低重力下での超高速度衝突実験装置の開発に成功 ~クレーター直径に対する重力と標的粘着力の影響の解明~

木内 真人・立命館大学理工学部

小惑星は太陽系形成初期の情報が保存されていると考えられているため、小惑星の形成過程や進化史を理解することは太陽系の歴史を紐解くことに繋がります。微小重力環境である小惑星表面では宇宙塵・隕石・小惑星の超高速度衝突が継続的に起こっていますが、重力が衝突現象に与える影響については詳しく理解されていません。その理由として、異なる重力下で衝突実験を行える施設が世界的に見てもほとんどなく、重力の効果について調べた実験例が限られているからです。微小重力環境である小惑星表面での衝突現象を理解するためには、低重力下での超高速度衝突実験データを数多く取得する必要性がありました。

本研究では、JAXA宇宙科学研究所の大学共同利用装置である超高速衝突実験施設にある縦型飛翔体加速器に設置可能であり地球重力の0.04~0.07倍の重力条件を模擬可能な実験装置を開発しました。本装置を用いて、様々な粒状物質に対して低重力下での超高速度衝突実験を行った結果、粒径が大きい標的試料ではクレーター形成において重力の影響が支配的であるのに対し、粒径が小さい標的試料では粘着力の影響が支配的となることが明らかとなりました。重力と粘着力の影響が逆転する領域を実験的に観察し、その境界条件を定量的に決定しました。

低重力実験装置のセットアップ
低重力実験装置のセットアップ
(a)実験チャンバー内に組み立てた落下システムの写真 (b)落下システムの概略図
低重力実験装置のセットアップ
(a)実験チャンバー内に組み立てた落下システムの写真 (b)落下システムの概略図

研究概要

論文情報

雑誌名 Icarus
論文タイトル Impact experiments on granular materials under low gravity: Effects of cohesive strength, internal friction, and porosity of particle layers on crater size
DOI https://doi.org/10.1016/j.icarus.2023.115685
発行日 2023年7月5日
著者 木内 真人1, 岡本 尚也2, 長足 友哉3, 山口 祐香理4, 長谷川直5,中村 昭子4
1立命館大学理工学部, 2千葉工業大学惑星探査研究センター, 3東北大学大学院理学研究科, 4神戸大学大学院理学研究科, 5宇宙航空研究開発機構
ISAS or
JAXA所属者
長谷川 直(宇宙科学研究所 大学共同利用実験調整グループ)

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執筆者

木内 真人(KIUCHI Masato)
神戸大学大学院理学研究科にて論文博士(理学)を取得。宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所で研究開発員を経て、現在、立命館大学理工学部機械工学科で助教。

ISAS共著者からひとこと

筆頭著者の木内真人先生は2022年度末までISAS超高速衝突実験施設で研究開発員として大学共同利用業務を行いつつ、砂や液体に対するクレーター形成実験が可能な直径4.5mmの飛翔体を秒速6kmで加速可能な縦型飛翔体加速器に組み込める低重力環境下実験装置の開発を行ってきました。その成果として、Icarusに査読論文を提出し、この度、出版されました。

今回の論文により、低重力環境下実験装置の実験での実用性を示すことができました。また、低重力下での砂のクレーター形成において、砂の粘着力(粒子同士の摩擦力)の影響が無視できないことを初めて示しました。すなわち、低重力下で形成された砂のクレーターは地球上と同じ重力下で形成された砂のクレーターより必ずしも大きくはならないという重要な事実を世界で初めて示しました。

長谷川 直(HASEGAWA Sunao)
東京大学大学院理学系研究科博士課程修了
JAXA宇宙科学研究所 主任研究開発員
大学共同利用・超高速衝突実験施設担当