色々模索していたときにJAXAの連携大学院をインターネットで見つけました。昔からJAXAには憧れがあったので、学生でありながらJAXAに通い、研究者の方々から直接指導を受けることができるという環境に魅力を感じて進学を決めました。

武内: 総研大は選択肢として考えられましたか?東大に入った理由も聞かせてください。

上住: 総研大は博士課程(5年一貫制)のため、自分の条件とは合いませんでした。ほかに考えたのは都立大、名古屋大、京都大などです。東大の中で今の研究室を選んだのは、入る前にさまざまな先生方からお話を聞く中で、藤田先生が「うちの研究室で責任を持って教えられることなら好きなことやっていいよ」というので、やりたいことを色々やれるんだなという点で決めました。

松枝: 私はもともと推進系や材料系に興味があり、応用化学コースに入学し、そこで航空宇宙に行くのが難しいと感じ転部しました。連携大学院は転部の際に知りました。しかし材料系では連携大学院の研究室がなく、探していたところ、技術習得方式や受託指導学生方式であれば毎年のようにISASへの受入申請が行われていることを知り、佐藤英一研究室を希望しました。

武内: それは学部3年の時ですか?

松枝: そうそう、4年からの研究室配属前に今の研究室の見学会があって、その時はJAXA相模原キャンパスの見学させてもらいました!

上住・武内: 羨ましい…!

松枝: やっぱりISASに入って実機とか実際のプロジェクトを見て研究できるのはいいなって思います。

上住: JAXAでの研究って結構プロジェクトベースの研究ですよね。

プロジェクトベースの研究とは?

上住: 実験や研究テーマが、JAXAが見据えている宇宙ミッションの実現に向けた基礎研究となることが多いため、研究の世界で言うと近い将来、実現を見込まれるようなものに関する研究をする場合が多いです。

松枝: プロジェクトの構築に向けたミーティングに参加させてもらうこともあります。

上住: 企業の研究とイメージ近いかもしれないですね。探査機などの打上げというリミットまでに、ここまでは研究するみたいなイメージです。

武内: 大学では10年がかりで研究するようなテーマもあるので、そう考えると関わったものが直近で実際にできていくフェーズを目の当たりにできるのは凄いですね!

入る前と入った後のイメージは?

上住: 基本的に入る前から先生にコンタクトをとり、どんな感じか聞いていたので、あんまり変わらなかったです。普通の大学の研究室といった感じでした。

松枝: 確かに…!

上住: 連携大学院だから、JAXAだからとかではなく、先生は丁寧に学生の面倒を見てくださるし週1でゼミはあるし、そういう意味では普通の大学院と変わらないと思います。普通にJAXAで研究してるって感じです(笑)

松枝: 私はISASって意外とお茶目な人多いなって思いました(笑)仕事やから結構ヒリヒリしてるのかな、緊迫した雰囲気かなとか思ってたんですけど、喋ってみたら面白い人ばかりです。質問しても笑顔でユーモアを交えつつ真摯に対応してくださります。宇宙好きが多いから話すと幸せそうに話す人が多いイメージです。

学費はどのような仕組み?

上住: 私の場合は東京大学とJAXAの連携大学院なので、払う学費は国立大学の大学院の授業料のみです。連携大学院だからと言って、学生の費用負担が増えたりすることはありません。私立との連携大学院でも、その大学の学費を払う形だと思います。

松枝: そうですね、技術習得方式や受託指導学生方式でも、その大学に通常の学費を払うだけです。

生活・研究の拠点を教えてください

上住さん・松枝さんの生活・研究の拠点

上住: 藤田研はJAXAの調布航空宇宙センターに研究室があるので、その周辺に住んでいます。東大って本郷や駒場などにキャンパスがあるんですけど現在は授業がオンラインなので、ほとんど行ったことないです。赤門も通ったことないんじゃないかなってくらいです(笑)ほぼJAXAにしか通わないですね。デスクは調布にあって作業・解析も調布なんですけど、実験する際に相模原のISAS行ったり、いろんなところ行ったりって感じです。

武内: いろんなところって例えばどこですか?

上住: 自分は実験が大規模で、微小重力って落下塔を使ってもの落としたり、飛行機で放物線飛行をしないと環境を再現できないのですが、落下塔を使った実験は北海道でやるんです。10月に行われる実験に参加する予定なので、それが初めてになります。場所に関しては実験によるかなって感じです。

松枝: 大学のゼミはオンラインでの参加が多いため、9割ISAS(相模原)で1割は大学(都立大日野キャンパス)にいます。私もほとんど成績表を取りに行くくらいしか大学に行くことがないです(笑)

JAXAで研究する上でいいところは?

JAXA相模原キャンパス

上住: 宇宙開発の最先端を目の当たりにしつつ、JAXAの方々から直接指導していただきながら研究を進められるというところが一番大きいです。それは他の大学院では絶対ないと思います。また、JAXAの研究者の方と同じ環境で研究するため、その人たちがどういう研究をしていて、どういう議論をして研究を改善しているかなど、プロの研究者の過程を見られるところも勉強になります。

松枝: 困ったことがあるとJAXAの方から教えてもらえたり、実機を見たりすることもできます。実際に運用について担当の方から直接説明してもらえることもあって、実験の背景の話まで聞けたりするのはいいところだと思います。いつまでに打ち上がるから、それまでに自分もこれだけ貢献したいという目標もあって、その目標をモチベーションに頑張れるっていうのもいいところだと思います。

上住: 宇宙好きがたくさんいるっていうところも個人的には嬉しくて、仲間意識はすごいあります。先日の観測ロケットの打上げも、研究室のメンバーがそれぞれ自宅からズームで繋いで、みんなでしゃべりながら見ました(笑)

武内: いいですね〜。

現時点での進路を聞かせてください

上住: 自分は絶賛就活中、宇宙系を幅広く受けてます。なんとも言えないですね、まだ始まったばっかりです。

松枝: 航空宇宙に携わることのできる会社に就職します。

武内: すごいです…!!

松枝: 逆にJAXAで研究してるからみんながJAXAに入れるわけではないというのは少し伝えたいですね。

上住: それはそうですね、JAXAへの推薦とかパイプは無いです、一般の就活生と土俵は一緒です。

松枝: またJAXAで研究したからといって他の企業で直接有利ってこともないです。でもやっぱりここで研究して見えてきたプロジェクト的視点は、就職活動で活かせることができたと感じます。宇宙開発といっても今は民間とJAXAが連携してやっているところもあるので、JAXAに入れなかったからといってそこで宇宙系を諦めるっていうのは早いのかなって思います。

上住: その通りだと思います。

最後に、高校生・学部学生にメッセージお願いします

上住: 時代をフル活用してほしいと思います!なんでも手に入るし、誰にでも直接コンタクトが取れる世の中です。変にためらわずに積極的にアンテナを高く張って可能性を模索してほしいってすごく思いますね。自分の大学院受験時には同じところを受けた先輩を見つけて、その人にDMを送って情報をもらえました。そういう事ができる世界だよ、っていうのは知ってほしいです。
あと、大人は若い人が助けを求めると積極的に助けてくれるので、メールとかバンバン送ってバンバン聞いた方がいいと思います!

武内: 実際詳しい人(所属してる人や先生など)に聞くのが情報を集める上で一番ですよね!

上住: 少なくともJAXAの中では熱意のある若者を無下にする大人には会ったことないので。ガンガン話聞いた方がいいですね。

松枝: そうですね、【ここから急に関西弁 笑】高校生で自分が文系やから宇宙に関われない、理系やけど物理苦手やから宇宙無理とか思ってる子がいたら「いやいやちゃうちゃう、そこは諦めんで頑張れ!」って思います。学部の時に応用化学入って航空宇宙に繋がらないなって分かって他大学への編入も考えました。でもいろいろ調べてたら同じ大学の中で転部できるっていうのを見つけて、本気でやれば思ってもみなかった可能性が見えてくるなって思います。転部なんて誰もしてなくて見たこともなかったけど、それができました。自分の希望する方向に行けなくても、諦めないでほしいです。ダメだったら諦める、じゃなくていろんなことにポジティブに、いろんな人に相談してほしいし、いろんな人おるから繋がってみたり諦めず探してみたりして見るといいんじゃないかなと思います!

武内: 松枝さんってもしかして関西の方ですか…?

松枝: そうです、でも関西弁があんまり出ないらしくて、たまに関西が出ると本気で喋ってんのね!って言われます(笑)

武内: 本気のお話、届いてると思います!今日は本当に貴重なお話ありがとうございました!

上住・松枝: ありがとうございました!


関連リンク