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Last Modified: 10/27/2020 15:53:17

2008年度冬学期 東京大学教養学部 (前期過程)「宇宙科学 II」

担当教官: 海老沢 研 (宇宙科学研究本部)


更新履歴:
2009年05月10日 --- 授業評価をリンク
2009年05月10日 --- 解答と平均点をアップロード
2009年02月03日 --- 試験問題と解答用紙をアップロード
2009年01月26日 --- 第13回分の講義ノート(最終版)を更新。
2009年01月19日 --- 第12回分の講義ノートを更新、ハンドアウトをアップロード
2009年01月08日 --- 第11回分の講義ノートを更新、ハンドアウトをアップロード
2008年12月23日 --- 第10回分のハンドアウト、第11回分の講義ノートをアップロード
2008年12月22日 --- 第10回分までの講義ノートをアップロード
2008年12月16日 --- 宇宙研見学会について記述
2008年12月15日 --- 第9回分までの講義ノートをアップロード
2008年12月09日 --- 第8回分までの講義ノートをアップロード
2008年12月02日 --- 第7回分までの講義ノートをアップロード
2008年11月27日 --- 第6回分までの講義ノートをアップロード
2008年11月19日 --- 第5回の講義内容、第6回以降の講義予定を修正
2008年11月17日 --- 第4回の講義内容、第5回の講義予定を修正
2008年11月01日 --- 第3回の講義概要、第4回の講義予定を修正
2008年10月28日 --- 第3回の講義ハンドアウトをアップロード
2008年10月27日 --- 第2,3回の講義ノートをアップロード
2008年10月06日 --- ガイダンスをアップロード



試験の解答と平均点等

2009年5月10日:たいへん遅くなりましたが、解答をアップしておきます (pdf, ps.gz)。また、各自の答案も返却しますので、事務室に取りにいってください。 試験問題は150点満点で作りましたが、2/3を掛けて100点満点にしました。 受験人数54名、平均 77.4点、メジアン 78.5点、最高98点、最低37点でした。
意外に(?)、たいへん出来が良かったと言う印象です。ほぼ講義ノートそのままの素直な問題ですが、内容は大学一年生にしてはかなり高度です。私の授業が、みなさんの物理や数学の理解に役立ったとしたら、とても嬉しいです。

試験

2009年2月2日、試験をしました(受験人数54人)。お疲れさまでした。
大体の部分が、講義ノートの穴埋めです。しっかり講義を理解していれば満点が取れたはずです。 ただし、質量Mの天体のシュワルツシルド半径が2GM/c^2であること、地球の シュワルツシルド半径が9mmであること、ローレンツ変換の表式、 ポアソン分布の表式を記憶している事は要求しました(最終回の授業に出た人は 聞きましたよね?)。
試験問題 (ps.gz, pdf) pdfのほうは図の一部文字化けしてますので注意。試験中に指摘された明らかな誤植、わかりにくい記述は訂正しています。
解答用紙

講義題目

X線天文学を通じて学ぶ基礎的な物理と数学

授業の目標、概要

大学の1、2年生で学ぶ基礎的な物理学と数学が、最前線の宇宙科学、特にX線天文学の研究の現場でどのように使われているか、具体的な例を通じて学習する。本講義が学生諸君が受講している物理・数学の講義の復習または予習になり、実際的な問題に触れることによって基礎的な物理と数学の理解が深まることを期待している。これら物理・数学の講義が「縦糸」だとすると、 宇宙科学を題材としてそれらを横断的に結びつける「横糸」になるような講義を目指している。

中性子星やブラックホールなど、X線天文学の観測対象について学習するだけでなく、 人工衛星、衛星運用、データ処理など、研究を遂行するために我々研究者が日々直面している課題についても紹介する。

各回ごとにトピックを選び、その話題は一回の講義の中で、できるだけ完結するようにしたい。また、 観測や研究集会に参加した折などに、最先端のX線天文学研究の話題も紹介したい。


昨年度の講義のホームページも参考にしてください。 基本的に昨年度の講義に沿ってやろうと思いますが、 昨年やろうと思ってできなかった、以下の内容を盛り込もうと思っています。
  1. 数値計算を通して微分、積分を理解する。中性子星の内部構造の微分方程式を解く、降着円盤のX線スペクトルを数値積分で求める、など。
  2. 統計の話。正規分布、ポアソン分布、カイ二乗検定など、統計の教科書に書いてあることがX線天文学の 研究にどう使われているか。スペクトルフィッティング、モデルの検証など。それと関連して、時間変動の話。ブラックホール天体の時間変動、パワースペクトルでブラックホールの声を聴く、など。
  3. フェルミ推定。「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」みたいな奴ですね。大胆な仮定から、 えいやっと、物理量のオーダーを見積もる。なかなか学校では学ぶ機会がないのですが研究の現場ではとても大事なことです。
さあて、うまく収まるだろうか。。。

授業の方法

古典的ではあるが板書を用い、学生諸君にはノートを取って、手を動かして理解して欲しい。 板書の内容は講義後に、このホームページで公開する。

成績評価方法

学期末に試験を行う。どのような問題を出すかは、講義の中で不定期に公言する予定である。

授業でやったこと

講義ノート:
ブラウザで閲覧できるhtmlフォーマット
PDFファイル
圧縮したポストスクリプトファイル
latexのソースファイル

ノートはlatexで書いて、それを latex2html でhtmlに変換しています。latexのソース(日本語コードはeuc)も置いておきます。 専門分野に依ってはlatexは必須なので、ソースコードがlatexを 学ぶ際の 参考になるかもしれません。latex中で、PASJから借りてきたスタイルファイルを使っています。 latexとlatex2htmlのコマンドを使い分けたりするのも、結構 面倒だったりします。\usepackage{html}、\usepackage{url}、 \latexhtml、\htmlimageなどを使っています。 詳細はソースを参照してください。(昨年度はlinux, 今年度はMac OS Xを使っているのですが、Mac OS Xではlatex2html の出力に余計な線が入ることがあるようです。式やテキストが読み取れないことはないと思いますが。また、pdfの図中の 日本語文字が文字化けすることがあるようです。ポストスクリプトファイルが一番きれいです。) 最終講義の後に、全講義ノートを印刷して渡す予定です。


第1回(2008/10/6) --- 講義ガイダンス、講師紹介、X線天文学の歴史

以下のppt(Powerpoint file)を見るには、Powerpointまたは同等のソフトが必要です
pptpdf授業で見せた「すざく」 衛星の打ち上げムービー(Quick Time)
講義の中で紹介した、2002年ノーベル物理学賞の解説。
X線天文学とニュートリノ天文学の非常に良い解説記事です。

以下、配布した参考資料。本講義内容とは直接関係ありません。私の研究と業務の紹介として配布しました。
「銀河面リッジからのX線放射は拡散成分か、点源の重ね合わせか?」天文月報 2007年7月号
"Spectral Study of the Galactic Ridge X-ray Emission with Suzaku", 2008 PASJ, 60, S229
「データ共有という理念」日本物理学会誌 2008年9月
これらの別刷りがまだ余っていますので、欲しい方は仰ってください。銀河面リッジからのX線放射について、 もっとくだけた解説はこちら


番外編。第一回と第二回の講義の間に、日本人がノーベル物理学賞、化学賞をとりました。 第一回めの授業で、 2002年のノーベル物理学賞の詳細解説記事 を紹介しましたが、 2008年の物理学賞、化学賞についての解説記事は以下の通りです。
https://nobelprize.org/nobel_prizes/physics/laureates/2008/phyadv08.pdf
https://nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2008/chemadv08.pdf

やや難解ですが、科学者を志す若者はぜひ読もう!素粒子論 (まあ基礎的な知識はあったけど)とクラゲの 発光メカニズム(いやあ、面白いですね)の良い勉強になりました。


第2回 (10月20日) 直交変換、天球座標、座標変換

ハンドアウト:赤道座標、銀河座標、黄道座標の関係 ( pdf, ps.gz)
参考までに、この図を描くのに使った Fortranプログラムpgplot というグラフィックパッケージを使っています。このようなコードが自分で描けるようになれば、この講義をよく理解したことになります (いまどきFortranで書く人はあまりいないでしょうが。。。)。


第3回 (10月27日) 直交行列の性質、オイラーの定理
ハンドアウト: 赤道座標から銀河座標への変換を表すオイラー回転の説明 ( ps.gz, pdf)
実際には説明する時間がありませんでした。次回、説明します。
第4回 (11月10日) オイラー角と変換行列、具体的な座標変換の例
ハンドアウト:mathematicaのノートブックファイル(.nb)と、その画面出力(.pdf)です。
  1. Euler.nb, Euler.pdf: オイラー回転の行列の計算。これが直交行列になっている事(行ベクトル、列ベクトルが直交、 行列式の値が1であること)を計算しています。
  2. Galactic.nb, Galactic.pdf: 赤道座標と銀河座標の間の変換行列。Z軸のまわりに58.59866度、Y軸のまわりに 28.93617度、さらにX軸のまわりに266.405度回転したときに得られる行列です。また、 ノートの例にある、赤道座標(281.00, -4.070)に対応する方向ベクトル、 (0.19033, -0.97915, -0.0709752)を、銀河座標における方向ベクトルに変換しています。こういう 計算も、mathematicaは得意なわけです。
  3. Sat2RaDec.nb, Sat2RaDec.pdf: 「すざく衛星」が2006年10月15日にオイラー角(281.004, 94.078, 184.470)という姿勢を持っていた。 このときのCCDカメラの視野(四隅の位置)は、赤道座標上でどこにくるか?という計算です。 第4回の講義では説明する時間がありませんでしたが、第5回で説明します。
今年はオタクっぽい四元数はやらないことにしました。19世紀にハミルトンによって複素数の 延長として発見された四元数が、人工衛星の姿勢の記述に使われている、という非常に面白い話しなのですが。興味がある方は、 昨年度の講義ノートを 参考に。

第5回 (11月17日) 人工衛星の姿勢と視野
ハンドアウトはありませんでした。前回のハンドアウト、Sat2RaDec.nb, Sat2RaDec.pdfの 説明をしました。
第6回 (11月26日) 特殊相対性理論、ローレンツ変換

第7回 (12月1日) 特殊相対性理論、四元ベクトル、速度の変換則
講義の中で紹介した、 CERNのLHCのページ。 また、LHCの中のひとつの実験である ALICEのプレゼンテーション を一部使わせて頂きました。
第8回 (12月8日) 相対論的ドップラー効果、プランク時間、プランク長、プランク密度、慣性系
講義の中で紹介した、落下塔による微小重力実験の動画は、 日本無重量総合研究所(MGLAB)のページ にあるものを使わせて頂きました。MGLABさんに感謝します。

講義の中で量子重力理論について、ちょっとだけ触れました。 この分野の最近の進展については、たとえば IPMUからの プレスリリースを 参考にしてください。

あと、講義では話す時間がありませんでしたが、飛行機が上昇中にエンジンを止めて、重力に身を任せて放物線飛行(パラボリックフライト)をするとき、飛行機の中は「無重力(微小重力)状態」になります。 これによって、誰でも簡単に"宇宙遊泳"が体験できます!いちど体験してみたいですね〜。
JAXAの解説ページ そのサービスを提供しているDiamond Air Service社のページ

それと関連して、YouTubeに 面白い映像を見つけました。 他にも、Parabolic Flightで検索するといろいろ出てきます。


第9回 (12月15日) 一般相対性理論、ブラックホール、シュワルツシルドメトリック

第10回 (12月22日) GPS (Global Positioning System) 、二体問題、ケプラーの法則
ハンドアウト:
焦点を共有する楕円(e<1)、放物線(e=0)、双曲線(e>1)。
楕円の説明
12月25日 宇宙科学研究本部見学会
普通の見学コース(展示室、ロケット見学)の他に、衛星製作(Planet-C)のクリーンルーム、 すざく衛星運用の様子、計算機室等を案内しました。展示室とロケットは、一般に公開しています。 宇宙研までの行き方は、 こちら を参考に。
第11回 (1月8日) 二体問題の解、人工衛星の軌道
ハンドアウト:
人工衛星の軌道六要素の説明
ぎんが衛星の軌道六要素の時間変化
軌道六要素とTLE (Two Line Elements)の定義

第12回 (1月19日) 軌道が楕円の場合のケプラーの第三法則、軌道六要素、Two Line Elements、統計:ポアソン分布、正規分布
ハンドアウト:
ポアソン分布と正規分布の比較 講義ノートの一部です。

第13回 (1月26日) カイ二乗分布、カイ二乗検定
全講義を通じた、講義ノートを配布しました。

参考書

  1. 「ブラックホールと高エネルギー現象」
    シリーズ現代の天文学 8,日本評論社, ISBN-13: 978-4535607286
  2. 「X線天文で学ぶ物理の世界」 (CD-ROM),丸善,
    製作・著作: 文部科学省大学共同利用機関 メディア教育開発センター https://www.nime.ac.jp
    問い合わせ先: 財団法人 放送大学教育振興会 https://www.ua-book.or.jp
  3. "Classical Mechanics", Goldstein, second edition, ISBN 0-201-02969-3
    座標変換、オイラー角、四元数に関する議論。日本語訳も出ていますが、版は古いかもしれない。
  4. "Classical Electrodynamics", Jackson, 第1版。
    アメリカで標準的に使われている、大学院レベルの電磁気学の教科書。第1版は日本語訳も出ています。 特殊相対性理論の議論を参考にしました。それに関しては、第2版よりも第1版のほうが、(厳密さには 欠けるが)簡単でわかりやすいと思いました。
  5. "Exploring Black Holes", Taylor and Wheeler, ISBN 0-201-38423-X
    相対性理論のわかりやすい教科書。GPSについては、これを参考にしました。
  6. 「人工衛星の力学と制御ハンドブック--基礎理論から応用技術まで」, 培風館, ISBN-10 4563067563
    タイトルどおりの、高価な専門書です。人工衛星の姿勢、四元数についての詳しい記述があります。 本講義の内容を理解していれば、大学一年生でも、このような専門書を読めるはずです。
  7. 基礎物理コース 力学、喜多秀次他著、学術図書出版社, ISBN 4-87361-042-7
    私の京都大学1年生(1980年度!)の時の教科書です。隅から隅まで 読んで、演習問題も全部解きました。ごく普通の力学の教科書ですが、名著だと思います。一生手放せませんねえ。 幸い、まだ出版されているようです。二体問題について参考にしました。
  8. "Data Reduction and Error Analysis for the Physical Sciences", Bevington and Robinson, ISBN 0-07-911243-9
    統計についての議論はこれを参考にしました。かなり古いですが、古典です。第一版の赤い本が、短くて読みやすかったです。たぶん、物理実験系の どこの研究室の本棚にも転がってるんじゃないかな?