写真で振り返る、観測ロケットSS-520-3号機
~野中聡氏・佐藤峻介氏インタビュー~

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2021年11月4日11時09分25秒(現地時間)、「極域カスプ上空に発生する電離大気流出過程の研究」を目的とした観測ロケット*1SS-520-3号機が、ノルウェーの地から見事に打ち上げられました!

SS-520-3号機観測ロケット実験は、地球で電離大気の流出が起きているカスプ領域において、電離大気流出のメカニズムを解明することを目指したミッションです。電離大気の流出は、高度700km以上で効果的に起こることが予想されているため、本実験には最高到達高度が700kmを超えることのできる2段式のSS-520観測ロケットが使われましたが、カスプ領域を通過するようにSS-520観測ロケットを打ち上げることのできる射場はノルウェーのスヴァーバル諸島スピッツベルゲン島のニーオルスン実験場しかありません。

観測ロケットSS-520-3号機実験*2については、宇宙科学研究所HPのギャラリーページ「ノルウェーより-Norway-」や、ISASニュース2021年12月号の表紙で、現地の美しい写真が紹介されており、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
本記事では、野中聡准教授と佐藤峻介氏をお呼びして、ノルウェーで撮影した写真を見ながら、観測ロケットSS-520-3号機実験について振り返っていただきました。実験の様子だけではなく、現地でのプライベートな時間の過ごし方についても紹介していただきました!

ニーオルスン滞在中に迎えたハロウィンにて*6。左:野中聡氏、右:佐藤峻介氏。こっちが本当の姿という噂も…!?

野中 聡(宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授)
観測ロケットSS-520-3号機実験には保安主任という立場で参加。ISASニュースの表紙に掲載された打上げ写真を撮影。

佐藤 峻介(宇宙科学研究所 観測ロケット実験グループ 研究開発員)
観測ロケットSS-520-3号機実験にはタイマ点火管制班として参加。ノルウェーでの打上げは初めて。

ニーオルスン滞在中に迎えたハロウィンにて*6。左:野中聡氏、右:佐藤峻介氏。こっちが本当の姿という噂も…!?
SS-520-3号機の打上げ風景:野中聡撮影
(ISASニュース表紙にも掲載)

観測ロケットSS-520-3号機といえば、ISASニュースの表紙や宇宙研HPで掲載された、打上げ写真がとても印象的です。この写真は野中先生撮影と伺いましたが、どのようにして撮影されたのでしょうか。

野中: これはカメラが勝手に撮ってくれたんです(笑) 私は保安主任という立場で、打上げ時は最終の打上げ判断やロケットの軌道の確認をするので、当然カメラを手に持って撮影ができる状況ではありません。事前にロケットが飛ぶ方向を算出してもらい、ここなら綺麗にロケットの軌跡が映るだろうという場所に、30秒毎に自動で撮り続ける設定にしたカメラをセットしていたんです。実際にどのタイミングで撮影されるかは分からなかったんですが、ちょうどロケットがランチャーから発射された直後30秒間の写真が上手く撮れていました。この写真が撮れたのはたまたまでしたが、実験のアピールにも貢献できましたし、どういった環境でロケットを打ち上げているのか知ってもらえる良い写真になったと思います。「保安主任なのに写真を撮っていたのか」と誤解されると困るので、撮影者は公表しないようにお願いしていたのですが、いつの間にかバレてしまいましたね(笑)

SS-520-3号機打上げ風景:佐藤峻介撮影

佐藤さん撮影の打上げ写真は、どのように撮影されたのでしょうか?

佐藤: 元々、広報活動なども含めて写真撮影の計画や依頼があった訳ではないんですが、やっぱり打上げはカメラに収めておきたいなと思い、打上げ準備作業で動けなくなる前に建屋の外にスマホをセットしておきました。僕がいたのはロケットに最も近い建屋なので、至近距離での撮影だったんですが、無事に打ち上がる様子を撮影できて良かったと思います。自分の中では殿堂入りの写真ですね。

ノルウェーでは体感温度が-30℃になる日もあったと伺いましたが、日本とは異なる環境で大変だったことはありますか?

「この先ホッキョクグマ注意。武器携帯のこと。」の標識

佐藤: 屋外で機材を運搬する際には、パッキングを丁寧にしたり、屋内との気温差で結露が出ないようにしたり、様々なことに気を付けながら作業を進めていました。滞在していた町(ニーオルスン*3)の至る所にホッキョクグマの標識があって、標識から一歩でも外へ出る時は、必ず銃を持った人と一緒でなければならないと厳しく言われていました。何かを運搬する時や、どこかへ行きたい時に、一緒に来てもらうように依頼しなければならないのは大変でしたね。

国内・国外での打上げ作業に違いはありましたか?

SS-520-3号機の全体像

佐藤: 現地、ノルウェーの担当者のみが扱える機器があるため、細かな操作をお願いしながら協力して作業を進めました。日本なら、流れや意図を理解しあえているので、詳しく説明をしなくてもスムーズに進めることのできる作業も、ノルウェーチームとはきちんとコミュニケーションを取りながら調整をしていて、日本ではあまり見ない光景だなと感じましたね。また、射場の違いから出てくる課題もありました。個人的に気掛かりだったのは、チェックやロック解除の信号を送るケーブル。直前までロケットに接続されていて、打ち上がると自然に機体から外れて巻き取られる仕組みなんですが、日本とノルウェーではランチャーに取り付けられた巻き取り装置の設置方向が異なるため、ケーブルの巻取りが上手くいくか心配がありました。もしかすると尾翼に接触する可能性もあり、この部分に関しては、未経験の打上げ項目として、注意深く時間をかけて調整しました。

作業の様子

野中: 国外での打上げは、人の違いと射場の違いがありますよね。日本チームだけではなく、ノルウェーチームとうまく連携できるかが1つの関門。慣れた人同士で普段通りの作業を行う状況ではなくなって初めて、気づかされることもあります。当然ノルウェー側とは事前の調整をしていますが、いざ現地に行くと出てくる課題などもありますし、そもそもケーブルの巻取りのように、現地でやってみなければ判断できないこともあります。そういった大変さは当然ありますが、日本でのやり方とは異なる場面もあり、非常に刺激を受けますし、安全の考え方や打上げウィンドウ*4の設定方法など、参考になることも多いので、ロケットを打ち上げる人間としては、国外で打ち上げる機会があることはとても良いことだと捉えています。

打上げ当日(11/4)の様子は?

打上げ前に見られた紫色の発光現象

佐藤: 11/2に発生した太陽フレアのおかげで11/4は磁気嵐となり、観測条件が満たされる可能性が高かった*5のですが、風が強くてなかなかロケットを飛ばせませんでした。

野中: 徐々に風も収まりつつありましたが、予定していた打上げ時間帯を超えてしまいそうだったので、「今日はなしかなぁ。」と。ところが、聞こえてくる周りの会話では、どうやら打上げウィンドウを延ばす話をしているような…。でも、「英語なので聞き間違えたかな?」なんて思っていると、打上げ時間延期の通知が。「え、そんなことできるの!?」と驚きましたね。僕はコントロールセンターの隣室で待機していたので、会話などから何となく状況を把握できていましたが、ロケット近くにいた佐藤君は恐らくもっと驚いたんじゃないでしょうか?

佐藤: そうですね。ノルウェーのチームメンバーとも「今日は、もう打上げないだろう。」と話していました。すると突然、打上げに向けたカウントダウンを進めるというアナウンスが流れて、慌てましたね(笑)

野中: ノルウェーチームは理学的な理解も深く、「今日はすごく条件が良いんだろ?じゃあ何とかしてやるよ」と、最高の条件で打上げができるよう柔軟に対応してくれたようです。

打上げ成功時に、野中先生が泣いていた!?という噂もありますが、打上げ時の気持ちについてお聞かせください。

野中: 泣いてないっつーの(笑) 今回使用されたSS-520は2段式ロケットですが、実は私も打上げ経験が少なく、今回が3回目の挑戦だったんです。1段式の打上げ経験は何十回とあるので、1段目がちゃんと飛ぶ確信は十分にあったんですが…。2段目についても、もちろん機体や軌道の設計が正確にされているという自信はあるんですけれども、一方で経験の少ないSS-520では不安に思う気持ちもあり、すごく気にしながらロケットの軌道を映し出すモニターを確認していました。モニター上で確実に2段目が飛行していると分かった時は、やっぱりすごく嬉しかったですね。特に今回は風の予測もばっちりで、予定軌道にぴったり沿って飛行していたんですよ。「軌道は完璧です。」と藤本正樹副所長に報告した時は、相当嬉しそうな顔をしていたんだと思います。その時に、涙がこぼれたかどうかは覚えてないですけど(笑)

佐藤: 僕はタイマ点火管制班だったので、様々な火工品の健全性を確認しながら、打上げへ向けてアンビリカルケーブル(発射準備のための電源や信号を供給するケーブル)の接続や、安全のために何重にもかけられている点火ラインのロックの解除を実施していきました。今回は打上げウィンドウが延期されるという予想外の展開もあって、打上げまでのカウントダウンが映し出されるモニターを見ながら少し焦りつつ作業を進めており、かなりの緊張感の中、正確にかつ迅速にノルウェーチームとコミュニケーションを取りながら操作しなければならなかったので、しびれましたね。打ち上がれば出来ることは何もないんですが、制御信号が正常に出てるかはすごく気になっていて、完璧に信号が出ていることを確認できた時は、やっぱり嬉しかったです。観測ロケットを打ち上げる時はいつも、火が点いてドンと音が聞こえるまで、「やり忘れた事はないか?」とか「これで、本当に火が点くよな?」と、様々なことを頭の中で巡らせながら作業をしています。

野中: 実は、観測ロケットは実験に合わせて設計を毎回微妙に変えているんです。自信をもった設計とはいえ、実際に打ち上げるのは初めてなので、最後の最後まで心配し尽くすことも大切だと思っています。

楽しそうな写真もいくつか拝見しました。長期間のノルウェー滞在で、実験以外の時間はどのように過ごされていたのですか?

JAXAチーム+アンドーヤスペースセンターチームで打上げをお祝いする様子*6

佐藤: 毎週土曜日の夜に、各国やチームが持ち回りで運営するバーが開かれるんです。JAXAチームはちょうどハロウィンの日に指名されたので、バーテンダーをしました。普段は淡々と仕事をするノルウェーの方々も、この日は楽しくいろんな人と話しをしてくれたので、とても楽しい時間でした。

野中: 僕は、毎日散歩していましたね(笑) 特に、ニーオルスンへ入る前のオスロでの隔離期間中はよい気分転換になっていました。隔離期間中でも多少の外出はOKだったので、毎日1人で軽く散歩したりジョギングしたりしながら、日本とは全然違うノルウェーの雰囲気を味わっていました。

SS-520-3号機の形のケーキ

佐藤: ニーオルスンでも、-17℃という極寒の中で開催されたマラソン大会に参加しました。野中さんが2位で僕が3位。流石、隔離期間中から毎日走っているだけあって、野中さんは1位の人にも負けないくらいの速さでした!
打上げ成功の夜は、食堂の人達の計らいでロケットの形をしたケーキなんかも用意され、JAXAチームで祝杯をあげていたら、協力してくださったノルウェーのアンドーヤスペースセンター*7のメンバーもお祝いに来てくれて、すごく思い出に残る1日でした。大変な環境の中で、調整や協力を一所懸命にしてきた結果がこの写真1枚に表れているなと思います。

最後に一言

佐藤: 振り返れば楽しい思い出や写真がいっぱいですが、現地に行くまで分からないというヤキモキした気持ちや不安を抱えながらの準備、現場で求められる迅速な対応など、大変だったことももちろんありました。そんな中で、皆さんと協力しながら打上げを成功させることができて本当によかったし、すごくよい経験になりました!

野中: 今回の観測ロケットSS-520-3号機実験は、コロナ禍での実施ということで大変なことも多かったかと思いますが、実験主任の阿部琢美准教授、研究代表者の齋藤義文教授、観測ロケット実験グループ長の羽生宏人准教授をはじめ、実験のために尽力してくださった方々に、心より感謝を申し上げます。ノルウェーメンバーの協力的な姿勢もすごく印象に残っており、またいつか一緒に楽しく仕事が出来ればなと思っています。海外での打上げは、難しい一面もありますが、若手にとってはよい学びの場になると思うので、こういった機会が継続的に実施されることを願っています。


  • *1 観測ロケット:衛星打上げ用のロケットと異なり、ロケット自身が宇宙空間を飛びながら落下するまでの間に観測を行う。実験終了後、観測装置およびロケットは海上に落下する。通常、1段式または2段式構成であり、今回のSS-520-3号機は2段式観測ロケット。
  • *2 観測ロケットSS-520-3号機実験:実験についての詳細はhttps://www.isas.jaxa.jp/topics/002835.htmlを参照。
  • *3 ニーオルスン(Ny-Ålesund):ノルウェーのスヴァーバル諸島スピッツベルゲン島にある町。人が定住する世界最北の地。 Visit Svalbard – Ny-Alesund https://en.visitsvalbard.com/visitor-information/destinations/ny-alesund
  • *4 打上げウィンドウ:ロケットを打上げなければならない時間帯のこと。
  • *5 11月2日に太陽フレアが発生し、その際にHalo CMEと呼ばれる高速のプラズマが太陽から地球に向かって放出された。そのプラズマが打上げ前日の夜に地球に到達したおかげで、地球の磁気的な活動が非常に活発になる磁気嵐が発生。電離大気の流出は、地球の磁気的な活動が活発になればなるほど起こりやすいため、SS-520-3号機観測ロケットを打ち上げるための観測条件が満たされる可能性が高い状況であった。
  • *6 出発前に日本国内で2週間、ノルウェーに到着後オスロで約10日間の隔離期間、また各移動の際にPCR検査を受け、全員陰性であることを確認したうえでニーオルスンへ。 外部との接触もないため、現地ではマスク着用なしでの活動が認められていた。
  • *7 アンドーヤスペースセンター(ANDØYA SPACE CENTER (ASC))https://nifro.no/en/portfolio-item/andoya-space-center-asc/

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