Last Modified: 10/27/2020 15:53:19

2010年度冬学期 東京大学教養学部 (前期過程)「宇宙科学 II」

担当教官: 海老沢 研 (JAXA宇宙科学研究所)


更新履歴:
2011年03月02日 --- 平均点等をアップ
2011年02月17日 --- 解答をアップ
2011年02月09日 --- 試験問題をアップ
2011年01月25日 --- 講義内容を更新
2011年01月17日 --- 講義ノートと予定を更新
2011年01月10日 --- 講義ノートと予定を更新
2011年01月07日 --- 講義ノートと予定を更新
2010年12月14日 --- 予定を更新
2010年12月13日 --- 講義ノート、予定を更新
2010年12月02日 --- 講義予定を更新
2010年11月29日 --- 講義ノートを更新
2010年11月16日 --- 講義内容を更新、gifアニメーションを掲載
2010年11月15日 --- 講義ノート、講義予定を更新
2010年11月08日 --- 講義ノートを更新
2010年11月02日 --- 講義ノートを更新、第三回目のハンドアウトをリンク
2010年10月26日 --- 講義ノートを更新、第二回目のハンドアウトをリンク
2010年10月25日 --- 講義ノートをアップ、参考文献追加
2010年10月19日 --- 第一回目の講義(ガイダンス)資料をアップ
2010年09月28日 --- 作成


講義題目

X線天文学を通じて学ぶ基礎的な物理と数学

講義の目標、概要

大学の1年生レベルで学ぶ基礎的な物理学と数学が、最前線の宇宙科学、特にX線天文学の研究の現場でどのように使われているか、具体的な例を通じて学習する。本講義が学生諸君が受講している物理・数学の講義の復習または予習になり、実際的な問題に触れることによって基礎的な物理と数学の理解が深まることを期待している。これら物理・数学の講義が「縦糸」だとすると、 宇宙科学を題材としてそれらを横断的に結びつける「横糸」になるような講義を目指している。

中性子星やブラックホールなど、X線天文学の観測対象について学習するだけでなく、 人工衛星を用いた宇宙の観測研究を遂行するために必要な、衛星の姿勢、軌道、衛星データ処理なども題材とする。


講義の内容

昨年度一昨年度2007年度の講義ホームページを参考にしてください。 基本的にいままでの講義に沿ってやろうと思いますが、上述の講義の目標に沿って、 いくつか新たな内容を盛り込む予定です。

講義の方法

古典的ではあるが板書を用い、学生諸君にはノートを取って、手を動かして理解して欲しい。 式の変形や具体的な数字を使って計算して理解することはとても重要である。使い慣れた計算機(ポケコン)を持ってくること。

試験結果

2011年2月7日(月)17:00-18:30、試験を行いました(計算機持ち込み可)。普段の講義(25人くらい?)を はるかに超える143名が受験し、盛況でした(笑)。講義ノートをちゃんと理解していれば満点が取れましたね。
試験問題解答入り問題解答のみ
問1は一問1点、その他は一問2点で、計112点満点。110/112を掛けた点数を報告しました。
平均 76.2点、メジアン(中間値) 78点、最高 100点(12人いました!)、最低11点。試験は少々簡単すぎたでしょうか?
しかし、学んだ内容は決して低レベルのものではありません。本講義を通じて、極座標で運動方程式を解くことも、 特殊相対論も一般相対論もそんなに難しくなくて、宇宙科学とは面白いものだな、ともし思って頂ければ本望です。
希望者には解答用紙を返却しますので、連絡してください。

講義ノートについて

ブラウザで閲覧できるhtmlフォーマット
PDFファイル

板書の内容は講義後に、このホームページで公開します。ノートはlatexで書いて、それを latex2html でhtmlに変換しています。 余裕があれば(受講者がそれほど多くなければ)、最終講義の後に全講義ノートを印刷して渡す予定です。


授業でやったこと

第1回(2010/10/18) --- ガイダンス、講師自己紹介、宇宙の進化、X線天文学の歴史、研究紹介
以下のppt(Powerpoint file)を見るには、Powerpointまたは同等のソフト、あるいはフリーの Powerpoint Viewerが必要です
授業で使ったpptファイルそれをpdf化したもの
授業で見せた「すざく」 衛星の打ち上げムービー(Quick Time)

講義で触れた2002年ノーベル物理学賞の解説。 X線天文学とニュートリノ天文学の非常に良い解説記事です。

最後に紹介した私の研究内容に興味がある方は、天文月報2010年7月号に書いた以下の解説記事を参考にしてください。 これでついに長年の大問題に決着をつけたと思ってるんだけどな…。
「ブラックホール天体のX線エネルギースペクトル中に広がった鉄輝線のように見える構造の解釈について」

ご参考までに、私の研究と業務に関する解説記事です:
「中くらいのブラックホール」は存在するか? ISASニュース2005年10月号
「銀河面リッジからのX線放射は拡散成分か、点源の重ね合わせか?」 天文月報 2007年7月号
「データ共有という理念」日本物理学会誌 2008年9月号

よりくだけた一般向け読み物、「ISASメールマガジン」より、 未来におけるブラックホールの直接撮影について私が興味を持っている三つの謎について銀河面リッジからのX線放射について


第2回(2010/10/25) --- 宇宙の広がり、プランク長さ、プランク質量、プランク密度。線形空間、直交変換、天球座標。
ハンドアウト:赤道座標、銀河座標、黄道座標の関係。 参考までに、この図を描くのに使ったFORTRANプログラム。 グラフィックパッケージとしてPGPLOTを使っています。

第3回(2010/11/02) --- 直交行列の性質、オイラーの定理、オイラー角
ハンドアウト:オイラー角を用いた赤道座標から銀河座標への変換
第4回(2010/11/08) ---オイラー角、天球上の座標変換、人工衛星の姿勢
第5回(2010/11/15) ---天文衛星による観測、四元数
講義で見せた赤道座標から銀河座標へのZ軸、Y軸、X軸のまわりの連続回転による変換アニメーションオイラー軸のまわりの一回の回転による変換それを作ったFORTRANプログラムpgplotで図を描いて、gifsicleでanimated gifファイルにしています。これらの優れたフリーソフトの作者に感謝します。
第6回(2010/11/29) ---四元数と空間回転

第7回(2010/12/06) ---四元数と座標変換。超光速運動、特殊相対論
講義で配った3C273からの超高速運動のNaure論文:なんとアブストラクトは、わずか一行だけの非常に珍しい論文です。"Maps of the radio structure of 3C273 show directly that it expanded with an apparent velocity 10 times the speed of light from mid-1977 to at least mid-1980." 国立天文台VSOP-2グループによる超光速運動の解説

第8回(2010/12/13) ---ローレンツ変換、四元ベクトル

第9回(2010/12/20) --- ドップラー効果、光行差、 重力について、一般相対論、シュワルツシルド時空
地上で重力をなくすには?以下の映像や解説を参照に。これらの教材を提供してくれた皆様に感謝します。
Parabolic Flight映像
JAXAによるパラボリックフライトの解説
落下塔による無重力実験映像
JAXAによる無重力実験の解説
第10回(2010/12/24) --- 一般相対論、シュワルツシルド時空、ブラックホール、ブラックホールシャドウ
講義で紹介した大阪教育大学福江先生による 「ブラックホールシャドーと相対論的天体の見え方」のスライド (福江さん、感謝します!)。
番外編:2010/12/28 10:30〜12:00 宇宙科学研究所見学会
通常の一般公開エリアの他に、衛星運用室、 クリーンルームなどをお見せしました。講義の受講者から5人の他、私の仕事関係者も3人参加して盛況でした。 偶然、ASTRO-H搭載観測装置の衝撃試験や、「Hayabusa Back to the Earth 帰還バージョン」の試写会にも鉢合わせ、ラッキーな一日となりました。
第11回(2010/01/07) --- Global Positioning System (GPS)、重力波、二体問題、ケプラーの法則
ハンドアウト:円錐曲線(楕円、放物線、双曲線)、楕円の説明

第12回(2010/01/17) --- 二体問題、ケプラーの第1、第2法則
ハンドアウト:軌道六要素、TLEの定義、準天頂衛星「みちびき」のTLE

第13回(2010/01/24) --- ケプラーの第3法則、人工衛星の軌道、軌道六要素、Two Line Elements、準天頂衛星


参考書

  1. 衛星観測データを用いた宇宙科学
    私も参加した、JAXA/ISASの科学衛星データを用いた宇宙科学の教材作成プロジェクトの成果物です。
  2. 「宇宙は何でできているのか?」
    村山斉、幻冬舎新書
  3. 「ブラックホールと高エネルギー現象」
    シリーズ現代の天文学 8,日本評論社, ISBN-13: 978-4535607286
  4. 「X線天文で学ぶ物理の世界」 (CD-ROM),丸善,
    製作・著作: 文部科学省大学共同利用機関 メディア教育開発センター https://www.nime.ac.jp
    問い合わせ先: 財団法人 放送大学教育振興会 https://www.ua-book.or.jp
  5. "Classical Mechanics", Goldstein, second edition, ISBN 0-201-02969-3
    座標変換、オイラー角、四元数に関する議論。日本語訳も出ていますが、版は古いかもしれない。
  6. 「ハミルトンと 四元数」, 堀源一郎, ISBN 978-4-87525-243-6
    かなりマニアックな四元数についての専門書。これを通読する(できる)人はいったい何人いるのだろうか? ハミルトンの紹介と四元数の発見に関する歴史的記述がおもしろいけど。
  7. "Classical Electrodynamics", Jackson, 第1版。
    アメリカで標準的に使われている、大学院レベルの電磁気学の教科書。第1版は日本語訳も出ています。 特殊相対性理論の議論を参考にしました。それに関しては、第2版よりも第1版のほうが、(厳密さには 欠けるが)簡単でわかりやすいと思いました。
  8. "Exploring Black Holes", Taylor and Wheeler, ISBN 0-201-38423-X
    相対性理論のわかりやすい教科書。GPSについては、これを参考にしました。
  9. 「人工衛星の力学と制御ハンドブック--基礎理論から応用技術まで」, 培風館, ISBN-10 4563067563
    タイトルどおりの、高価な専門書です。人工衛星の姿勢、四元数についての詳しい記述があります。 本講義の内容を理解していれば、大学一年生でも、このような専門書を読めるはずです。
  10. 「基礎物理コース 力学」、喜多秀次他著、学術図書出版社, ISBN 4-87361-042-7
    私の京都大学1年生(1980年度!)の時の教科書です。隅から隅まで 読んで、演習問題も全部解きました。ごく普通の力学の教科書ですが、名著だと思います。一生手放せませんねえ。 幸い、まだ出版されているようです。二体問題について参考にしました。
  11. "Data Reduction and Error Analysis for the Physical Sciences", Bevington and Robinson, ISBN 0-07-911243-9
    統計についての議論はこれを参考にしました。かなり古いですが、古典です。第一版の赤い本が、短くて読みやすかったです。たぶん、物理実験系の どこの研究室の本棚にも転がってるんじゃないかな?