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No.242 |
小田先生と「すだれ」
ISASニュース 2001.5 No.242
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牧 島 一 夫そこそこ天文少年だった私は,この3月で惜しくも閉館した渋谷の五島プラネタリウムに,子供の頃から通っていた。高校生の頃,「X線を出すエクスターという天体が発見された」というトピックが紹介され,さそり座の星図に重ねて,何やら四角い箱が並んだ図が投影されたが,その意味が解らない。月日が流れ,大学院に入って小田先生にご挨拶に行き,「まずこれでも読んでごらん」と渡された論文をみてびっくり,そこにはプラネタリウムで見た図が。それは,すだれコリメータを使い宇宙最強のX線源「さそり座X-1」の位置を決めた,有名なロケット実験の論文で,四角い箱はX線源の位置の誤差ボックスだったのである。この体験が私の「刷り込み」になったらしい。 大学院でモラトリアム気分の抜けない私は,宇宙も好きだが,学部でやっていたプラズマ実験にも未練があり,進路を絞りかねていた。小田先生は,プラズマの吉川庄一先生と相談され,「しばらくは両方に首を突っ込んだらいい,ただしディレッタントにならんように」と言って下さった。お陰で,本郷と駒場を行き来する変則的な大学院生活が始まった。プラズマ実験は面白く,吉川先生や遠山闊志先生にたいへんお世話になったが,宇宙にはそれを上回る魅力があり,とくに小田先生のお人柄に虜になってしまった。知的な好奇心でいつも目を輝かせ,音楽と酒と絵を愛し,カバンの中には辻邦生の本があり,山歩きがお好きで (私自身もワンダーフォーゲル部の出身),という小田先生のお姿は,その当時から今日に至るまで,身近でかつ眩しい存在だった。良い酒を味わうように言葉を吟味して語られる先生のお話を聞くたび,自分の精神的なポテンシャルが高揚するのを感じたものである。
悪ガキと夏を楽しむ 研究室のメンバーはよく先生のご自宅にお邪魔し,「はくちょう」が誕生するまでは夏ごとに先生の伊豆の別荘におよばれして,先生のご家族ともども泳いだり遊んだりした。しかし先生が当時,打上げ失敗した CORSA衛星の回復に苦悩されていたことを認識したのは,ずっと後になってだった。私も鈍感だったが,先生は学生の前では,決して落胆や失意や愚痴を表明されなかったと,今にして感銘深く思うのである。 先生の発明された「すだれコリメータ」を複数セットにして使う「フーリエ合成手法」は,大学院時代に先生と一緒に考案した,私の大切な業績である。後にこの手法が「ようこう」HXT装置で実証されたとき,理研に移られていた先生は私にセミナーの機会を下さり心から祝福して下さった。しかも「牧島君,これを顕微鏡にすると脳の中が見られるんです」と,脳研究のリーダーである伊藤正男先生に紹介して下さった。最近も入院される直前まで,東京情報大で脳計測のプロジェクトに熱意を燃やされていたと聞く。 あまりにも早い先生のご逝去は,悼んでも悼みきれないが,先生のご学風を何とか後生に伝える努力を通じて,わずかでもご恩返しができればと思う。 (東京大学大学院理学系研究科) |
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