No.238
2001.1


ISASニュース 2001.1 No.238 

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宇宙開拓時代の惑星探査
〜定常モニタ観測&秘境サンプルリターン〜

岡 田 達 明 


 20世紀の終わりの宇宙ステーション建設を皮切りに,人類は宇宙開拓を本格化した。最初は宇宙実験室レベルであったが,探査機を組立・試験する工場レベルになり,研究作業者とその家族の生活区域を含むコロニーまで発展していった。水星から小惑星帯までの惑星近傍や惑星間空間に数カ所のコロニーが建設され,宇宙船の寄港中の食料・燃料の支援,科学観測基地,探査機のデータリレー基地として機能している。小惑星帯以遠は食料供給源の地球から航行時間が長く,原発反対運動の煽りをうけて電力供給に課題があり,依然として小型無人探査機が往来するのみである。

 資源や運送,観光が21世紀の宇宙産業を経済的に支え,惑星科学はその恩恵に浴している。惑星探査機も地球上空の宇宙コロニーで作られる。今や20世紀のように,厳しい打ち上げ環境条件を何とかクリアした小型衛星が,ロケット打ち上げ失敗で海の藻屑と消える不安に苛まれることは無い。惑星近傍のコロニーでチェックを受けた探査機が目標観測ポイントや太陽系内の人類未踏の秘境からのサンプルリターンを目指して飛び立つ。1920世紀の地理学・考古学探査で未踏地への探検,古代遺跡の発掘などを通じて地球科学的理解が飛躍的に深まったのと同様な構図が,21世紀の太陽系の秘境探査,惑星進化の痕跡を辿る惑星探査に見ることができる。

 20世紀の惑星探査は短期間や,単独の観測点で行われ,惑星の外観について知識を蓄積した。日本のルナー・ペネトレータ式内部構造探査やセレーネ・多種リモセンによる月探査,のぞみ・火星大気探査,ミューゼス・初の小惑星サンプルリターンなどもキラリと光る画期的な探査であった。惑星科学の命題,原始太陽系の進化,惑星の形成・進化,火成活動やテクトニクス,惑星ダイナモ,大気進化とダイナミクス,生命の起源云々の研究は進展したが,ますます詳細・精緻なデータを必要とした。

 宇宙コロニー時代となり,宇宙航行の確実性が向上し,探査機の低コスト化が進んだ現在の惑星探査では,ペネトレータ方式や惑星ローバで設置された多数の観測点を用いた多点同時観測や定常モニタ観測,あるいは太陽系未踏地からのサンプルリターンによる地質調査・物質分析が主な手法となっている。以下では,各惑星で行われている主な惑星探査プロジェクトを紹介する。

 水星の北緯75度,地下10メートルには,常温一定で快適な地下基地がある。外の環境は厳しいが,地中に地震計,磁力計,重力計,傾斜計などの観測網を設置することで惑星ダイナモの究明や,太陽潮汐によって生じる水震や地殻の変形を測定し,内部構造を調べる。各観測点の保守点検は176日周期の朝・夕のみで,それに合わせて地質調査も行う。毎年,物資調達に多数の隊員が訪れ,一部が越夏隊として任務をこなす。リョウもその1人で,昨日はカロリス盆地の絶壁の石を拾ってきたと嬉しそうに言った。

 金星周回コロニーでは金星大気にバルーンを放ち,その運動と搭載観測器のデータをモニタし,解析する。最近の高温・腐食性大気に耐性のある材料や技術の確立により,宇宙船として降下し,グライダー式に大気中を滑空し,地表付近では潜水艇のように振る舞う探査機が建造され,今年度から就航した。「今後の主な探査は金星表面物質の採掘サンプルリターンです。金星特有のプルーム型テクトニクスを解明して,惑星進化の理解に繋がります」と,女性初の所長となったユウコは熱く語った。

 月面表側の最古の基地は,ITなどインフラや隕石衝突安全性機能の老朽化に伴い隣接する新基地に,月震観測網のデータ収集機能,月探査ローバでの採取試料や小惑星探査機の採取試料の分析システムなどの機能移転が済み次第廃止となり,アポロの遺品や発掘されたペネトレータ,月や小惑星の石コレクションを展示する博物館になることが決まったと,広報担当のケンは発表した。なお裏側の月面電波天文台は良質の観測を続けている。

 火星の衛星フォボスの地中基地では,フォボスを強制的に自転させた遠心力で擬似的な重力を作り出している。火星上に基地が無く,探査も進まないのは,火星が低温で砂嵐が頻発する悪条件に加え,未だに発見されない生命の痕跡を求める生命探査にとって,人類による汚染が禁物だからである。しかし殺菌・検疫法の発達で,無人ローバによるその場分析やサンプルリターン,ペネトレータ式内部構造探査などが5年前に本格化した。火星の古環境やオリンポス山など火山活動についての全貌が明らかになってきた。航法管制官のカナエによれば,フォボス基地は火星探査の出発点として,始源天体の宝庫の小惑星帯,外惑星,さらにカイパーベルト探査への玄関口として今後重要性を増してゆく。

(おかだ・たつあき) 


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