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No.242 |
小田先生とラピッドバースター
ISASニュース 2001.5 No.242
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井 上 一ラピッドバースターという奇妙な天体がある。ある天体からのX線が突然明るくなり数秒から数十秒の間に元の状態に戻る現象をX線バーストと呼んでいるが,この天体からのバーストは,例外的に頻繁に出現する。そして,これらのバースト群は,ほぼ半年毎に,1ヶ月程度の間だけ出現する。小田先生が心血を注いで実現した我が国初のX線天文衛星「はくちょう」が無事軌道に投入されて約半年後の1979年の夏,私がKSCの「はくちょう」受信当番だった時に,このラピッドバースターがはぜた。ちょうどこの時期,宇宙線の国際会議が京都で行われており,京都の小田先生から,「はくちょう」の大成果として速報するから,観測結果をすぐに送るべしとの指令が頻繁に来ることとなった。おりしも,まだ大学生でおられた小田先生ご子息の克郎さんが,夏休みの間の良い勉強と思われてか,KSCにともに滞在しておられた。克郎さんにも手伝っていただきながら,衛星から降りてきたラピッドバースターからのバースト群のデータを,必死にグラフ用紙にプロットしたものだった。
曾野綾子さん,林友直先生と(1977年9月) ラピッドバースターからのX線バーストの一番の特徴は,次のバーストまでの待ち時間がバーストのサイズにほぼ比例することである。大きいバーストが起こると次のバーストはなかなか起きない。地震などでは,待ち時間が長いと大きいものになるが,ラピッドバースターの場合はそれが逆なのである。小田先生は,たいへんこの現象に興味をもたれ,昔の日本庭園に見られる「鹿(しし)おどし」との類推をしながら,いろいろ奇抜な説明を試みておられた。しかし,その後,ラピッドバースターをテーマに3人もの博士が誕生したにも関わらず,なぜそんなことになるかはわからずじまいだった。1988年に小田先生の宇宙研ご退官を記念して開かれた国際会議で,私がこのラピッドバースターを紹介する講演をしたが,そのふしぎさを強調するのが精一杯だった。ところが,最近,似たようなふるまいを示す天体がいくつか見つかってきて,それとの類推で「あすか」のデータを解析してみると,何となくその手がかりが見えてきた。しかも,その現象は,ジェット放出の機構ともからんでいるようでもある。もう少し答えがはっきりしてきたら,ぜひ,小田先生にもご報告にあがろうと考えていた矢先のご逝去だった。
KSCのPIセンターにて(1977年9月) 以前から,小田先生のお宅の比較的近くに住んでいながら,時々,帰り道に,お届け物をポストに入れてくる以外は,あまりおじゃますることもなく過ごしてきてしまった。やはり,何となく恐れ多い気持ちが強かった。しかし,ASTRO-Eの打上げ失敗をきっかけに,お宅にもお呼びいただき,いろいろとお教えいただいて,これからは,もう少し,おじゃまをさせていただきたいものだと言う感じを強く持ったところだった。宇宙研を取り巻くむずかしい問題も山積していて,先生のお考えを伺いたいと思う面もあったが,何よりも,お目にかかるだけで,あたたかい励ましをいただき,元気をいただけるような気がするのである。 先生からは,お知恵や,はげましをいただくばかりで,何の恩返しもできずに来てしまった。せめて,ラピッドバースターのからくりがわかってきた話でもさせていただければよかったのに,と思うと残念でならない。 (宇宙科学研究所) |
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