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No.262 |
第4章 「ようこう」の科学成果ISASニュース 2003.1 No.262 |
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4.2 硬X線で見た新しい太陽フレアの姿
さまざまな硬X線源太陽フレア(太陽面爆発)では,非常に高いエネルギーのX線が放射されます。10keV以上の光子エネルギーのX線を硬X線と呼びます。典型的には,太陽フレアの開始直後から数分間程度,硬X線強度は激しく変動し,その後なだらかな強度減少が見られます。前者をインパルシヴ相,後者をグラデュアル相と呼びます。それぞれの相で硬X線源は異なる姿をしています。「ようこう」衛星搭載の硬X線望遠鏡は,世界で初めて30keV以上のエネルギー域での太陽フレアの撮像観測を行い,10年間に3,000以上の太陽フレアを検出しました。また,空間分解能や時間分解能も以前の衛星に比べてはるかに優れています。これらの特徴を活かし,「ようこう」に搭載されている軟X線望遠鏡を始めとする,他の観測装置との共同観測により,さまざまなタイプの硬X線源の存在を示してきました。軟X線フレアループの両足元の硬X線源,軟X線フレアループ上空に浮かんだ硬X線源,グラデュアル相で支配的になる硬X線源などを以下に順に紹介します。また,ここでは紹介できませんが,コロナ中の高々度に淡く広がった硬X線源や1,000km/s程度の速度でコロナ下部から上方へ移動する硬X線源など,これまでにない新しいタイプの硬X線源も観測されています。
フレアループ足元の双子ソース太陽フレアのインパルシヴ相では,30keV以上のエネルギー域において,硬X線源は,しばしば2つ目玉構造を示します。これらは,軟X線画像との比較からフレアループの両足元に位置していることが分かり,コロナ中で加速された高エネルギーの電子が磁力線に沿って足元に降り注ぎ,彩層上部の高密度の領域で制動放射により硬X線を放射していると考えられます。光速に近い速度の高エネルギー電子が成因であることは,1万km以上離れた二つの硬X線源が0.2秒以内の同時性を持って強度変動をしていることからも確かめられています。図4.3は,1991年11月15日に発生した最大級のフレアの硬X線源の時間発展を示しています。左の強度変化を見ると,インパルシヴ相中に3つの目立ったスパイク構造があることが分かります。それぞれのスパイクのピーク時刻(赤い線の時刻)とその間(青い線の時刻)の硬X線像を右に示しています。2つ目以降のピーク時刻では2つ目玉構造が顕著に見え,2つのソースの間の距離が時間的に広がっていることも分かります。このように2つのフットポイントソースの間の距離が時間的に広がることは,カスプ型磁気リコネクションモデルによく合っています。
図4.3:フレアの硬X線源の時間発展 フレアループ上空に浮かんだ硬X線源
図4.4:フレアループ上空の硬X線源。 図4.4は,1992年1月13日に太陽の西の縁で発生した中規模のフレアです。カラー(ネガ:暗いところほどX線が強い)は,「ようこう」SXTで観測された軟X線画像,等高線はHXTで観測された硬X線画像を示しています。強い2つの硬X線が軟X線ループの足元に位置しているのが分かります。これらは,前節で述べたフットポイントソースに対応します。それらに加えて第3の硬X線源がループ上空に存在していることが分かります。この硬X線源は,フットポイントソースと同様,インパルシヴな時間変化を示し,比較的硬いスペクトルをしています。このまったく新しい観測結果は,フレアのエネルギー解放(おそらく磁気リコネクション)がループの外側(上部)で起きていることを示す重要な証拠の一つとなります。しかしながら,この硬X線源については未解決な問題が残っています。この硬X線源が非熱的な電子により作られているとすると,その高エネルギー電子が衝突する高密度プラズマがこの領域に必要なのですが,観測的にその兆候は見えません。また,これが熱的な放射だとすると,約1〜2億度の温度が必要であり,そのような高温プラズマをこのコンパクトな領域に閉じこめておく機構を考えないといけません。まだまだ謎が多い硬X線源です。
コロナ中で作られる超高温ソースフレアのグラデュアル相では,これまで述べた2種類の硬X線源は弱まり,別の種類の硬X線源が支配的になります。この硬X線源は,通常,軟X線ループの頂上付近に位置しており,3,000〜4,000万度のプラズマからの熱制動放射で説明可能な非常にソフトなスペクトルを持っています。ときには,この硬X線源がフレアの開始から支配的な熱的なフレアも観測されます。その典型的な例が図4.5に示した1992年2月6日のフレアです。
図4.5:コロナ中で作られる超高温ソース。軟X線画像(カラー)は共通。 これらの硬X線像はフレアのX線強度の最大時刻付近のものですが,どのエネルギーバンドでみてもループ頂上付近の硬X線源しか存在せず,非熱的電子により作られるフットポイントソースはほとんど見えません。この硬X線源は,軟X線ループとほぼ同じ位置に存在しているように見えますが,軟X線ループを形成する1,000〜2,000万度のフレア主成分プラズマが彩層蒸発により供給されているのに対し,超高温成分はコロナ中でプラズマが直接加熱されて作られていると考えられています。
硬X線の二本のリボンHα線(水素の輝線)では,2本の平行な帯のように明るく輝く「平行リボン」フレアと呼ばれるフレアがしばしば観測されます。また,軟X線や紫外線では,その2本のリボンをまたぐようにループ群がアーケード状に存在することがあります。しかし,そのようなフレアでもあいかわらず硬X線源は2つ目玉であり,粒子加速はある特定の磁力線でのみ起きているのだろうか,という疑問が存在していました。しかし,2000年7月14日のフレアで,初めて硬X線の「平行リボン」が観測されました。 図4.6左はTRCAE衛星の撮影した紫外線写真で,東西方向に12万kmもの長さを持つアーケード構造を示しています。これに対して右は53〜93keVのエネルギー域での硬X線画像です。アーケードを構成するループ群の足元に対応して東西方向に伸びた2本の帯状の硬X線がはっきりと見えます。この観測により,粒子加速(エネルギー解放)はアーケード中のある特定のループだけで起きているのではなく,アーケードシステム全体で同時に起きていることが確かめられました。
図4.6:紫外線(左)と軟X線画像(中)で見られるアーケード構造と これまでいくつかの例を紹介しましたように,硬X線望遠鏡の観測により太陽フレアに関する新しい知見を得ましたが,もっとも重要な問題の一つであるフレアの粒子加速機構の最終的な特定にはいたっていません。硬X線望遠鏡の観測データを解析しつくした上で,新しい観測装置を用いてチャレンジしたいテーマであります。 (増田 智,坂尾 太郎) |
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