2025年夏 開催!「プロ向けの特別公開」として生まれ変わった、宇宙科学シンポジウムをご紹介~第25回宇宙科学シンポジウム企画チームによる座談会:吉田哲也氏、河原創氏、中島晋太郎氏、小田切公秀氏~

宇宙科学の将来をコミュニティが活発に議論する場として、2001年から毎年開催されている宇宙科学シンポジウム。25回目を迎える今年は、今までとは一味違った、全部の世代が楽しみつつ次世代の宇宙科学を模索できるシンポジウムを目指して、リニューアルされることとなりました!

今年の宇宙科学シンポジウムは、7月31日の「ユーザーズミーティング」と8月1日の「ブース展・ポスター展」の2日間の開催となります。
1日目のユーザーズミーティングでは、宇宙科学の現状や課題を共有する場として、宇宙科学研究所 所長による講演や、宇宙科学ミッションの進捗の概要報告、宇宙理学委員会と宇宙工学委員会の活動報告が行われます。また、2つのハイライト講演も企画されており、これまでの宇宙科学の成果と併せて、これからの成果を発信するために必要な理解を共有します。
2日目のブース展・ポスター展は、宇宙の分野に限らず、理学と工学の研究者が一堂に会し、新しいミッションの芽出しの場となるような機会を提供します。将来の宇宙科学を模索するのに重要となるテーマを広く議論できるブース展と、ニーズとシーズの出会いを目的としたポスター展を開催します。

本記事では、宇宙科学シンポジウムの開催に向けて絶賛準備中の企画チームを代表して、吉田哲也氏、河原創氏、中島晋太郎氏、小田切公秀氏の4名に、新しい宇宙科学シンポジウムでは何が変わるのか、そして開催に向けての思いについて、お伺いしました!

吉田 哲也

吉田 哲也(宇宙科学研究所 研究総主幹 学際科学研究系/教授)
大気球や観測ロケットといった小型飛翔体による科学成果の創出に加え、宇宙科学研究の場で人材育成にも幅広く貢献。今年の宇宙科学シンポジウムは、吉田研究総主幹のリーダーシップのもと、進められている。企画チームメンバからは「大御所なのに口だけでなく手も動かしてくれる!」との声も。

河原 創

河原 創(宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系/准教授)
専門は、太陽系外惑星探査。理論・装置・観測・実験など手法にはこだわらず、幅広く研究に取り組んでいる。宇宙科学シンポジウムがより楽しいものとなるよう、ユニークなキーワードやアイディアを提案。より具体的なイメージ共有に貢献。

中島 晋太郎

中島 晋太郎(宇宙科学研究所 学際科学研究系/准教授)
専門は、宇宙機システムや超小型探査機の設計・開発など。理学と工学が気兼ねなく議論ができる場が欲しいという思いがあり、企画チームに参加。会場の動線などの実装の部分を丁寧に対応。

小田切 公秀

小田切 公秀(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系/准教授)
専門は、宇宙機の熱制御。「やりたいことを実現するために、宇宙科学シンポジウムを面白いものに変えて行こう」という趣旨に共感して、企画チームへ参加。本記事は、小田切准教授からの提案により実現。

今年の宇宙科学シンポジウムは、どういったところが新しいのでしょうか?

吉田: 今年の宇宙科学シンポジウムは、1日目の「ユーザーズミーティング」と2日目の「ブース展・ポスター展」の2日間の開催です。1日目のユーザーズミーティングは、今の宇宙科学を取り巻く環境の全体像を理解できる場となるような、2日目のブース展・ポスター展は、研究者たちの出会いの場となるような構成となっています。今後、日本の宇宙科学が益々発展していくためには、まだ他の国が手を付けていない領域、國中前所長が大好きな「ブルーオーシャン」を狙い続けることが非常に重要です。ブルーオーシャンを狙う前段階には、必ず新しい技術やサイエンスがあります。今年の宇宙科学シンポジウムでは、将来のブルーオーシャンを開拓するために、「持っているけれども何に使えるかはまだ分からない技術」や、「まだ技術はないかもしれないけれどもあったらやりたいサイエンス」を、研究者同士で見せ合える機会を提供することが大きな目的の一つです。そのため、今回は研究者たちの出会いの場となる2日目のブース展・ポスター展に特に力を入れて、開催内容を刷新しました。2日目の実装については、企画チームの若手メンバが中心となって準備を進めてくれています。

ブース展について

ブース展

小田切: 今年のブース展は、「はやい・やすい・よい」、「はかる・かんがえる・つたえる」、「うごかす・とめる」の3つのテーマを掲げています。このテーマは、将来の宇宙科学や宇宙探査にとって重要なものは何か、というアイディア出しをする中で、企画チームがゼロから考えたものです。ブースはテーマごとに8個、全部で24個が出展されます。

吉田: このテーマは、企画チームが見たい内容や招待したい人を並べて、グルーピングをしていく中で決まっていった部分もありました。

中島: そうでしたね。「こういう技術について聞いてみたいな」という人を選んだり、友達の研究者に声をかけたりもしました。

河原: 宇宙科学研究所(宇宙研)の若手が集まる飲み会でも声がけをしましたね。そこからも何名か出展してくれることになっています。

小田切: それぞれのテーマについて説明すると、「はやい・やすい・よい」は、ブルーオーシャンを作り続けるために欠かせないテーマです。速いサイクルで技術を作って宇宙で実証し、それを理学でも活かしていくことは、非常に重要です。

中島: 宇宙科学ミッションの実現までにはかなり時間がかかりますし、人が足りていないという実状もあるので、色々なミッションをやりたいとなった時にこの視点は外せません。藤本所長(宇宙科学研究所 所長/宇宙航空研究開発機構 理事)の着任時のメッセージでも、「世界をあっと言わせる中型計画を実行するためには、世界最先端の要素を含み、内製比率の高い小型プロジェクトを、速いサイクルで回していくことを狙いたい」、そのためには「筋力トレーニングが必須」といった言及がありました。このテーマは、筋力トレーニングをするための下地を作るような活動にも繋がっていると考えています。

小田切: ブルーオーシャンを作る活動に繋げるために、技術とサイエンスの出会いの場になればと思っています。このブースには、薄膜太陽電池や分散探索ロボットなど、たくさんの面白い技術が出展されることになっています。

小田切・吉田

小田切: 次に「はかる・かんがえる・つたえる」のブースでは、将来の宇宙探査に使えるような、新しい測定技術などが取り扱われます。1つ例をあげると、AI-OBCについてのブースがあります。OBCとはオンボードコンピュータの略で、AI-OBCとはOBCにAIが搭載されているものです。未来の宇宙探査では、ただ観測したデータを地上に送るのではなく、ある程度AI-OBCが処理をして圧縮されたデータを地上に送るという未来が想定されています。

吉田: 将来的には、探査に行った先で「これは良いデータだろう」とAI-OBCが察するようになっていかなければいけないということです。これは既にJAXA-SMASH*1で展開しているものなのですが、私が見つけて興味深いと思って推薦しました。

小田切: その他にも、日に日に増加しているデータ量に対応するための新しい通信技術についてなど、様々な話を聞くことができます。


吉田: 最後に「うごかす・とめる」のブースについては、実物の展示があるので、見て楽しめるのが強みだと思います。

河原: そうですね。このブースには、人工筋肉の研究を専門としている私の友人の研究者にも出展をお願いしています。当日は、自動でドラムを叩くマシンを見ることができますよ!彼もそうですが、今回の宇宙科学シンポジウムには宇宙とは関係のない分野の人にも声をかけているところが新しいです。

中島: 出展者は、宇宙研に限らず他の大学も含めて、様々な分野の方がいますよね。

小田切: 「実物を持ってくる」というのも、今回から新しく導入したものの1つですね。藤本所長が今回の宇宙科学シンポジウムのことを「プロ向けの特別公開*2」と表現されていたのですが、正に特徴を捉えているなと思いました。

河原: なかなか一般の会場だと実物を持ってくる、展示することは難しいと思うので、このシンポジウムならではと言えますね。出展者に関して言うと、実は我々企画チームもいくつか出展します。

中島: 企画側にいると、こういったところも自分たちで決められて良いですよね。

小田切: そうですね。企画チームの話を受けた時に、吉田先生から「自分達がやりたいことを実現するための場として、ぜひ活用してください」と言っていただいたのですが、本当に自分たちの望む形で進められているように思います。

吉田: 企画側が本当にやりたいと思っていることができるイベントになることで、物事が上手い方向に進んで行くと考えているので、企画チームが面白いと感じるシンポジウムにしてもらいたいと思っています。

ポスター展について

ポスター展

吉田: ポスター展は、宇宙研・大学・コミュニティから広く募集しています。ポスターにも募集テーマが2つあります。募集テーマ1は、「理学が考える「こんな技術があれば実現できるサイエンス」」、募集テーマ2は、「工学が考える「サイエンスに応用できるかもしれない技術」」です。

中島: 数年前から、理学のニーズと工学のシーズを掛け合わせて、議論ができるような場があれば良いなと考えていたので、とても良いコンセプトだと感じています。

吉田: 中島先生がポスターに出展者の連絡先を記載するというアイディアを出してくれた時は、私にはその発想がなかったので、とても面白いと思いました。

中島: 例えばプロジェクトのポスターがあったとして、その中で「これは面白い!」という技術やサイエンスを見つけた時に、誰に連絡したらよいかがパッと分かると、新しい繋がりができやすいのではと思って浮かんだアイディアでした。河原先生も理学と工学のマッチングについて、バンド募集の形式のアイディアを出されていましたよね。

河原: そうですね。発想としては、バンドが盛んな街だと「バンドメンバー募集!当方ボーカル」みたいなポスターをよく見かけると思うのですが、同じような形でマッチングができたら面白いんじゃないかなと思って話をしました。

吉田: ニーズを探る1つの方法ですね。

小田切: ブース展にも言えることですが、工学の人は「こんな技術があるけど、どうかな?」とか、理学の人は「こんなサイエンスをやりたいんだけど、何かないかな?」とか、物を見せたりしながら、お互い色々なことを言い合えるような空間になったら良いですよね。

1日目のハイライト講演について

ハイライト講演

吉田: 1日目のプログラムの大枠については、企画チームを集める前から私が決めていましたが、2つのハイライト講演については、企画チームからも意見を募りました。その際に、河原先生からマイクロ波背景放射偏光観測宇宙望遠鏡LiteBIRDについてはどうかと提案してもらいました。

河原: これからLiteBIRDのミッションが進んで行く中で、本当にこのミッションのサイエンスを正しく理解できている研究者はあまりいないのではないかと思ったので、挙げさせてもらいました。

吉田: この提案を受けて、ハイライト講演の1つは私の大学時代の同期でもある、東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構長の横山順一先生を招待して、講演をしてもらうことになっています。

河原: 横山先生はこのミッションについて、強みも弱みも含めて話をしてくださる立場にある方だと思うので、私個人としてもすごく楽しみにしています。

吉田: もう1つのハイライト講演については、小型月着陸実証機 SLIMのプロジェクト関係者に依頼をしています。澤井秀次郎副所長(宇宙科学研究所副所長/宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 教授)に話を持って行ったところ、「SLIMの成果をただ話すのではなく、SLIMが達成したことを受けて、その先には何があるのかという未来の話をしてもらおう」と言ってくれたので、現在そういった講演になるよう、進めてくれています。

どんなシンポジウムになることを期待していますか?

吉田: 企画チームで打合せをした時に、企画チームメンバが「コミケ(コミックマーケット)みたいな会場にしたい」と発言したんですよ。それが一つのブレイクスルーとなって今回のブース展・ポスター展の形ができたと思っています。

小田切: そうでしたね。コミケは河原先生が出してくれたアイディアです。理学と工学の研究者が集まるという点は従来と変わりませんが、今回は宇宙研の相模原キャンパス内にある構造機能試験棟を会場にしてブース展とポスター展を開催する予定なので、広い会場で研究者が一堂に会してにぎやかに開催されるという部分は、まさにコミケに通じるコンセプトですよね。聞きたい講演を見に行ったり、ふらっと歩いて周る中で面白そうだと感じるものに触れたりすることで、ニーズとシーズが出会って新しいアイディアに繋がると嬉しいです。

河原: 宇宙科学に関する集まりは多々ありますが、個人的にはどれも真面目な印象のものが多いと感じています。なので、身構えなくても参加したくなるような、目的なく見に来ることができて、楽しんで帰ってくれるようなものになってほしいです。

河原・中島

中島: 理学と工学の両方の研究者が、ざっくばらんに同じ空間で議論や意見交換ができる場にしたいですね。ブースやポスターの前で「これ面白いね」と話をするのでもよいし、休憩スペースで雑談をするのでもよいし、とにかく対面で会話をして、新しいアイディアの芽出しを促すような場所を提供できればと思います。

河原: そうですね。他にも、共同研究をする上では、研究内容だけではなく研究者間の信頼関係や人としての相性も重要となってきます。そういったことはface-to-face(対面で)で話してみなければ分からない部分が大きいです。研究者の中には、なかなか出会いの場に積極的でない人もいるような気がしているので、そういった意味でも、実際に会場に来て色々な研究者と繋がりを持つ場にしてもらいたいです。

小田切: 今回、ブース展とポスター展をメインにしたきっかけの一つに、あまり硬くならず安心して話ができたら良いなという思いがありました。例えば、学会で発表者に質問をしたい場合、他の大勢の研究者も見ている中で聞くことになるので、ある程度は身構えてしまうのではないかと思います。そういったことがないように、気軽に話せるような雰囲気のブース展があったり、連絡先が記載されているポスター展があったりすると、質問や議論をすることのハードルが下がって、コミュニティが広がりやすくなるのではないかと考えました。

河原: あまり深く考えずに理学も工学も関係なく、たくさんの人に来てほしいです。将来に繋がるような素晴らしいアイディアは、そんなに何個も出て来るものではなくて、何回も開催を重ねる中で、たくさんある中から1つ光るものが出て来てくれたら成功だと思っているので、気負わずに多くの人に参加してほしいです。まずは「たくさんある」ということが重要です!

小田切: 宇宙以外の分野の人も来てくれるとブルーオーシャンの広がりがあると思うので、その点は期待したいですね。

中島: そうですね。工学の立場からだと、今までに宇宙で使われていない系統の人が来てくれると、そこから広がっていく技術もあると思うので、面白いと思います。

吉田: 普段会うことがない人に会えたり、見ることがないものを見られたりという機会はあまりないので、研究者の方々にはそういった状況に身を置く機会を持ってほしいと思います。

最後に、皆さんからメッセージをお願いします!

小田切: きっと面白いので、ふらっと来てほしいです。

中島: そうですね。企画チームとしては、色々な人と色々な話ができる場を頑張って準備しているので、ぜひ来てほしいです。

河原: 面白くなる自信はあります!

中島: 少なくとも、企画チームは絶対に面白いと思って準備しています!

吉田: 研究者という仕事は楽しみを見つけることも才能の一つだと思っているので、自ら面白いものを見つけるつもりで来てほしいです。企画チームは楽しみを見つけるための仕組みを作って待っていますが、もし今年見つからなければ、来年はぜひ企画側に回っていただきたいです!

7月31日(水)・8月1日(金)は、ぜひ宇宙科学研究所に足を運んで、日本の新しい技術とサイエンスを体感してください!

※参加には事前申し込みが必要です。詳しくは第25回 宇宙科学シンポジウムにてご確認ください。
※参考リンク:あいさすGATE| 第25回 宇宙科学シンポジウム:ポスター展申し込み・参加登録を開始しました!

JAXA宇宙科学研究所長 藤本正樹より

え?河原ってこういう雰囲気だっけ? 💦

この企画チームはずいぶんとのびのびと仕事をしてくれたみたいだ。実際、「のびのび」は今後の宇宙科学研究所の発展を占う上でキーワードとなるのではないか。何かやりたいと思った時に、眉間にしわを寄せて「ここまでやらないと意味がない」と議論し、「そのための予算が足りない」と嘆く話になりがちで、しかも、それが「大人の道」であると思われているようだ。

たしかにちゃんとできる道筋を考えることは大事だが、それだけだと「面白いことをやりたい」という気持ちが萎えるだけではないか。「日本で宇宙科学をやる」という状況を真正面から捉えれば、小さい車で山道を駆け抜ける楽しさを忘れてはいけないのではないか。

関西人でもないのに「やってみなはれ」と言い出す副所長「仲間を再生させる」と宣言する研究主幹、廊下で3名程が集まって何かを相談する30代職員の姿。宇宙研では何かが新しく起きつつある。
シンポジウムで噴火でっか? :‑)

用語解説

  • *1 JAXA-SMASH:産学官による輸送・超小型衛星ミッション拡充プログラム(JAXA-Small Satellite Rush Program)。大学、企業、JAXA が連携し、革新技術にも挑戦する超小型衛星ミッションを、民間小型飛翔機会を活用して実現するとともに、輸送サービス多様化を促す研究開発プログラム。
  • *2 JAXA相模原キャンパス特別公開:JAXA相模原キャンパスで年に一度行っている一般向けの特別公開。講演や展示を通じて、研究の紹介を行っている。今回の宇宙科学シンポジウムはこの特別公開の「研究者向け」のようなものになるとのこと。

関連リンク