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No.262 |
第4章 「ようこう」の科学成果ISASニュース 2003.1 No.262 |
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4.6 X線ジェット
図4.16:太陽X線ジェットの典型例。 図4.16が,典型的なX線ジェットの連続写真です。X線ジェットは,図にあるようなX線輝点(XBP)や活動領域で発生する小さなフレア(マイクロフレア)に伴って発生しており,これらのフレアを起こした構造を足元として時間と共に細長く延びていきます。なかには小さなフレアではなく,GOESクラスでXクラスのフレア(もっともX線強度が大きいレベルのフレア)に伴って発生するX線ジェットもあります。X線ジェットのサイズは,長さが数万km〜数十万km,幅が1,000km〜1万kmです。図4.17は「ようこう」が観測した中でも最も大きいX線ジェットで,長さは太陽半径程度です。X線ジェットの平均的な速度は約200km/s程度で,ジェット内のプラズマの音速程度であることがわかっています。また,多くのジェットが活動領域の端に存在するXBPから発生します。ただし,静穏領域やコロナホールと呼ばれるX線強度の弱い領域でもジェットは発生していますので,太陽のいたる所でX線ジェットは起きているといってもよいでしょう。
図4.17:「ようこう」で観測されたもっとも大きいX線ジェット では,このジェット現象を発生させているメカニズムは何なのでしょうか? 図4.18の1行目はX線のジェットがの発生前・発生中・発生後の画像です。よく見ると,X線ジェット発生前は小さい1つのアーケード状だった足元の構造が,X線ジェット発生後は2つのアーケード構造になっているのが良くわかります。これは,ジェット発生前と発生後で磁場構造が変わっていることを意味します。この磁場構造の変化を基に作られたモデルが図4.18の2,3行目の線画です。このモデルは,光球下から現れた磁気ループがもともと存在していたコロナ中の磁場と磁気リコネクションを起こし,磁気エネルギーの解放によりジェットが発生するというシナリオになっています。このモデルを基に2次元のMHDシミュレーションが行われ,高温のジェットが発生することが確認されました(図4.19)。観測的には更に,X線ジェットが発生する領域の光球磁場が調べられ,モデルにあるような+と−の磁極が混在し,磁場強度が変化している領域でX線ジェットが発生していることがわかりました。これらの結果,コロナ中の磁場と太陽大気下層からコロナへ出てきた磁場との磁気リコネクションによってX線ジェットが発生している,ということが明らかになったと思います。
図4.18:磁気リコネクションを基にしたX線ジェットのモデル
図4.19:X線ジェットの2次元MHDシミュレーション結果。 X線ジェットのエネルギーは磁気リコネクションで解放された磁気エネルギーであることがわかりました。では,X線ジェットは解放されたエネルギーをどのように使って加速されたプラズマ流なのでしょうか? X線ジェットの速度がプラズマの音速程度であるという所に謎を解く鍵があります。温度や密度の解析をくわしく行った結果,その生成メカニズムが明らかになりました。温度が低く密度が高い下層の大気(彩層・遷移層)へ,磁気リコネクションで発生した熱が伝導して高温高密のプラズマを生成し,このプラズマとコロナとの圧力勾配で加速された高温プラズマ流(彩層蒸発流)がX線ジェットだったのです。圧力勾配で加速されたプラズマですから,基となる高温プラズマの音速以上の速度にはなりません。最近,熱伝導を含んだ2次元MHDシミュレーションによって,磁気リコネクションによる彩層蒸発ジェットモデルの検証が行われ,観測と同じような特徴がシミュレーションで再現できることが示されました。 「ようこう」で発見されたX線ジェットですが,「ようこう」の観測とMHDシミュレーションにより,発生メカニズムから成長過程までの全容がほぼ明らかになったと思います。また,「ようこう」以降の太陽衛星観測により極紫外領域でもジェット現象が発見され,これらのX線・極紫外線ジェット現象が太陽半径の数倍程度まで伸びていることがコロナグラフの観測によりわかっています。X線・極紫外線ジェットは太陽のいたる所で発生していますので,今後は太陽風や太陽コロナ加熱とジェット現象の関係が研究課題となっていくでしょう。 (下条 圭美,柴田 一成) |
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