実験成功のカギは文献渉猟
~軽金属学会第141回秋季大会ポスターセッション軽金属溶接協会賞
受賞インタビュー:西遼太郎氏~

2021年11月12-14日に開催された軽金属学会第141回秋季大会ポスターセッションにおいて、西遼太郎氏(東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻/佐藤英一研 修士課程2年)が軽金属溶接協会賞を受賞しました!
ポスタータイトルは「低接合圧力下におけるTi-6Al-4Vの液相拡散接合」。航空機部品の製造コスト削減を目的として、液相拡散接合*1という接合技術に注目し、従来の3%程度の接合圧力でも長時間保持することによりTi-6Al-4V(64チタン)*2を接合できることを示しました。
今回は、実験のためにたくさんの文献を読み込んだという西さんに、自身の研究や受賞について、お話を伺いました!

実験について、具体的にどんな作業をするのか教えてください

軽金属溶接協会賞を受賞した西遼太郎氏

まず、2本のTi-6Al-4V棒(長さ25mm)の間にインサート材(厚さ~約20μm)を挟んで、少しの圧力で表面を密着させ、高温にした真空炉*3内でインサート材が溶けだし接合するまで待ちます。その後、走査型電子顕微鏡やX線を用いて強度解析を行います。確認するまでは実験結果の良し悪しが分からないので、「48時間も待ったのに、うまくいっていなかったら…」と、電子顕微鏡を操作するときは不安になりました。

研究で大変だったことは?

一番大変だったのは、インサート材の素材を決めるまでだったかと思います。当初使用予定だったAl(アルミニウム)では接合しないことが発覚し、1週間後の研究室meetingで次の素材を報告することになったので、必死に文献を読み漁りました。論文を読んで読んで読んで…でも分からなくて…
布団に入ってボケっとしていたら、ようやく自分の中で体系的な理解ができた瞬間があって、これならいけるぞ!と。そのときは、「自分、めちゃくちゃ天才じゃん!」と、鬼の首を取ったように自信に溢れていました(笑)

素材を決めるまでに1週間というのは、かなり短期間なように思いますが…?

東大では、大学4年時に配属された研究室で研究を継続するのが一般的ですが、僕はM1(修士1年)から佐藤研に入ったので、2年間で研究をまとめなければならなかったんです。素材を決めてから、1週間後には具体的な研究計画をプロモートすることに。良い結果が出て、軽金属学会への参加を決めたのも申込締切の1週間ほど前でした(笑)

素材を決めて、すぐに思った通りの結果が出ましたか?

ラッキーだったのもありますが、まずまずの結果が出ました。自分で言うのも変な話ですが、それまでに結構勉強したんです。素材選びの前から文献をたくさん読んでいたので、ある程度見通しを立てながら実験を進めていました。ただ、実験を進めれば進めるほど、自分の至らなさ、知識の足りなさを感じましたね。

具体的には、どんな文献を読んで勉強されたのでしょうか?

Ti-6Al-4VだけでなくTi(チタン)合金の基本的な性質、液相拡散接合だけでなく他の接合技術のレビュー論文や適用方法なども調べました。研究の意義や背景をきちんと理解するために、航空機やロケットのエンジンについても勉強しましたし、インサート材を決めるきっかけとなったのは、航空宇宙とは異なる分野で金属研究をしている方の論文でした。

受賞する自信はありましたか?

周囲はあったみたいです。受賞後、僕の研究をずっと見てきた研究室の皆からは、「当然の結果だね。」と。僕は正直なところ、同じ研究テーマの人には面白くても、世間の流行からは外れているのではないかと感じていましたが、賞をいただけたことで、自分の考えや研究意義を理解してもらえた実感が湧きました。

今回の受賞は、西さん自身の今後にどのような影響を与えそうですか?

他の学生よりも1年短い期間で受賞までこぎつけたことは、自信を得るきっかけになりました。卒業後は就職する予定ですが、何か新しいことを始めるときには、きっとこの自信が役に立つと思います。

最後に一言

今回の受賞は、決して自分1人では成し遂げられなかったと思います。佐藤英一先生をはじめ、戸部裕史先生、先輩のシェンさんなど、多くの方々のご支援により研究を進めることができました。普段は恥ずかしくて言えないので、この場を借りて、感謝を申し上げます。


  • *1 液相拡散接合:母材より融点の少し低いインサート材を接合界面に挟み、母材の融点より低い温度で接合部に液相を生じさせ、インサート材が母材から等温凝固することで、接合が達成される接合法。今回の実験では、母材にTi-6Al-4V、インサート材にCu-Niを使用した。
  • *2 Ti-6Al-4V:軽量かつ高強度な金属で、航空宇宙産業や自動車産業でよく利用される。Ti合金の中で最も需要が多い。
  • *3 真空炉:真空状態で加熱処理を行う装置。金属が酸化しないよう、真空で実験を行う。

受賞者のコメント

佐藤英一 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 教授
セラミックスと金属を組み合わせたハイブリッドスラスタのための異材接合の研究を進める中、ロウ付けを液相拡散接合に置き換えたらどうなる?というアイディアを発端として、Ti合金同士の新しい接合法に進化させることができました。この手法は、面白いだけでなく、外からも評価いただくことができ、よかったです。

戸部裕史 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 助教
チタン合金は軽量かつ高い強度を有することから、航空宇宙分野で特に需要が高まっています。加工性の悪いチタン合金の成形に対し、本研究の接合技術は非常に有益です。西くんは自ら進んで勉強し、課題と対策を考えながら研究を遂行してくれました。この研究成果が賞という形で評価されたことを大変嬉しく思います。

ONG Fei Shen 東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 博士課程3年
Structural components for aerospace applications are generally large and complex, making their manufacturing process highly challenging. One of the keys to address that is by innovating new joining methods; machining time and cost can be significantly reduced by joining simple components to realize large complex assemblies. Our recent findings have demonstrated a simple yet high-precision joining technique of Ti alloy without compromising the material’s mechanical properties necessary for maintaining high structural reliability. We are honored and grateful for this achievement, and believe that it will serve as a breakthrough technology to cater the development of next-generation advanced aerospace components.

受賞情報

受賞年月日 受賞者 受賞内容
2021/11/13 西遼太郎, Ong Fei Shen, 戸部裕史, 佐藤英一 軽金属学会第141回秋季大会 ポスターセッション軽金属溶接協会賞 「低接合圧力下におけるTi-6Al-4Vの液相拡散接合」