Roman宇宙望遠鏡で切り拓く太陽系外惑星の新世界

宮﨑 翔太・宇宙科学研究所 宇宙物理学系 赤外線天文学グループ

研究概要

図1
図1 Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡 (Credit: NASA GSFC)

今から約30年前、我々の太陽系以外にも惑星が存在することが明らかになり、これまで5000個以上の系外惑星が発見されてきました。しかし、そのほとんどが主星(太陽系でいう太陽)の近くを周回する灼熱の惑星であり、太陽系にあるような惑星、とりわけ地球のような系外惑星は観測精度の限界で数個しか検出おらず、その分布は未解明のままになっています。この解明は、地球のような生命の宿主となり得る環境がこの宇宙でどれだけ普遍的なのかを知る上で非常に重要であり、我々生命の存在の普遍性を探る第一歩となります。私が行なっている研究の根源的な興味はここからきています。

Nancy Grace Roman宇宙望遠鏡(以下、Roman)は、NASAの大型旗艦計画として2026年に打上げが予定されている、口径2.4mの大型宇宙望遠鏡です(図1)。Romanは、重力マイクロレンズ*1と呼ばれる系外惑星探査法に最適化された観測を宇宙空間で初めて実行することで、従来発見が困難であった「冷たい系外惑星」を大量に発見しその分布を包括的に解明することが期待されています(図2)。私は、地上望遠鏡を用いたマイクロレンズ惑星探査に関する研究を行ってきたのですが、Romanが達成するこの絶大な研究成果に魅力を感じ、これにぜひ貢献・尽力したいとの思いから宇宙航空プロジェクト研究員として宇宙科学研究所に入構しました。実際、日本(ISAS/JAXA)は国際パートナーの一員としてRoman計画に参画しており、日本独自の科学成果と貢献を創出するチャンスを得ています。

図2
図2 既知の系外惑星分布(黒丸)とRomanの検出感度領域(青線)

Roman計画に対する日本の数ある貢献の中で、特にマイクロレンズ観測に関連するものが、JAXA地上局によるデータ受信の支援です。Romanのマイクロレンズ観測では、数億個の星々の明るさを72日間連続で精密にモニターし続ける必要があり、そのために(超)大容量の観測データが想定されています。NASAはRoman専用といえる受信局を整備しますが、それでも最大データ収集量の半分以下しか受信できないため、JAXAを含む国際協力が必須です。そこでJAXAは、新たに長野県の美笹深宇宙探査用地上局54mアンテナにKa帯(26GHz)の高速受信システムを開発・導入します。このデータ受信支援のための地上局開発は、マイクロレンズ観測で達成されるRomanの科学成果を最大化させるという面で非常に重要であり、さらに将来の科学衛星のデータ大容量化に伴うJAXAの環境整備という観点からも有益となります。このような貢献以外にも、日本人研究者がRomanの科学検討チームに参加し観測戦略の最適化等に直接貢献するというパスも存在しています。例えば、私はRomanのマイクロレンズ観測とコロナグラフ観測*2の科学チームに参加しており、最終決定に関わる本格的な検討がこれから開始されるところです。

宇宙研の宇宙航空プロジェクト研究員としてRoman計画に参画することは、自身が興味を持つ分野で絶大な科学成果を創出するRomanに対して、根幹的な部分で深く貢献できる点や独自の科学成果を創出し得る点で大きな意義を感じます。また、海外協力が必須である大型プロジェクトの推進活動に深く関わることで、他では得られない経験やノウハウを学ばせてもらっていると感じます。これら経験をぜひ(Romanのその先の)将来超大型計画に向けた活動に活かしていきたいと考えています。

用語解説

  • *1 重力マイクロレンズ法 : 惑星系が持つ重力の影響で星の明るさが変化する現象を利用して惑星を検出する手法。主星から幾らか離れた軌道領域の系外惑星に検出感度が高い。
  • *2 コロナグラフ : 主星の明るさを抑えることでその周りの天体(惑星、円盤)を撮像する観測装置を指す。Romanには系外惑星の直接撮像のための技術実証機として、コロナグラフ観測装置が搭載されている。

関連情報