小惑星で雪崩!? はやぶさ2の探査天体Ryuguなどのラブルパイル小惑星が辿った進化とは?― 雪崩、そして、コマ型小惑星の形成とラブルパイル衛星の形成 ―
2022年11月25日 | 論文へのGATEWAY
この記事は「小惑星の雪崩」についてです。地球上では、アルプス山脈で起こった雪崩によって、ワイキキビーチまで崩れることはありません。しかしこれは地球 (直径約12,000km) の常識であり、直径1kmほどに満たない小惑星では話が全く異なることを以下に説明します。そもそも観測されている直径1km程度以下の小惑星は、不思議にも、コマ型形状をしているものが多いです。赤道領域が膨らんでいる特徴も見られます。コマ型小惑星の周りに小さな衛星 (地球における月のようなもの) が回っていたりもします。これまで粒子間の摩擦などの効果を考慮するのはシミュレーションにおいて難しく、その上で観測される特徴を全て同時に説明することはできておりませんでした。兵頭龍樹 (JAXA) と杉浦圭祐 (ELSI) は、スーパーコンピュータを用いて、ラブルパイル球状天体 (岩塊が重力で寄せ集まってできた球状天体) を回転させる新たな数値シミュレーションを実行しました。その結果、小惑星の自転周期がある加速度以上である臨界値より小さくなる、かつ、岩塊同士がある程度以上の摩擦を持つ場合に、自転軸対称に全球的な雪崩が起こることを発見しました。このとき、球からコマ型へと形状が変化することが明らかになりました。雪崩によって放出された岩塊は、コマ型ラブルパイル小惑星の赤道面に円盤状にばら撒かれました。その後、ばらまかれた岩塊が重力で集まり、ラブルパイル衛星になることも明らかになりました。さらに岩塊の一部は、小惑星の赤道領域に再集積することで、赤道領域を膨らませることが明らかになりました。これらの結果は、観測される小惑星の特徴を定性的によく説明します。
研究概要
地球の周囲には、無数の小惑星が存在します。小さいものほど、その数が多くなります。そして直径1km程度またはそれ未満の小惑星には、一枚岩ではなく、より小さな岩塊が重力で寄せ集まってできたラブルパイル小惑星が存在します。ラブルパイル小惑星には, 赤道領域が少し膨らんだコマ型 (または算盤の玉のような形) のものが多く存在しています (図1)。例えば、Ryugu (JAXA・はやぶさ2の探査天体)、Bennu (NASA・OSIRIS-Rex計画*1の探査天体)、Didymos (NASA・DART計画およびESA-JAXA・HERA計画*2の探査天体) は、全てそのような特徴を持つラブルパイル小惑星です。さらにDidymosの周りには、Dimorphosと名付けられた衛星が回っています。

このような小惑星は、水や生命の材料を太古の地球に運んできた天体とも考えられています。一方現在では、その地球への衝突は地球生命を危機的な状況に陥らせる原因になりえます。小惑星の軌道進化 (地球との衝突可能性) は、小惑星の形状、構成物質、自転状態によって大きく変わります。それゆえに、小惑星の形状進化や形成過程をきちんと理解することは、地球や生命の起源を探るためだけではなく、プラネタリー・ディフェンス (地球を小惑星の衝突から守ること) としても重要な課題です。
しかしこれまで、粒子間の摩擦などの効果を考慮するのはシミュレーションにおいて技術的に難しく、その上で観測される特徴を全て同時に説明することはできておりませんでした。本研究では、世界最高レベルの高度な数値シミュレーションとスーパーコンピュータ*3を用いて、ラブルパイル小惑星の自転加速に伴う形状進化の解明に取り組みました。構成粒子の物性 (特に摩擦力) の依存性も調べました。
その結果、次のような進化を遂げうることが明らかになりました (図2および動画を参照)。
- 小惑星の自転速度がある加速度以上で加速することで自転周期がある臨界値 (約3時間の自転周期) より小さくなる*4、かつ、構成する粒子がある程度以上の摩擦を持つ場合に、自転軸対称に表面の地滑り (全球で雪崩) が起こる。これにより球形からコマ型へと小惑星の形状が変化する。(ちなみに地球の自転周期はほぼ24時間なので、3時間はとても高速回転ですね)
- 雪崩によって放出されたラブルパイル小惑星の表層物質は、その赤道面に円盤状にばら撒かれる。これによって、コマ型ラブルパイル小惑星の周りに、粒子円盤が形成される。
- 粒子円盤は、衝突や自己重力で内外・両方向に拡散する。外側に広がった粒子は自己重力で集まりラブルパイル衛星となる。また内側に拡散した粒子は、コマ型ラブルパイル小惑星の赤道領域に選択的に再集積する。これによって、コマ型ラブルパイル小惑星の赤道領域が膨らみを持つようになる。
- (本研究の主内容ではなく、今後の詳細な研究が必要であるが)、コマ型ラブルパイル小惑星およびラブルパイル衛星の形状や表面状態 (粒子サイズ分布や物質特性) によっては、衛星の軌道が大きく広がり、最終的に衛星が失われることがある。そうならずに衛星の軌道が安定する場合もある。

小惑星で雪崩!? はやぶさ2の探査天体Ryuguなどのラブルパイル小惑星が辿った進化とは?― 雪崩、そして、コマ型小惑星の形成とラブルパイル衛星の形成(シミュレーション映像)― Hyodo & Sugiura (2022) ApJL 937 L36 の結果を元に作成
以上の一連のプロセスを踏むことで、ラブルパイル小惑星で観測されるコマ型形状、赤道領域の膨らみ、衛星の有無、が全て説明できる可能性が明らかになりました。一方で、各ステップの“程度”は、小惑星の初期形状、自転の変化の仕方、構成粒子の様々な物性、および、小惑星内部でのそれらの不均質性に強く依存します。小惑星探査などにより得られる各々の小惑星の詳細情報が必要ということです (惑星探査を行うことの重要性になります)。つまり、本研究のような理論モデル (数値シミュレーション) に各小惑星系の情報を組み合わせることで、各々の小惑星の過去と未来が、より鮮明に描かれるようになります。各小惑星における将来の詳細研究が待たれます。
現在のRyuguやBennuは、衛星を持っていません。しかし上述の進化を遂げたならば、太古のRyuguやBennuに衛星が存在していたことになります。そして現在までに取り除かれ、太陽系のどこかを彷徨っているかもしれません。一方で、Didymosの周りには衛星Dimorphosが現在も存在しています。この場合、ラブルパイル衛星は、その形成から現在まで、比較的安定な軌道を保っているということでしょう。
用語解説
- *1 OSIRIS-RExは、NASAが主導する小惑星サンプルリターンミッションです。そのターゲットは小惑星Bennuです。すでにサンプル採取に成功していて、2023年に地球に帰還する予定です。
- *2 DART計画はNASAが主導する小惑星ミッションで、小惑星が地球に衝突する将来的なリスクに備え、探査機を意図的に小惑星(Dimorphos)に衝突させ、小惑星の軌道変更実験を狙うものです(DimorphosはDidymosという小惑星とバイナリー系を形成しています)。2022年9月に探査機の衝突は無事に成功しました。今後、2024年打ち上げ予定のESAが主導するHera計画がDidymos -Dimorphos系を訪れて、衝突の痕跡や軌道の変化具合をより詳細に調べる予定です(JAXAもHera計画に協力しています)。
- *3 本研究では国立天文台天文シミュレーションプロジェクトの計算機であるCray XC50システム (アテルイII) を使用しております。
- *4 小惑星の自転周期は、太陽光エネルギーの吸収と放出に起因したトルクによって変化する。また、小さな隕石衝突や、惑星との近接遭遇時にも小惑星の自転周期は変化しうる。小惑星の形状変化が始まる自転周期の臨界値 (小惑星赤道面での重力と遠心力が釣り合う自転周期程度の値) は、約3時間である (約3時間で小惑星が1回自転する)。
論文情報
雑誌名 | Astrophysical Journal Letters (ApJL) |
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論文タイトル | Formation of Moons and Equatorial Ridge around Top-shaped Asteroids after Surface Landslide |
DOI | https://doi.org/10.3847/2041-8213/ac922d |
発行日 | 2022年9月29日 |
著者 | Hyodo R. & Sugiura K. |
ISAS or JAXA所属者 |
兵頭龍樹(宇宙科学研究所 太陽系科学研究系) |