太陽そして恒星の磁気活動現象の解明に大きな一歩
―衛星観測データと数値シミュレーションの比較検証―
~令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」、受賞インタビュー:鳥海森 准教授~

鳥海森 宇宙科学研究所太陽系科学研究系准教授(高感度太陽紫外線分光観測衛星(SOLAR-C)プロジェクトチーム併任)が、「衛星観測と数値計算を用いた太陽恒星磁気活動現象の研究」というテーマで、令和6年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました。表彰式は、2024年4月17日に文部科学省にて行われました。

文部科学大臣表彰は、科学技術に携わる者の意欲の向上を図り、日本の科学技術の水準の向上に寄与することを目的として、顕著な成果を収めた者を表彰するものです。その中でも若手科学者賞は、萌芽的な研究、独創的視点に立った研究等、高度な研究開発能力を示す顕著な研究業績をあげた若手研究者を対象としています。

鳥海森氏

この度は、文部科学大臣表彰「若手科学者賞」の受賞、おめでとうございます。まず、受賞を知った際の感想をお聞かせください。

受賞の連絡をいただいた時、思わず「おぉ...」という声が出て、いろいろな人の顔が浮かびました。指導教員の先生、同じ研究分野の人たち、これまで仕事を一緒にしていただいた皆さん、いろいろな方々に支えてもらえているからこそ、受賞することができたと思いました。そして、その受賞のことを最初に伝えたのは妻でした。感謝の思いを込めて。本当に喜んでくれました。

受賞のテーマである「衛星観測と数値計算を用いた太陽恒星磁気活動現象の研究」について教えてください。

鳥海森氏インタビュー1

研究内容としては、太陽観測衛星「ひので」などを用いたデータ解析と、スーパーコンピューターによる数値シミュレーションを組み合わせて比較検証するという研究手法で、太陽の表面で起きる巨大爆発現象「太陽フレア」やその原因となる「黒点」のメカニズム解明に取り組みました。

太陽の黒点は、太陽の奥深くから表面へと磁場が浮上することで作られますが、太陽内部を直接観測することはできないため、磁場の浮上を再現する数値シミュレーションを行い、それと実際の衛星観測データを比較することで、太陽フレアの発生や黒点形成の一端を明らかにすることができました。

その研究の中で、「磁場のねじれ(磁気ヘリシティ)」がキーワードとお聞きしたのですが、簡単に説明していただくと、どのようなものでしょうか。

「ヘリシティ(helicity)」は英語で「らせん性」という意味で、磁場(磁力線)がらせんのようにどのくらいねじれているかを表す物理量を「磁気ヘリシティ」と呼んでいます。たとえば、ゴムひもをねじって放すと、そのねじれが元に戻る際にエネルギーが解放されると説明されます。同じように、太陽の内部から磁場が湧き上がってきて表面に黒点ができて、その黒点が磁場のねじれ(磁気ヘリシティ)を持っていると、それがたまっていき、解放された際にエネルギーを放出するのが太陽フレアであると説明されます。磁場のねじれの大きさを表したものが、磁気ヘリシティになります。

どのような部分で太陽観測衛星「ひので」などの衛星観測データを使用し、どのような部分で数値計算(スーパーコンピューター)を使用したのかを、もう少し説明いただけますでしょうか。

まず、太陽の内部から磁場がどのように表面に湧き上がってくるかは、目で見て観測することはできないので、それを研究するほぼ唯一の方法がスーパーコンピューターによる数値計算になります。磁場がどのように湧き上がってくるかをコンピューターの中で再現しましたが、これは私の大学院修士課程の頃の研究が元になっています。
一方、太陽の表面の黒点や周辺のフレアについては、「ひので」などの衛星観測データを分析しました。こちらは大学院博士課程の頃の研究が元になっています。そして、そのシミュレーション結果とその衛星観測データを比較してみると、ある部分が一致していることを発見しました。磁場が太陽の中からねじれながら表面にどのように浮かんでくるかについて、現在も分析を続けています。

今後の研究について、とくに次期太陽観測衛星「SOLAR-C」(ソーラーシー:高感度太陽紫外線分光観測衛星、2028年度の打上げを目指す)について、「ひので」との違いや何をやりたいとお考えなのかなど、将来の展望をお話しいただけますでしょうか。

これまでの「ひので」(SOLAR-B、2006年打上げ)についても、アメリカのNASAの太陽観測衛星「IRIS(アイリス)」(2013年打上げ)の観測データと比較分析することで成果を上げてきましたが、新たに「SOLAR-C」が加わることになります。衛星それぞれに特徴がありますので、さまざまな波長で観測する一方で、なるべく高い空間分解能力で同時に観測することで、さらにいろいろなことが明らかになると考えています。このような意味で、一つの衛星や一つの国では限界があるため、継続・発展とともに国際的な協力が重要です。

最後に、皆さんに、特に若手研究者や学生にお伝えしたいことなどがございましたら、お話しいただけますでしょうか。

鳥海森氏インタビュー2

今回の表彰式では、対面で800人ぐらいが集まったのですが、その際、宇宙だけでなく医学などの他の科学技術分野の研究者と一緒に受賞できたことは、とても貴重で刺激をいただきました。コロナ禍では難しかったことですが、このような知的交流やつながりは、「わらしべ長者」や「芋づる式」のように、新しい研究アイディアや人生の広がりにつながり、大事にしていきたいと考えています。振り返れば私も、周りの人たちに同じ分野の研究者や関連する人たちをたくさん紹介してもらったからこそ、今の自分があると思っています。若い世代や学生の皆さんには、恥ずかしがらず積極的に、いろいろな人と話をしてもらいたいと思います。そのために、私も若い人たちにいろいろな研究者をたくさん紹介してあげたいと思っています。


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