X線分光撮像衛星XRISMとカニ星雲の起源

金丸 善朗・宇宙科学研究所 X線分光撮像衛星 (XRISM) プロジェクト

研究概要

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図1: XRISM衛星のイメージ図 ©JAXA

私は超新星爆発*1 した後に残る星の残骸や、その内部に生まれることのあるパルサー星雲*2という天体を研究しています。これらの天体の高エネルギー現象を観測するにはX線帯が適しているため、観測データ解析とともに、X線検出器開発も並行して研究してきました。現在は、研究開始当初から参画している「X線分光撮像衛星XRISM(クリズム)」プロジェクトの研究員として、宇宙科学研究所に在籍しています。

図2
図2: マイクロカロリメータ(左)とCCDカメラ(右)

XRISM衛星は、JAXA宇宙科学研究所が中心となって、米国航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関 (ESA)などと国際共同開発してきた宇宙天文台です(図1)。今年2023年9月7日、遂に種子島宇宙センターから打ち上げられました。
XRISM衛星は、その名の通りX線を観測するための宇宙天文台で、2台の検出器を搭載しています(図2)。ひとつはマイクロカロリメータという装置です。X線光子のエネルギーをとても高い精度で測ることのできるのが特徴です。受光面が5mm角の小さなセンサを重さ約300kgという巨大な冷却装置に入れて、絶対零度からたった0.05度しか違わない極低温にまで冷やすことによって、X線が当たったときの小さな温度変化からエネルギーを測ります。もうひとつはCCDカメラです。可視光用のCCDセンサと同じ検出原理で、X線用に特化して開発されました。1辺31mmのCCDセンサを4枚並べることで満月より大きい天体を一度に捉えられるほど広い視野で撮影できます。私は現在、これら2つの検出器と、科学運用のチームに所属しています。特にCCD開発チームには最初期から参加しており、実際に衛星に搭載する素子の評価・選定や、データ較正などに取り組んできました。開発にはいくつもの難所がありましたが、チーム一丸となって問題を乗り越えていき、完成までたどり着きました。

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図3: XRISM衛星フェアリング収缶作業の様子(筆者撮影) ©JAXA

これら検出器を搭載した衛星は、2023年3月に種子島宇宙センターへと運ばれました。この後、フェアリングに収缶され(図3)、点検と準備を経て最終的にHII-Aロケットに搭載後、打上げを迎えました。私はちょうど、この打上げ間近のタイミングで宇宙航空プロジェクト研究員として着任しました。大学院生時代から関わってきたXRISM衛星の打上げを相模原の管制室で迎え、軌道上の衛星から初めて送られてきた検出器データを含めて、いま最前線で解析を続けています。XRISM 衛星のサイエンスチームには世界各国の天文学者が参加しており、その観測データを心待ちにしています。

では、XRISM衛星によって、どのようなことが分かるのでしょうか。XRISM衛星の強みである高いエネルギー測定精度は、高温ガスからの微弱輝線検出を可能にします。私が特に興味を持っているのは、パルサー星雲の代表格であるカニ星雲です。歴史的によく研究されてきた天体ですが、その起源である超新星爆発については、未だに決着がついていません。一般的に質量の大きな星で超新星爆発が起きると、秒速数千キロメートルという超音速の衝撃波が生じます。この衝撃波によって、周辺を漂う物質や星の残骸は数百万度にまで加熱され、X線で光る高温のガスになります。衝撃波がおおむね等方的に拡がるとすると、爆発した位置を中心としてリング状にX線が観測されるはずです。しかし、カニ星雲からはこのような高温ガスのX線が、未だに検出されていないのです。

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図4: カニ星雲と2つのモデル計算による衝撃波位置

XRISM衛星によって高温ガスからのX線が観測できると(図4)、カニ星雲の超新星爆発の様子に迫ることができます。衝撃波の速度を決める爆発エネルギー、衝撃波で加熱された星の残骸や周辺物質の質量などが、高温ガスの明るさを決める量です。カニ星雲のようなパルサー星雲は、これらの値が低いと考えられます。高温ガスのX線を捉えることができれば、衝撃波半径を割り出すことによって、爆発エネルギーに強い制限を付けられます。私達の研究グループは検出器のエキスパートが集まって準備を進めています。また、「カニ星雲のような超新星残骸」として歴史的に分類されてきたパルサー星雲たちの誕生の起源にも、更に迫れるようになるかもしれません。

用語解説

  • *1 超新星爆発 : 星の寿命の最後に迎える爆発現象。太陽質量の8倍以上の大質量星が爆発した場合、ブラックホールや高速回転する中性子星 (パルサー) が形成されると考えられている。
  • *2 パルサー星雲 : パルサーの回転エネルギーによって駆動され、シンクロトロン放射と逆コンプトン散乱によって輝く星雲。

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