No.238
2001.1


ISASニュース 2001.1 No.238 

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ウェハーサテライト

齋 藤 宏 文


 衛星の機能を高く保ちながら衛星をコンパクトにすることは,1kgあたりの打上げコストが有意に高い状況では,宇宙開発の低コスト化にとって非常に有効です。衛星の小型化についての将来の夢を述べてみましょう。

 衛星のサイズを考えてみると,それを規定している要素には,二つの要素があります。一つは,衛星の表面に露出するアンテナ,観測機器等の開口面の大きさです。通信用の電波を送受信するために必要な面積であり,望遠鏡等に必要な口径です。最近では,複数の衛星を編隊飛行させて(formation flight),電波や光の干渉計を構成して全体としての空間分解能を高める工夫も考えられています。しかし,ある開口面積が必要であるというこの事実は,物理法則に規定されたものであり,克服するのがかなり困難です。

 二つ目の要素は,衛星内部に搭載される搭載機器の大きさです。こちらの方は,昨今のエレクトロニクスやマイクロマシンの技術によって,かなり小さくなってきています。第一の開口面の物理的な制約を受けない衛星,磁気ミッションでは,これらの技術進展によって衛星を劇的に小さくする事が可能です。例えば磁気圏の磁場や粒子を多点で同時に観測するミッションでは,このような超小型の衛星を,多数打ち上げることが有効になります。先に述べた編隊飛行による計画の一種であり,Geotail-2と呼ばれる計画が考えられています。

 その究極の小型衛星の姿は,図1のようなウェハーサテライトです。電子機器の機能はシリコンウェハーに微細加工されます。電力はシリコン太陽電池で発生できます。情報処理や通信機能はシリコン基板状の電子回路で行えます。光学,粒子,電波的なセンサーもかなりのものがシリコンで製造できます。機械的なジャイロセンサーもマイクロマシン技術によって製造できます。(これらをすべて1枚のウェハーに納めるというのは,正月のワインの飲み過ぎであって,実現化するときにはもう少し,個別な実装方法をとることでしょう。)こういった機能は,基本的には携帯機器に要求されているシステムオンチップ(一つの半導体チップの中に,センサー,センサー駆動回路,データ処理,メモリー機能,通信機能,電源制御機能等の電子機器システムの機能を埋め込む)の概念と,非常に近いものです。


図1 未来の「宇宙を舞うシリコンウェハ」      
   シリコンウェハ上に,衛星の必要とする情報,エネルギー,
   メカニクス機能が積極的に括り付けられるだろう。    

 ウェハーサテライトの中で,いわゆる電気の分野から一番離れたものが,推進系です。ここではマイクロマシンの技術を利用できます。現在,マイクロマシン技術で有名な東北大学の江刺研究室と,宇宙研の固体推進系の堀先生,徳留助手の共同研究で,図2のようなデジタル固体ロケットアレイの試作が行われています。1mm以下の固体推薬をあれい状に並べたマイクロ固体推進系です。点火させたい固体ロケットの格子点に着火電流を流して,点火させるわけです。こうすると,弁のリークの問題もなく,推力の制御も自由にできます。


図2 宇宙研の協力で,東北大マイクロマシングループが試作中の固体マイクロロケットアレイ。概略寸法10mmに,100個の微小固体ロケットが配置されている。左から,第1層のロケットノズル,第2層の推薬層,第3層の着火制御電子回路。これら3層を層状に固着する。               

 このようにして,開口面の制約をあまり受けないようなミッションにおいては,ウェハーサテライトが単独,もしくは編隊を組んでミッションを実行していく事が,将来には実現されるでしょう。今までのロケットや衛星が手工業的に1個1個製造されていったのに対して,マイクロエレクトロニクス,マイクロマシン技術は,バッジ処理によって多数個の製品を一挙に生産してしまいます。これによる衛星コストの低減効果は大きく,また,1個の衛星の故障によっても全システムの健全性があまり損なわれないロバストな宇宙システムにもなります。

(さいとう・ひろぶみ) 


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