磁気流体数値モデリングで迫る太陽フレアの発生機構

山崎 大輝・宇宙科学研究所 太陽系科学研究系

研究概要

太陽フレア*1は、太陽大気中に蓄積された磁場のエネルギーが突発的に解放されることで、局所的な増光が見られる現象です (図1 (a, b))。また太陽フレアは、しばしば太陽大気を構成する電離ガス(プラズマ*2)が惑星間空間に噴出するコロナ質量放出*3を伴うことで、地球を含む太陽系内の環境に大きな擾乱をもたらします。太陽フレア発生機構の理解は、太陽フレアの発生に伴う環境擾乱の予測につながることから、宇宙開発と社会インフラがより密接に関わるこれからの時代において、非常に重要な研究課題です。太陽フレア発生機構の理解には、太陽大気中の磁場構造の解明が鍵を握ります。しかし、太陽フレアのエネルギー解放が発生する外層大気は非常に希薄なため、磁場を直接診断することができません。そこで我々は、人工衛星によって観測された太陽表面の磁場データを元に、磁気流体数値モデリング*4の手法を用いて、上空の磁場構造を再現しました。さらに、太陽フレアの発生に関わる特徴的な磁場構造を同定し、磁気流体力学に基づく数値シミュレーションから、太陽フレアとプラズマ噴出の過程を再現することに成功しました。

図1
図1 (a) SDO衛星AIA望遠鏡による極端紫外線304 Å画像 (色は人工着色)、2021年10月28日 15:50 UTに撮影。緑四角で囲った領域が大規模な太陽フレアを引き起こした領域。 (b) フレア領域を拡大した様子。青丸で示したのが地球の大きさ(直径約13,000 km)。(c) フレア領域の磁場構造を数値的に再現した様子。

今回我々が解析を行ったのは、2021年10月28日に発生したGOESフレアクラスX1*5の大規模な太陽フレアです。図1 (a)に示したのは、SDO衛星*6AIA望遠鏡*7によって、極端紫外線という高温なプラズマを見ることができる特殊な波長で、太陽フレア発生時の様子を捉えた画像です。図1 (b)に示したのは、フレア領域を切り出した画像です。図1 (c)には、SDO衛星*6HMI望遠鏡*8によって取得された太陽表面の磁場を元に、磁気流体数値モデリングを用いて再現した、(b)と同じ領域の大気中の磁場構造を示しています。図1 (b,c)から、フレア領域の中心付近には、よく捩れた磁場構造が存在することが分かります。

図2
図2 磁気流体数値シミュレーションで再現した太陽フレアに伴う磁場の発展の様子。(a-c) 斜め上からフレア領域を見た様子。(d-f) 真上からフレア領域を見た様子。

太陽フレアで解放される磁場のエネルギーは、磁場の捩れの強い領域によく蓄積されていることから、捩れた磁場の構造が太陽フレアに伴ってどのように時間発展していくのか、磁気流体数値シミュレーションの手法を用いて再現することで、太陽フレア発生機構に迫ります。図2に示したのは、磁気流体数値シミュレーション (RUN A)の中で捩れた磁場が噴出しながらエネルギー解放をしている様子を再現したものです。(a-c)は、フレア領域を斜め上から見た様子を、(d-f)は、真上から見た様子をそれぞれ切り出して表示しています。黄色線がフレアに関わる主要な磁場の構造で、フレアに伴って観測されたプラズマの噴出はこの噴出した黄色線の磁場に引っ張られた結果であると考えられます。また、噴出する黄色線の磁場の下部において、桃色線と緑色線で示した磁場が磁気リコネクション*9を起こしている様子が再現されました。この磁気リコネクションが黄色線の磁場の噴出にどの程度寄与したのか、定量的に明らかにするために、磁気リコネクションを抑制した仮想シミュレーション (RUN B)を実施し、加速過程の比較を行いました。図3 (a-c)には、噴出初期のプラズマ速度分布を、(d-f)には、電流密度分布をそれぞれシミュレーション領域の中心付近に注目して表示しています。RUN AとBの結果を比較すると、磁気リコネクションを抑制した場合でも、黄色線の磁場が噴出することが分かりましたが、磁気リコネクションが発生した時の方がより強力に加速されることが分かりました。

図3
図3 (a-c) 磁気流体シミュレーション領域中心部での速度分布の様子。(d-e) 電流密度分布の様子。

本研究の成果は、1990年代のForbes博士らの2次元の磁気流体シミュレーション研究から示唆されてきた、噴出する磁場の下部領域での磁気リコネクションが噴出を駆動するシナリオを、3次元でかつ実際に観測されたフレアのデータを元に検証したものであり、太陽フレア発生機構に重要な示唆を与えるものです。
JAXA宇宙科学研究所が計画を進めている、太陽科学観測衛星SOLAR-Cは、太陽外層大気の温度や密度などの物理量を切れ目なく高精度、高時空間分解能で診断することができます。そのため、本研究が明らかにした噴出を駆動する磁気リコネクションに伴うプラズマの加熱過程を直接観測することで、より詳細な噴出の加速メカニズムの解明につながることが期待されます。その他にも、太陽フレアのエネルギー源となる磁場のエネルギーが太陽表面で注入された後、どのように上空に伝搬し、外層大気の磁場中に蓄積されるのかという謎についても迫ることができると考えられます。

用語解説

  • *1 太陽フレア : 太陽大気中で発生する突発的な磁気エネルギー解放現象。電波からγ線まで幅広い波長帯において増光が見られる。典型的に1022-25 Jのエネルギーを数10分で解放する。解放されたエネルギーは熱や放射、高エネルギー加速粒子などに変換される。
  • *2 プラズマ : 固相、液相、気相に次ぐ、第四相。部分電離したガス。基本的な流体の性質に加えて、電磁相互作用に伴う性質を示す。
  • *3 コロナ質量放出 : 太陽フレア等に伴って発生する、太陽外層大気コロナ中のプラズマが惑星間空間に放出される現象。
  • *4 磁気流体数値モデリング : 流体力学の基礎方程式に電磁相互作用の項を追加して記述される、磁気流体力学に基づく磁場の数値モデリング。ローレンツ力の釣り合いを仮定するなど拘束条件を加えることで、数値的に境界値問題を解くことで磁場構造を外挿する手法。
  • *5 GOESフレアクラスX1 : 米国の気象観測衛星であるGOES衛星に搭載された、太陽面軟X線モニタの放射エネルギーフラックスによって分類される太陽フレアの規模の一つ、A→B→C→M→Xの順に1桁ずつ大きいフラックスに対応する。Xクラスフレアは大規模フレアに分類される。
  • *6 SDO衛星 : 2010年に打ち上げられた、米国の太陽科学観測衛星Solar Dynamics Observatory。
  • *7 AIA望遠鏡 : SDO衛星に搭載された、極端紫外線撮像観測装置Atmospheric Imaging Assembly。
  • *8 HMI望遠鏡 : SDO衛星に搭載された、太陽表面磁場観測装置Helioseismic and Magnetic Imager。
  • *9 磁気リコネクション : 磁力線の繋ぎかえ、反平行は磁力線が押し付けられ、磁力線間の電流が散逸されることで発生する現象。

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