人文社会科学×宇宙の邂逅
~立命館大学MOT大学院プラクティカムを終えて~ インタビュー

名前・所属

左から、「プラクティカム」参加の立命館大学MOT大学院生の福島朋也氏、笹澤耕平氏、指導教員の立命館大学 湊宣明教授

2022年1月20日、立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科(MOT)大学院生2名による、プラクティカム成果報告会が実施されました。
プラクティカムとは、「課題解決型長期企業実習」のことで、立命館大学MOT大学院では正規科目として実施されています。仕事を体験するインターンシップとは異なり、大学院で学んだMOT*1の理論や手法を適用し、企業が実際に直面している課題に対して解決策を提案することで、様々な実践力を育成することを目的としています。

成果報告会では、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)が提示したテーマ(「外部資金獲得に関する調査・分析及び提案について」)に対し、幅広くインタビュー調査を実施し、その結果を分析した上で、具体的な課題解決策が提案されました。
質疑応答では前向きなコメントが多数寄せられ、参加したISAS職員から高い評価を得ていました!

本記事では、成果報告会を終えてほっとしている大学院生2名と、彼らの指導教員、そして受入担当のISAS職員に、プラクティカムに携わった半年間の苦労や思いについて語っていただきました!

笹澤耕平(立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科/湊宣明研 修士課程1年)
大学時代は情報学部に所属し、プロジェクトマネジメントについて学んだ。企業と密接に関われるプラクティカム等を経験し、社会に出るときの自信に繋げたいと立命館大学MOT大学院進学を決意。

福島朋也(立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科/湊宣明研 修士課程1年)
大学時代はスポーツ健康科学部に所属。マーケティングを学びたいという気持ちから立命館大学MOT大学院に進学。分野や領域を絞られずに研究テーマを選択できることに魅力を感じ、湊研に所属。

湊宣明(立命館大学大学院テクノロジー・マネジメント研究科教授)
2000-2003年に宇宙開発事業団(NASDA)、2003-2009年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属。プラクティカムでは大学側の担当教員として、学生2名の指導を行った。

渡辺拓真(宇宙科学研究所 科学推進部 主任)
ISAS科学推進部産学官連携企画チームのリーダー。プラクティカムではISAS側の受入窓口を担当。

プラクティカムは、立命館大学MOT大学院の看板科目だと伺いました。2人も入学前から履修を決めていたとのことですが、数ある受入企業の中から、JAXAのテーマを選んだ理由を教えてください。

笹澤: 福島は第1希望だったんだよね?

福島: JAXAを第1希望にした理由は2つありました。権威ある国立の研究機関が、プロジェクト管理やミーティングなど、どのように仕事を進めているのか知りたかったというのが1点目の理由です。2点目は、外部資金獲得に関するテーマだったこと。日本の宇宙科学を推進するために、どういった戦略やアウトリーチを行い、予算を獲得しているのか、興味を持ちました。

笹澤さんは第一希望ではなかった?(笑)

笹澤: (苦笑)。興味はあったんですが、これまでJAXAに関わる機会がなかったので、自分の中でハードルの高い存在になっていて、第1希望は出しませんでした。他企業とは一線を画す、全く別物というイメージでした。テレビでも取り上げられる研究機関で、純粋にかっこいいなと思っていたので、マッチングが決まったときはすごく嬉しかったです。実際にJAXAとのプラクティカムに取り組み、会議進行や時間の使い方に無駄がなく、期待通りの学びが得られたので、とても満足しています。

今回2人が取り組んだテーマは「外部資金獲得に関する調査・分析及び提案について」。
具体的には、「宇宙科学研究所において競争的資金、寄附等の新たな外部資金獲得の上で訴求力のある研究テーマ・内容をMOTの知見により分析・抽出するとともに、新たな競争的資金やクラウドファンディング等の民間サービスの活用等も含めた具体的な獲得方法を比較・分析し、提案いただく。また、大学などのIR(Institutional Research)*2・URA(University Research Administrator)*3に係る体制・戦略等について調査・分析し、JAXAへの適用可能性について提案いただく」という内容でした。
このテーマを設定した狙いは?

渡辺: ISAS内でも、研究や技術のマネジメントに課題を感じており、そういったテーマであればプラクティカムとの親和性があると思いました。マーケティングや商品化を扱うMOTの世界と学術研究には少し距離があるかな…と不安もありましたが、ISASらしいテーマとなるよう検討していました。

湊: これまで、JAXAとのプラクティカムで様々なテーマを扱いました。今回は、受入担当部署がISAS科学推進部ということで、どんなテーマになるのか楽しみにしていたんです。テーマの核心は外部資金獲得でしたが、渡辺さんと相談しながらスコープを絞り、具体的な内容まで設定しました。テーマとMOTの得意分野との親和性は、非常に高かったと思います。

実際にテーマに取り組んでみて、どうでしたか?

笹澤: 確かに、MOTとテーマの親和性は高くて、序盤は順調に進めていけそうだと思いました。

福島: 実務への還元を強く求められる、難しいテーマ設定だと感じました。ただ、インタビュー調査が中心の序盤は、順調に進みました。大変だったのは、訴求力のある研究テーマを抽出する手法として、テキストマイニング*4を用いたことです。授業では学んでいない手法で、湊先生から助言をいただき、2人で学びながら試行錯誤を重ねました。テキストマイニングに関する論文は、学術分野にも多く存在しますが、実務に適用するには乖離があり、調整作業に苦労しました。

笹澤: いくつかのプログラミング言語を学んで、テキストマイニングで試しましたが、全然使えなかったり、変更が重なったりして、「あぁ…。今まで勉強してきた言語が使えなかったなぁ…」といったこともありました。独りよがりな結果を出すだけでなく、JAXAにとって価値のある分析結果を出すという部分に、授業とは違う難しさを感じました。

湊: 彼らの場合、序盤はとても順調でしたが、インタビュー調査が順調に進んだことで若干の中だるみが見られたので、「これは教育上良くないな…」と新たなタスク(=テキストマイニングによるデータ解析)を与えたんです。2人に解析研究の経験はなかったので、基礎から手法を学んでもらいました。私の研究室の修了生が執筆した修士論文を参考に、2人で手法を見出し、適用し、どうしても難しい部分は修了生から直接助言をもらって…、大晦日だったかな?Zoomで相談していましたね。課題を切り分けて解きやすい大きさにする部分は私もサポートに入りましたが、それをどう解くかという部分は、2人で話し合いながら乗り越えていました。

ISAS側の窓口は渡辺さんが担当されたとのことですが、どのような関わりがありましたか?

渡辺: 決定したテーマを募集告知する説明会が最初の関わりで、その後、7回程度の打合せを行いました。想定よりも濃密な関わりがあり、我々にもたくさんのメリットがありました。共有していただいたインタビュー結果や中間成果を、ISAS内の業務改善のために反映したこともありました。

笹澤&福島: うれしかったですね!

笹澤: 「本当に、業務改善に取り入れてもらえるんだ!」と、ちょっと感動しました。

プラクティカムに取り組む中で大変だったことは?

福島: JAXA側へ送付する資料について、ただ情報を羅列するだけでなく、表にまとめたり、体裁を整えたりする作業が、思ったよりも大変でした。

笹澤: 渡辺さんとのメールは福島が担当でしたが、送付前に何度も湊先生と相談していました。

福島: 直接お会いしたこともなかったので、当然ですが“丁寧に”と心掛けていました。

渡辺: 社会人としての事前経験を得ることも、プラクティカムの趣旨の1つと伺っていたので、しっかり気を使われていると思いましたし、湊先生からもご指導があったのだろうと推察していました。

湊: 最も力を注いでいました!就職活動を見据えた時に、立ち居振舞いやグループワークを通して、「やはり立命館大学MOT大学院生は他の学生と違うな」という評価を得てほしいので、一定のクオリティに達さなければ、JAXA側へは送らせないという指導をしました。彼が辛かったのはそこですかね(笑)

福島: 平均2~3回、成果報告会のスライドは9回程、湊先生から差し戻されました…。でも、それが不満だった訳ではありません。これまでの資料を見比べると、成長していることも一目瞭然で、膨大な情報を簡潔にまとめる力はかなり身に付いたと思います。

渡辺: そこまでされていたとはつゆ知らず…!ありがとうございました。

成果報告会はどうでしたか?

2022年1月20日開催の成果報告会の様子

笹澤: 成果報告会の発表資料は、直前まで修正を繰り返しており、あまり満足できる完成度ではなく、発表に臨むときも不安が5割という感じでした。良い評価もしていただき、ほっとしましたが、まだ改善したいと思うところはありました。

福島: 質疑応答に答えられるか心配でしたが、答えられる範囲内で精一杯努力できたし、誇張しすぎず回答できたのは良かったです。当日は、湊先生に助けていただいた部分がありましたが、理想を言うと2人だけで対応できれば完璧でした。

2人が出した成果は、湊先生から見ていかがでしたか?

湊: 期待をはるかに上回るアウトプットを出してくれました!2人に最も経験してほしかったことは、JAXAスタイルだったんです。宇宙開発で培われた仕事の進め方は、文書規定や会議設定を抜かりなく行い、失敗の可能性を最小限にして、サクセスを確実なものとします。これこそがマネジメントの力であり、どんな場面でも応用でき、参考になると思っています。渡辺さんから、サクセスクライテリア*5の考え方も教えていただき、自分で決めた評価指標をもとにPDCAを回すといったJAXAスタイルな仕事の進め方を伝えられたと思います。ISASだから出来た挑戦もありました。ギリギリのタイミングでも、テキストマイニングへの挑戦が許されたのは、チャレンジするカルチャーが培われてきたISASだからこそだと感じています。

福島: 今回のプラクティカムでは、ミニマムサクセスで終わってしまったものもありましたが、ある程度想定内だったのか、それとも期待していたが達成できず残念だったのか、渡辺さんに伺ってもよいですか?

渡辺: 自ら立案、計画、評価していただきたいという趣旨でサクセスクライテリアの考え方を紹介しました。なので、達成するか否かという予想は当初からしていません。ただ、テキストマイニングという我々の想定を超える分析提案をしていただいたことは、まさにエクストラサクセスの部分でのチャレンジでした。実務に繋がるかという部分は別としても、不断に取り組み、様々な分析手法を試し、悩み、検討したという経験自体が、ある意味このプラクティカムの中でのエクストラサクセスだったのかなと思います。

インタビューや発表などを通して、多くのJAXA/ISAS職員と接する機会があったと思いますが、どのような印象を受けましたか?

本インタビューの様子。左下から時計回りで、湊教授、福島氏・笹澤氏、インタビュアー藤田氏、ISAS渡辺氏

福島: ISASは「はやぶさ」プロジェクトを遂行されていたので、研究者が多いのだろうと思っていましたが、研究をサポートする科学推進部の方々が多いことに、少し驚きました。話してみると、ユニークな方が多い印象を受けました。

笹澤: 優しいなという印象です。打合せでは必ず褒めてもらえたので、「期待に応えたい」と頑張るモチベーションに繋がりました。成果報告会では、これまで何度も打合わせに参加してくださった科学推進部の方々に仲間意識が芽生え、見守ってもらえる感じがして、緊張が和らぎました。暖かい方々でした。

渡辺: 実は、私も学生時代にJAXAのインターンシップに参加したんです。当時の受入職員が、多くの職員に引き合わせてくれたことが印象に残っていました。それもあって、他の職員にも打合わせに参加してもらえるよう私から声をかけました。成果報告会では、所長をはじめとするISAS執行部にも参加を依頼しましたが、社会人になれば社長や専務の前で説明する機会も訪れるかと思い、プラクティカムの趣旨も踏まえて、少しハードルの高い経験もしていただこうという思いからでした。

JAXAと関わったことにより、宇宙科学分野への印象は変わりましたか?

笹澤: 変わりましたね…。今までは宇宙に関するニュースを見ても、「なんかすごいことやってるじゃん」くらいの感覚でした。こういう機会がなければこんなにも真剣に宇宙と関わることはなかったと思います。宇宙プロジェクトに取り組む方々の仕事の仕方を学べたことは役立つ経験だと思います。ニュースを目にしたら、詳しく読んでみたいなと興味が湧く程度にはなりました (笑) これまでとは違う視点で宇宙を見ちゃいますね。

福島: プラクティカムを通して、様々なプロジェクトを知ることも出来ましたし、宇宙と実生活の関わりも実感できました。民間企業の宇宙業界進出が話題になり、宇宙ビジネスが盛んになりつつある時に、JAXAと関われたことは非常に貴重な経験でした。

渡辺: 文理融合学部や文系学部出身の方が働くという視点で、JAXAはどんな職場に見えましたか?

笹澤: 科学推進部は、研究を進めるための支援をする部署なので、他分野の知識を横断的に学び、結びつける役割が必要だと思いました。就職できるかは別として、もしかして文理融合のMOTを学ぶ自分も働けるのでは?と感じた部分はありますね(笑)

福島: 一般の就活生からすると、JAXA/ISASで活躍する経営管理系職員の存在が分かりづらいです。宇宙というと研究開発系のイメージが先行するので、経営管理系職員の活躍が分かれば、親しみを持つ人も増えると思います。プラクティカムを進める中で、URAやIRの重要性も高まりつつあり、実際には文系学部出身の職員も非常に活躍されている印象を受けました。実際の様子と、外部からの印象にギャップがあるかなと思います。

渡辺: 2人の印象や、成果報告会での提案も踏まえながら、外部資金獲得強化について、我々なりのメリハリある体制づくりを考えていきたいです。

最後に全体を通しての感想を

湊: 2人は、最初からチームワークが良かったわけではないんです(悪くもなかったですが)が、1人の力では乗り越えられない課題を与えた際に、協力してお互いの良い部分を活かしあうようになりました。チームとして仕事をするという部分にすごく成長を感じました!

笹澤: まだまだ世間を知らない未熟者ですが、並大抵のことでは挫けないと感じています。「2人で頑張ってきて、これだけのことをしたんだぞ!」ということが自信になりました。学んだこともたくさんありますし、精神力も鍛えられましたし、やり遂げた達成感があります!ありがとうございました。

福島: まずはこの経験を大学院の研究に活かしていきたいです。就職活動でも、並大抵のことでは挫けないと自信になりました。サクセスクライテリアの設定など、仕事や日常生活でも実践できることは、これからも活かしていきたいです。

渡辺: 半年間の関わり合いの中で、参考にさせていただくことも多く、実際にそれを取り入れた業務改善も進めています。成果報告会でいただいた内容も踏まえて、来年度以降も外部資金獲得や研究支援体制の改善を図っていきたいと考えています。面白そうな取組みだと思った提案は、個人的にも勉強し、JAXAの改善や宇宙分野のさらなる発展に繋げていきたいと思います。


  • *1 MOT(Management of Technology):技術経営のこと。広義では、技術にかかわる企業の経営のこと。立命館大学MOT大学院は、MOTの視点に立ったうえで、技術を基盤とするとともに、技術開発やイノベーションの創出を重視する企業を研究の主たる対象としています。
  • *2 IR(Institutional Research):教育機関において、運営上の意思決定および計画立案に必要な情報を収集・分析・提供する機能。
  • *3 URA(University Research Administrator):大学などの研究組織において研究者および事務職員とともに、研究資源の導入促進、研究活動の企画・マネジメント、研究成果の活用促進を行って、研究者の研究活動の活性化や研究開発マネジメントの強化を支える業務に従事する人材。
  • *4 テキストマイニング:大量のテキストデータから、意思決定に必要な知識等を発見するために用いる手法。「文章の内容の分類」や「単語の出現頻度の規則」などから、個々のテキストを読んだだけではわからない知見を獲得できる。
  • *5 サクセスクライテリア:ミッション目標に対する達成の度合いを計るための基準。JAXAでは、それぞれのミッション目標に対して、3段階のサクセスレベル(ミニマムサクセス、フルサクセス、エクストラサクセス)を設定する。目安としては、ミニマムサクセスが60点(可・合格)、フルサクセスが100点(優)、エクストラサクセスが100点越え(秀)のイメージ。

ISAS関係者からひとこと

左から、丸山拓馬氏、津田美紀氏、早川俊章氏

早川俊章 宇宙科学研究所 科学推進部 参事
月1回2時間で7回程度の会合でしたが、学生さんとのやりとりは新鮮でした。また、科研費の採択件数が右肩上がりの立命館大の取組は興味深く、実際、新たな支援策検討の参考になりました。宇宙研とは使命や状況も異なりますが、参考にできることは参考にして「宇宙研ならでは」のやり方で進めていけたらと考えています。今回の貴重な機会に感謝です。

丸山拓馬 宇宙科学研究所 科学推進部 主査
お二人に取り組んで頂いた「外部資金獲得」のテーマは我々実務者にとって積年の課題です。そのような難しいテーマに正面から挑んで頂いたことに感謝です。インタビューを通じた知見のご提供、テキストマイニング等を通じた研究テーマの探索は、私にとって大きな刺激となりましたし、お二人の研究の進め方には目を見張るものがありました。

津田美紀 宇宙科学研究所 科学推進部
約半年間のプラクティカム、本当にお疲れ様でした。どれも参考になることばかりだったのですが、特に、今回調査いただいた立命館大学のURAの方々が行っていらっしゃる研究支援活動は大変興味深く、ISASでも大いに参考にさせていただき一部来年度から試行することになりました。こちらから提供できるデータが少ないなか、様々な調査分析やご提案、本当にありがとうございました。

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